雑誌 ドクターZ
特別版 連日の最高値更新
金はいま売りか、まだ買いか

「安全資産」ではあるが「絶対安全」ではない〔PHOTO〕gettyimages

 金の価格が市場最高値を更新し続けている。さらなる値上がりを見越して貴金属店には客が殺到し、購入手続きまで6時間待ちの窓口もあったという。一方、買い取り専門店にはタンスの奥にあった装飾品ばかりか、金の入れ歯まで売りに来る人がいたようだ。

 実際、ここ1ヵ月くらいの値動きはまさにバブルと呼んでもいいレベルの上昇で、国際相場では3割近くも高くなった。世界経済が不安定な中、「有事の金」と言われる金のマーケットに安全志向の投資マネーが流れ込んだ結果である。

 過去の動きを見ると、ソ連軍によるアフガニスタン侵攻から間もない'80年の初頭に金価格は1トロイオンス(約31g)あたり700ドル近くまで急騰した。その後、地域紛争の影響などで一時的な値上がりもあったものの、おおむね下落傾向で、'01年には250ドル前後で推移していた。それが'03年以降の原油高を背景に高騰し始め、'08年には1000ドルを突破。リーマン・ショックで3割以上も値崩れしたこともあったが、その後の米国の度重なる金融緩和で再び上昇に転じ、この局面でとうとう1800ドルを超えて、さらに続伸する勢いだ。

 金の価格は'71年のニクソン・ショックまでは1トロイオンス=35ドルで固定されており、完全に自由化されたのは主要国が変動相場制に移行した'73年以降。もしも当時から金を持ち続けていれば価格は28倍(年収益率9%)になった計算で、この間の米国株式は11倍程度(年収益率6%)だから、値上がり率では金への投資のほうが勝っている。

 それにしても、なぜ人は金を求めるのだろう。一つには、金が希少資源だからだ。金そのものは、埋蔵量も産出量も流通量も著しく小さい。世界中の埋蔵量のうち、すでに4分の3が発掘されたと言われ、今後、供給増加になる可能性は少ない。そのため、長期的に見れば価格は上がると見るのが自然だ。

 もう一つは、かつて金がおカネそのものとして流通していた記憶が、人々のDNAに刻み込まれているからだろう。「金本位制」というシステムで、理念的には4世紀の東ローマ帝国時代にも存在していたようだが、法的には1816年の英国で生まれてヨーロッパ諸国に広がった。その後、第一次世界大戦や大恐慌の直後に一時的に通貨管理制に移行した時期もあったが、第二次世界大戦後に発足したブレトン・ウッズ体制(IMF体制)で定着し、ニクソン・ショックまで国際スタンダードとして続いていた。

 ところで、米国の大学で経済学を学ぶと、金と金本位制に関する寓話として必ず取り上げられるファンタジーがある。Somewhere Over The Rainbowの歌で有名な『オズの魔法使い』だ。原作は金本位制をめぐる政策論争がベースになっているというのだ。

 時は1896年、舞台は米大統領選挙。当時の米国はデフレの真っ最中で、東部の産業資本からの借金で開拓していた西部の農民はデフレによる債務の実質的増加に苦しんでいた。そのため大統領選の大きな争点としてデフレ対策が浮上し、民主党候補ブライアンは金本位制から金銀複本位制への移行による通貨の増大を主張していた。「人々を金の十字架にはりつけてはならない」というブライアンの演説は、アメリカ政治史上でも有名である。

 さて、オズの魔法使いである。オズ=OZは金オンスの略号、主人公ドロシーは伝統的なアメリカ人の価値観を表しており、能のない案山子は農民、心のないブリキ人形は産業資本、そして勇気のないライオンはブライアンのメタファーだとされる。黄色い煉瓦道は金本位制だ。

 帰り道を探すドロシーは、黄色い煉瓦道を単純に辿るのではダメだと知る。そして、魔法使いオズが役に立たず、その代わり自分の「銀の靴」に魔力があることに気づく。要するに作者のライマン・フランク・ボームは共和党が主張する金本位制よりも、民主党の金銀本位制を支持していた―という解釈である。

 ちなみに、実際の大統領選では共和党候補が勝利。金本位制は維持されたものの、1898年にアラスカで金鉱が発見され、さらに南アフリカからも金が流入した結果、デフレは解消された。貨幣流通量を増やすことがデフレ退治の有効策であることを、この事実は物語っている。

そろそろ天井?

 現在は金本位制でも金銀複本位制でもなく、より多くのおカネを作ることのできる管理通貨制だ。そして、おカネが増えれば、モノは相対的に希少性を帯びて価値が上がる。いま米国は金融緩和でドルの流通量を増やしているし、まして金はもともと希少資源だ。金の価格が上がるのは当然なのである。

 ただし、永遠に上がり続けるはずはない。どこまで高騰は続くのか。難しい問題だが、過去のデータから考えてみよう。参考にするのは、急騰した'80年の700ドル。インフレ率を考慮して今の価格に弾き直すと、約2000ドルに相当する。となると、現在の1800ドル前後という価格は、そろそろ天井と見ることができる。実際、著名な投資家ジョージ・ソロスは金を処分したそうだ。

 いやいや、まだ上がるという見方もある。米国はQE2(金融緩和第2弾)を続行中で、FRB(米連邦準備制度理事会)は'13年までのゼロ金利維持を表明している(QE2・5とも呼ばれている)。場合によっては、QE3を打ち出すかもしれない。そうなると、市場にはドルがさらに流入する。その時に株式市場が冴えない展開だと、ドルは奔流となって金のマーケットに向かい、金の値段を押し上げるだろう。

 もちろん、FRBがドルをジャブジャブ注ぎ込めば株式市場が急に活気づくこともあり得る。その場合は、金のマーケットが煽りを食って急落する。そういう懸念もなくはないが、カネとモノの相対的な量の関係を基本にすれば、金融緩和は価格高騰の方向に働くと見るのが素直な解釈だ。

 ただし、以上は国際市場での話。日本で取り引きする場合には国際価格をグラム換算し、そこに円ドルレートをかけたものが金価格になる。国際市場での価格動向とともに、為替レートも大きな影響を持つのだ。その意味で金は、ドル建ての外債投資に似ている。しかも、金には配当や利息が付かないから、値動きの激しいドル建て無配株のようなものだ。購入後に円高が進むと、為替差損が生じるという落とし穴がある。

 最大の問題は、この円高だ。FRBはドルを刷り続ける勢いだが、シブチンの日銀は金融緩和に慎重。となると、為替市場では相対的に円のほうが希少になるから、当然、円高に振れる。FRBの金融政策が円高要因となり、円建て金相場の足を引っ張るという構図だ。国際金市場の上昇と円高との綱引きで、これまでは金市場の上昇幅が円高を上回っていたが、果たしてこの先、どうなるか。

 言うまでもなく、ポイントは日本が今後、米国に負けない金融緩和を行うかどうか、である。日銀が消極姿勢を変えないなら、政府が断固たるリーダーシップを示すしかない。

 傾向として増税推進派は円高容認で、反増税派は円安志向だ。新総理に決断力のある反増税派が就任し、円高是正・円安誘導に動くなら、金は買い。円高を放置するような総理が誕生したら、売りである。

週刊現代2011年9月10日号より

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