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「東大までの人」と「東大からの人」

〔受験生必読〕入ってみるとよくわかる
週刊現代 プロフィール

志が低い人には苦痛

 こういった“天才”や“才人”は多いものの、皆が皆ではないというのが現実だ。 大多数の学生は必死に勉強して東大理系に入学し、さらに四苦八苦しながら大 学生活についていく。

 理科2類1年の中岡菜々子氏(18歳)が語る。

「1~2年の教養課程の後に、『進学振り分け』で自分の行きたい学部・学科を 選ぶのですが、行き先は2年間の単位の平均点で決まります。医学部、理学部物理学科、工学部航空宇宙工学科といった人気の学部・学科に進学するには、 かなり高い平均点が必要です。だから入学したとたん、また受験みたいにハー ドな勉強生活が始まるんです。

 前期では、必修と選択で20科目ほどありました。忙しいときは、朝1限から夕方までびっしり授業に出ています。

 うっすらとですが目指しているのは医学部です。でも、理2から医学部に行くには、ほとんどの単位で90点以上とる必要がある。また、ほかにも可能性を模索したいので、環境やビジネスなどさまざまなジャンルの勉強をする『三文会(さんもんかい)』に入りました。

『1年生の女子が積極的ですごいね』と驚かれています。

私はチアリーダーをやりたくて応援部に入ったんですが、部活を最優先にしな ければならず、他に色々なことにも挑戦したかったので悩んだ末、半年で辞めました」

 ただし、すべての東大生が、彼女のように意欲的に勉強をこなしているわけではない。授業が多く、思った以上に大変なので、教養課程で落ちこぼれてしまう学生もいる。東大に入ったとたんに燃え尽き、「東大までの人」になってしまうのだ。

「まるでカメラのように記憶力がすごい人、数学の新しい公理や定理を発見してしまう人、はたまた、ちょっと信じがたい量の勉強をあっけなくこなしてしまう人。東大に入って自分以上の才能に驚き、自信をなくす学生も少なくない。それで早々と努力をやめてしまい、サークルやバイト、遊びに励んだ学生も、僕のまわりには3~4割います」(工学部3年男子)

 教養課程が終わり進振りが決定してからは、さらにハードな学業生活が始まる。専門課程に入り、内容もますます難しくなる。

「化学系では、3年生は昼から夜まで毎日実験。4年生だと、これが一日中になります。朝9時から、夜中の11~12時までが普通。遊んだり、バイトをする時間はまったくありません。奨学金を借りる学生もかなり多い」(工学部4年生)

 理系では、専門課程を学ぶのに3~4年の2年間では短かすぎるため、ほとんどの学生が大学院の修士に進む。担当教授との関係も密になる研究生活は、想像以上の厳しさだ。

「ノルマが厳しくて、学生が過労で倒れ、救急車で運ばれる研究室もあります。多いときには月に1回のペースだとか。労働力として教授の好きに使われている感じがあります。学生が論文を書けば、教授の実績になるからです。

 拘束時間も長いし、教授のプレッシャーに耐えられない人も出る。だから私の研究室も、年に一人は鬱病(うつびょう)で辞めていくなど、ボロボロ落ちていきます」(理学系修士2年生)

 しかし、この研究者養成コースに加わって苦労を重ねたにもかかわらず、その先の博士課程に進学する学生は、年々減っているという。なぜか?

「博士課程に進むのは、学部や学科によりますが、平均して2割かそれ以下ではないでしょうか。博士課程を終えても、国立大学の独立行政法人化でコストカットを余儀なくされ、若手の研究職ほど大幅にポストを削減されているからです。

 今、東大内で余っているポストは皆無と言っていいし、他の国立大でも減っている。10年以上前は30歳前で助教になれたのに、今は30代後半になってやっと。『それでも十分ラッキーなほう』という話を聞きます」(工学部准(じゅん)教授)

出世は期待できない

 このような背景から、修士学生の8割くらいが就職するのだという。

「理系は就職に強いと言われますが、給料など待遇面は決していいとは思えません。工学部には、研究室の推薦でメーカーに就職できる学科もあるようですが、官僚の世界と同じで、出世は期待できない。

 研究者として民間企業に就職しても、『管理をするのは文系で、理系は安い給料でこき使われる。それが現実だ』と先輩から聞きます。だから、『大して勉強もしていない文系に搾取されたくない』という声は学生の間でも多く、金融やコンサルなどに文系就職をする学生が増えているのです」(工学部4年男子)