政治政策
ナンバーワン企業弁護士を激怒させた『東電救済法案』
久保利英明「私はなぜ東電と本気で闘うことを決めたのか」

久保利弁護士

「俺の40年の弁護士人生はいったい何だったのか。日本をまともな国にしようと、1つ1つ手直ししてきたはずだったのに、今回の原発事故1件でそれらがすべて振り出しに戻った感じがする」

 8月3日に成立した「原子力賠償支援機構法(支援機構法)」。東京電力の存続を前提にした同法に強く反対してきた久保利英明弁護士は怒りを露わにこう語る。

 コーポレートガバナンス(企業統治)の第一人者として、取締役の責任や株主総会のあり方などについて、多くの企業、経営者を指導してきた久保利氏。総会屋対策などを通じて上場企業の味方であり続けてきた剛腕弁護士が、放射能汚染の被害を受けた野菜農家や畜産農家などの代理人を買って出た。"ニッポン株式会社"の代表格とも言える東電に立ち向かう。企業からの人気ナンバーワンだった久保利氏を、そこまで怒らせたのはなぜか。

なぜ法的整理をしないのか

「原発事故の損害賠償に関する公正な処理を求める緊急提言」
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 法案が国会に提出された後、政策研究大学院大学の福井秀夫教授や大阪大学の八田達夫招聘教授らと共に「公正な社会を考える民間フォーラム」を結成。支援機構法案に反対し続けてきた。7月12日には「原発事故の損害賠償に関する公正な処理を求める緊急提言」を発表したが、マスコミはほとんど取り上げず、法案は与野党の賛成多数で成立した。

 福島第一原子力発電所事故後の東電のあり方を巡る議論で、久保利氏が真っ先に疑問に感じたのは「なぜ法的整理をしないのか」という点だった。

 与野党の議員に対し、法案をまとめた官僚たちは、法的整理をすると「被害者への迅速・適切な賠償ができない」「電力の安定供給ができなくなる」といった説明を繰り返していた。若いころから倒産法に通じ、多くの企業の破綻処理に携わった経験を持つ久保利氏から見れば、「まったくの嘘」がまかり通っていたのだ。

 「会社更生法は柔軟な法律で、裁判所さえ認めればかなり自由にできる。要はスキームの作り方次第。被害者への損害賠償が滞ることなどあり得ないし、電力供給が止まることなど考えられない」

 ところが、永田町も霞が関も「東電を生かせ」のオンパレード。法案の骨子は、大手銀行が作ったとされるスキームに経済産業省が乗っかり、海江田万里・経済産業大臣(当時)が主導する「東電救済まずありき」の法案となった。

 久保利氏からみれば、「地域独占にどっぷりと浸り、ガバナンスが利いていない会社に国民のカネをつぎ込むモラルハザードの最たるもの」だった。会社更生法が適用されれば、取締役はすべて退任となる。東電を存続させることはすなわち、経営陣を温存することに他ならない。

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