牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
2010年12月09日(木) 牧野 洋

匿名、仮名、無署名・・・。名無しがあふれる、こんな日本の新聞記事を信じられるか?

イラク帰還兵のウソが暴かれたのは実名だからこそ

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〔PHOTO〕gettyimages

 アメリカで一時は反戦ヒーローとして有名になったイラク帰還兵、ジミー・マッセーをご存じだろうか。

 2003年3月の開戦直後から海兵隊員として戦地に赴き、アメリカ軍による残虐行為を目の当たりにする。そのショックで「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」を患い、数ヵ月後に海兵隊を除隊。その後、マスコミに頻繁に登場して自らの体験談を赤裸々に語る・・・。

 以下、マッセーが語った話をいくつか紹介する。

● 陥落直後のバグダッドで非武装のイラク人がデモ行進すると、海兵隊が無差別に発砲。多くが死亡する。

● 検問所で止まらない車に向けてアメリカ兵が発砲。4歳のイラク人少女が頭を打ち抜かれ、即死する。

● アメリカ軍の攻撃で死亡したイラク民間人の遺体を満載するトレーラーが走る。女性や子供の遺体も。

 マッセーの体験談は、イラク戦争を始めたブッシュ政権をたたくには格好の材料になった。大量破壊兵器の存在が開戦の理由だったにもかかわらず、イラクで大量破壊兵器は発見されず、戦争の大義が失われつつあった。有力紙USAトゥデイやワシントン・ポストをはじめ、多くのメディアがマッセー物語に飛びついた。

 ところが、2005年11月6日に"爆弾"が落ちる。同日付のセントルイス・ポスト・ディスパッチ紙が1面で「ジミー・マッセーは真実を語っているのか? 目撃者によれば答えはノー」という記事を掲載したのだ。同紙は、「ピュリツァー賞」の生みの親ジョセフ・ピュリツァーが創刊した名門地方紙だ。

 記事を書いた記者はロン・ハリス。従軍記者として開戦直後からイラクで戦地取材し、マッセーと同じ「第7海兵連隊第3大隊」と行動を共にしていた。同大隊に所属していた海兵隊員や従軍記者にも取材したうえで、「マッセーは話をゆがめて伝えたり、でっち上げたりしている」と結論した。

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