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あなたの街は大丈夫か?首都圏「液状化」全地点MAP
防災の日(9・1)を前に、改めてこの「恐怖」を
考えたい
液状化により、電信柱が傾き、道路は波打つように激しく隆起している。茨城県潮来市日の出地区にて〔PHOTO〕船元康子

 沿岸部だけでなく内陸部でも!過去に起きた地域はどこか鎌倉時代まで遡って徹底検証

 東日本大震災から5ヵ月超。そして、9月1日で、首都圏に壊滅的な被害をもたらし、10万人以上が犠牲になった関東大震災から88年が経とうとしている。

 関東大震災の被害として、主に東京で起きた大規模火災が伝えられているが、実は首都圏の広い範囲で液状化現象が発生したことはあまり知られていない。

 東日本大震災でも、首都圏は液状化による被害に直面した。とくに、千葉県浦安市をはじめとするウォーターフロントの住宅地の液状化は大々的に報じられ、道路から黒い水が溢れ出す光景は、湾岸部に住む人々に恐怖をもたらした。

 そもそも液状化とは、緩い砂の地盤の中で発生する現象だ。普段は支えあっている砂粒が、地震の揺れによって地下水の中に浮いた状態になり、泥水のようになることを言う。そして、砂粒の間にある水の圧力が次第に高まり、砂を含んだ地下水が地表に噴き出すのだ。地盤地震工学に詳しい、京都大学防災研究所の田村修次准教授が解説する。

「地盤が液状に近い状態になるため、重いものはどんどん沈下していき、地中に埋まっている軽いものは浮き上がっていきます。住宅など重い建物や電信柱は沈下し、マンホールが浮き上がるのはそのためです。浦安で被害を受けた住宅は、ほとんどが一戸建てでした。浦安には、地下45mあたりに固い地盤があります。ある程度高層の建物だと、固い地盤まで基礎杭を打ち込んでいますが、一戸建てのような低層住宅では途中までしか打ち込んでいないケースが多いのです」

 液状化の被害は、浦安のような湾岸部の埋め立て地だけで起こると誤解されがちだが、実は内陸部にも過去に液状化被害を受けているところは多い。

 歴史的資料や聞き取り調査によって、日本全国でこれまでに液状化が起きた場所を分析した著書『日本の液状化履歴マップ745-2008』(東京大学出版会)を手がけた関東学院大学の若松加寿江教授は次のように分析する。

若松加寿江著『日本の液状化履歴マップ745-2008』(東京大学出版会刊)より加工のうえ転載
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表 1は若松加寿江著『日本の液状化履歴マップ745-2008』(東京大学出版会刊)より、本誌が関東大震災以降の主な地震と液状化発生地点を抽出し、現在 の市区町村名に当てはめて掲載。なお、液状化が発生した地点は掲載市区町村内の一部であり、この市区町村の全域で液状化が発生したわけではない。
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「液状化は、主に砂で構成され、堆積後年月を経過していない、若齢で地下水位が浅い(地表に近い)土地で発生します。

 例えば、内陸部であっても、もともとは河川や沼地だったところを埋め立てて住宅地にした地域は、地盤が弱く、液状化が起こりやすい。関東地方で言えば、江戸時代に利根川の大規模な瀬替え(河川の流路変更)工事が行われており、もとの利根川が流れていた古利根川の流域に液状化地点が多く見受けられます。

 埼玉県静村大字間鎌字砂河原(現在の埼玉県久喜市)や、埼玉県櫻田村大字下川崎字堤(同・埼玉県幸手市)などがその代表的な例と言えます。また、大河川の沿岸にも地盤が弱い地域が多い。表面上は見えなくても、川が運んできた砂が地下の浅いところに緩く堆積しているのです」

 上の地図は、1257年から1987年に起きた地震で液状化した首都圏の主な地点を、黒点で示したものだ。あなたの暮らす街が、黒点と重なったり近接していないか、よく見てほしい。また、地図の左に掲げた「表1」の、液状化が発生した地域も参照してほしい。

