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「東大までの人」と「東大からの人」
〔受験生必読〕入ってみるとよくわかる
週刊現代 プロフィール

 研究の道に進むにしろ、就職するにしろ、厳しい壁がある東大理系だが、では、「東大からの人」と「東大までの人」では、何が違うのだろうか。ある学生の例を見てみよう。

 大学ロボットコンテストで'04年~'05年と2連覇を果たしたサークル「東大RoboTech(ロボテック)」で今期の部長を務めている工学部機械工学科3年の中原優也(ゆうや)氏(21歳)。彼は今、部員40名を束ね、日々、新型ロボットの開発に励んでいる。

「いつも本気で優勝を目指しているので、限られた時間の中で部員みんなのアイディアを集めてコンセプトを作り、それぞれがやりたい箇所を担当します。壁にぶつかれば、学年の差に遠慮することなく徹底的に議論し、限界まで挑戦して必死に乗り越えます。ひとつのモノをみんなで作り上げていくのは、驚くほどの喜びがあります」

 RoboTech顧問の國吉(くによし)康夫工学部教授は言う。

「サークルなので、学生たちが活動の一切を仕切り、少ない予算の中、きちんと責任を持って運営しています。チームで行う活動の中では、いろいろな能力が必要とされますから、どの学生も生き生きとして自分が貢献できる分野で能力を発揮する。必要なのは、主体的な活躍の場なのではないかと思います。技術面でも、『こんなことができるのか!』と、大学院の研究を超えるすごい技術を開発し、驚かされることもあります。やるからには、限界まで考え抜いて、挑戦することが大事です」

 「東大からの人」は、主体性やチャレンジ精神を持ち続けられる人なのだ。

「東大からの人」も場所がない

 一方で、優れた頭脳たる東大理系を取り巻く環境は、恵まれているとは言えず、「東大からの人」が活躍したくてもできない、そんな閉塞感があるという。

 元東大医学部教授で、政策研究大学院大学教授の黒川清氏は、まずは企業の採用姿勢を批判する。

「博士号を持った人材は使いにくいと言う経営者がいますが、とんでもない。むしろ博士号を持つ社員は、給与を倍にしてもいい。

 成功戦略が明確で、同じことを続ければうまくいく時代はもう終わったんです。使いやすい人材を採る昔の仕組みでは、日本はもう成長できない。博士を活用できるような企業でなければ、先の見えないこれからの時代は生き残れないでしょう」

 黒川氏は、東大で博士号を取って渡米、アメリカで研究を続け、UCLA医学部の内科教授を務めた異色の経歴の持ち主だ。グローバルスタンダードを肌で体感しているから、日本のゆがみも見えるという。

「東大を始めとして、研究環境がまずおかしい。欧米では博士も、自分の研究室から出た人は採用しないのがルール。いつまでたっても、自立した研究者になれないからです。

 そもそも大学は、研究を通して次世代の人材を育てるところ。ハーバードやMIT、中国の清華大学などが世界で評価される理由は、いい人材を輩出する大学だからです。博士を外に出せば、人材が世界に広がってゆき、評判が作られる。でも、日本は教授のクローンを作っているだけで、評判も生まれない。『東大からの人』が活躍できる場が、できていかないのです」

 実際に、ある准教授からは次のような話が聞けた。

「実は東大理系のポストは、欧米の研究者には、『研究キャリアの終着駅』だと思われている。これまで東大の職を求めてきていた人は、欧米では都(みやこ)落ちと思われていました」

数物連携宇宙研究機構(IPMU)長の村山斉教授(上)と、新たに建てられた研究棟

 しかし、東大の新しい試みも始まっている。文部科学省が無作為抽出で世界の研究者にアンケート調査を行った結果、7割の研究者が「ぜひここに行きたい」と答えた研究拠点が、'07年に東大にできたのだ。東京大学を拠点とする数物連携宇宙研究機構「IPMU」である。機構長の村山斉(ひとし)教授(46歳)が言う。

「私の研究テーマは、宇宙の基本法則を見つけること。すでにわかっていることではなくて、現代の人間には何がわかっていないのか、ということを発信したい。そうすれば、若い学生は、もっとワクワクできるんじゃないかな、と」

 約10年で合計100億円もの予算が、提案者である村山氏に委ねられた異例の機構だ。