田原総一朗×竹中平蔵 「2010年はニッポン経済のターニングポイントだった」
緊急対談 アメリカ経済と日本政治の行方 VOL.1

田原 最近、アメリカにいらっしゃいましたか。

竹中 1年のうち4回くらいアメリカに行ってます。来週またニューヨークに行きます。

田原 アメリカの経済については相当よくなってきたという話と、いやこれから悪くなっいくんだという話があります。どう見てらっしゃいますか。

竹中 アメリカ経済のファンダメンタルズはそんなに悪くないと思います。ファンダメンタルズと言ったのは二つ意味があって、一つは技術革新、イノベーションの力。これは衰えているわけじゃないです。もう一つはいわゆる柔軟な企業経営、コーポレートガバナンス。これもまだ存在していると思うんですね。ただバランスシートの調整にやっぱり予想以上に時間がかかっている。

田原 バランスシートと言いますと?

竹中 具体的には、バブルが崩壊しサブプライムの問題などがあって、特に金融機関が不良債権を抱えてバランスシートが傷んでいるわけです。家計のバランスシートも傷んでます。

 つまりたくさん借金をして家を買ったけれども、家の値段が下がって借金だけが残っているわけで、バランスシートにポコッと穴が空いている。だからなかなか消費が回復しません。結局90年代に日本が経験したのと同じことを、やっぱりアメリカも相当今苦しんでいるということです。

田原 90年代、バブルが弾けて不況になって、不良債権をいっぱい抱えた、その日本と同じ苦しみですね。

竹中 アメリカは財務長官のガイトナーが「ガイトナー・プラン」というのを作った。私たちが金融再生プログラムを作ったのと考え方そのものは同じようなものです。1年くらいでそれにパッと取り組んだんですが、やっぱりそれだけでは不十分じゃないかっていう見方が前からあるんですね。

 これでいけるんじゃないか、いややっぱり不十分じゃないかっていうところで、行きつ戻りつつです。それで、なかなか本格的な景気回復に向かえないところです。

田原 ところでこのあいだの中間選挙ですが、オバマさんの民主党は上院下院の選挙で、上院はなんとか過半数は獲ったけれど下院では大きく負けた。一つはやっぱり景気、失業が多いということですが、どう見ています?

竹中 二つ重要なポイントがあると思います。

 一つはまさに田原さんが言われたように、経済の実態、特に雇用がよくない。国民がやっぱり雇用にものすごく敏感です。実際見てましても、アメリカという社会は雇用が悪くなるとものすごく犯罪率が高まったり、目に見えて社会が乱れてくるんですね。

 で、今失業率が10%近い。本当は8%以下に下げたいと思っているんだが、それができなかった。まずそれに対して国民の不満が大きい。これが第一にあると思います。

 もう一つはもう少し中期的な問題です。これは実は日本にもすごく当てはまるんですけども、ポピュリズムの悪循環みたいなものがあると思うんですね。

田原 どういうことですか。

竹中 経済が悪くなると失業が高まるし、国民の不安が高まる。つまり社会不安が増大するわけですね。社会不安が増大すると、「私が助けてあげます」という政治家が出てくる。これがポピュリズムです。

ポピュリズムの後にポピュリズムが出てくる悪循環

田原 ちょっと待ってください。僕はオバマさんがポピュリズムだと思ったんですよ、「Change」と言ってね。

 一つはイラク戦争の失敗、もう一つはリーマンプラザーズの失敗で金融パニックが起きてどうしようもなくなった。しかし結局、「Change」で、変えると言いながら変えられなかった。そのオバマさんがポピュリズムだと思ったら、そうじゃないんですか。

〔PHOTO〕gettyimages

竹中 いや、違います。たしかにオバマさんはポピュリズムの部分はあります。経済が悪くなって社会不安が出てきたから、ポピュリズムで私が変えると言って、国民にリップサービスする人が出てくるわけですね。ところがそんな政策がうまくいくわけがない。うまくいくわけがないから、やっぱり失敗する。ということで、選挙では負けるわけです。社会不安が募るから、それに輪をかけたポピュリズムがまた出てくる。

田原 ティーパーティーみたいなやつ?

竹中 ティーパーティーはポピュリズムとちょっと違うんですけども、私はまた別の、国民に対してもっといいことをするっていうのが出てくると思いますね。

田原 それは共和党から?

竹中 共和党もティーパーティと言いながら、しかし大統領選挙になると何か別のポピュリズムを出してくると思います。結局ポピュリズムの悪循環。できないことを約束するんですね。

田原 オバマさんの場合にはとにかく思い切って税金、つまり国のカネを使って企業を救済した。それと同時に、例えば健康保険などいろいろやった。それが意外に受けないんですね。なんで受けないんですか。

竹中 経済の実態をよくしていないからですね。

田原 だけど他にどういう手があったんでしょうね?

竹中 基本的にはもっと思い切った「損出し」をやらなければいけなかったと思うんですね。

田原 損出しって?

竹中 さっき言ったように不良債権を抱えてバランスシートが悪くなっていて、国民はそれで傷んでいるわけですから、一気に損を出してしまえばいい。

 一時的に倒産するようなところも出てくるかもしれませんけど、そのときは財政で景気を浮揚して、それで一気に損を出してしまったら今度は新しい発展に向かって行けるわけです。

 ところが、日本もまさにそうだったわけですが、損を出すのが怖いわけですね。

田原 オバマさんも、損を出さないで救済しちゃったわけだ。

竹中 ある意味でそうですね。さっき言った「ガイトナー・プラン」というのは、方向としては間違っていないんですけども、例えばガイトナーが見積もった銀行などの資本不足はIMFが事前に予測していた資本不足よりもずいぶん小さいんです。

田原 小さいの?

竹中 もっと不良債権があるだろうと、もっと過小資本だろうと、もっと本当は資本注入が必要だろうと、みんな思っていたわけですけども・・・。

田原 もっと注入しなきゃいけない、カネを。

竹中 まさに損を出したら資本がなくなっちゃうから資本注入しなきゃいけない。それが怖い、なかなか思い切ったことができないので長引いてしまう。90年代の日本はずっとそうだったわけですね。

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