 こうして鎌倉時代から現代までの液状化の履歴を見ると、やはり河川の沿岸に液状化地点が集中していることが分かる。例えば、以下の河川の沿岸地域に液状化が発生している。

・荒川流域
東京府綾瀬村柳原(同・東京都足立区柳原)、東京府江北村大字鹿浜新田(同・東京都足立区鹿浜)など

・相模川流域
神奈川県厚木市東町、神奈川県茅ヶ崎市中島など

・多摩川流域
神奈川県川崎市中原区小杉陣屋町、神奈川県川崎市多摩区登戸など

 今回の震災で、浦安の液状化被害が大きく報じられたことから、海に近い地域が危ないと思われがちだが、実は海岸の地盤は本来、丈夫なのだという。

「埋め立て地など人工の海岸を除けば、浜は、波の力を何度も何度も受けることで、長い時間をかけて地盤を締め固めながら堆積しているので意外と頑丈なのです。しかし例外もあります。例えば、千葉県旭市中谷里、足川、椎名内、野中、三川といった九十九里浜に沿った地区は、1987年の千葉県東方沖地震で液状化しています。ここでは昔、砂鉄を採掘していました。このように、砂鉄や砂礫を採掘して埋め戻した海岸は、地盤が弱くなっていると言えます」(若松教授)

同じ地点で再び液状化

 しかし、自宅がある地域がどんな地盤で形成されているのか、きちんと確認できている人は少ないだろう。若松教授は、地盤を知るヒントとして、液状化が起きた場所の地名には、いくつかの共通項が見られると言う。

「地名のルーツには諸説があるので、すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、液状化が生じた地名を分析すると以下のような傾向が見られます。

 例えば、『池』『沼』『潟』がついたり、『芦』『芹』などの湿生植物や、『柳』のように湿潤な土地に育つ植物にちなんだ名前がつく地名は、地下水位が浅い土地に多いのです。また、『○○新田』とつく地域は、荒地や湿地などを新たに開墾したところにつけられる地名で、若齢な地盤であることを示しています。

 埋め立て地や干拓地には、土地の発展を願っておめでたい名前がつけられることが多く、その代表的な例として、関東大震災で液状化した横浜市鶴見区末広町や、横浜市南区真金町などが挙げられます。同じような理由で、液状化が多い造成地にはイメージアップをねらった『緑』がつく地名が多く、東京都墨田区緑、足立区千住緑町、神奈川県座間市緑ケ丘などはその例です。

 さらに、『古川』『川久保(川窪)』などはかつて川があったところを示す地名と言えます。また、内陸部なのに『島』がつく地名は、川が氾濫した土砂のうち砂などが川岸に堆積してできた微高地を表すことが多いのです。

 一方、『本町』『元町』などがつく地域は地盤が頑丈なケースが多い。というのも、これらは町の発展の中心地で、古くからの陸地であることが多いからです」

 また若松教授は、液状化は同じ地点で繰り返し起こると警告する。これは「再液状化」と呼ばれる現象で、地盤が弱い地域では、再液状化が発生することは稀ではないという。「表2」に、「再液状化が発生した主な地域」を掲示したので、参照してほしい。さらに若松教授は、東日本大震災では過去に例を見ないほどの広い範囲で液状化現象が起きたと語る。

「まだ調査中の段階ですが、関東地方だけでも少なくとも111の市区町村で液状化が発生しています。これほど広範囲に被害が及んだのは、揺れが長かったことが原因でしょう。長時間にわたり強い揺れを受けたことで、軟弱地盤は衝撃に耐えられず、液状化してしまったわけです。また、今回の特徴として、再液状化が多くの地点で見られたことも挙げられます。関東地方だけでも、70ヵ所以上で、過去の地震で液状化した地点が再液状化しているのです」

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