金融・投資・マーケット
盛り上がりに欠く日本版ISA構想への注文

 投資家の一部では話題になっているようだが、「日本版ISA」に対する盛り上がりが今一つ欠けている。

 日本版ISA(少額投資非課税制度)とは、英国のIndividual Savings Accountに範を取ったといわれる制度で、2012年からの導入が予定されている、個人の資産運用を税制的に優遇する仕組みだ。

 制度の内容はまだ完全には固まっていないが、2012年から2014年の3年間、毎年一人100万円までの枠で口座を開くことができ、この口座内で発生した運用益に対して10年間非課税となる仕組みだ。

 今のところ、口座内で発生した配当や分配金は非課税だが非課税枠としては再投資できず、一部ないし全部を10年間の間に途中売却した場合には、その元本の分だけ非課税枠が消滅する仕組みになることが有力視されている。

 株式や投資信託などに長期投資して、これをじっと持った場合に、値上がりすれば2倍になろうと3倍になろうと非課税なので、「バイ・アンド・ホールド」型の長期投資を優遇する制度だといえる。

 現在流行している毎月分配型の投資信託のような商品は、分配金を多く払い続けるので元本が増加しにくいから(理屈上、増加してもいいはずだが、多くは元本がやせる傾向にある)、非課税枠が十分生きる運用とは言い難い。

 個別株で投資すると、値動きが激しいから、10年の間には途中で売却したくなるタイミングがあるかも知れず、「この株は絶対に10年間売らない」と決意できるような人でないと、お勧めしにくい。長期保有には分散投資の方が無難だ。

 また、証券マンや最近では銀行員までが顧客に勧めるようになった、投資信託の「乗り換え」も、日本版ISAの口座で行うと、売却した分だけ非課税枠が消滅するので損だ。

 このように考えると、随分「教育的」な制度であり、売買をしない長期投資を奨励する仕組みになっている。

 証券会社や銀行などの金融機関は、制度のスタートに合わせて、個人顧客を開拓するために日本版ISAの口座開設のキャンペーンをやるだろうが、彼らが動員した顧客が「頻繁には売り買いしない投資」を啓蒙されるのかと思うと、少々痛快ではある。金融機関としては、新規の顧客開拓にあたっての日本版ISA効果と、顧客の資産の回転が止まる効果と、どちらが大きくなるか、微妙なところかも知れない。

 もちろん、顧客の側では、もともと金融機関に付き合って売買しなければならない義理はないので、長期投資を前提とした運用を考える上でいい機会だ。

 筆者が「正解」と思う日本版ISAの投資例を一つあげておくと、TOPIX(東証一部指数)に連動するインデックス・ファンドと日本を除く23カ国の先進国株式で構成される株価指数であるMSCI-KOKUSAIに連動するインデックス・ファンドに50%ずつ投資するのがいい。

 TOPIXについては、信託報酬の安さを考えると、「TOPIX上場型投資信託」(コード番号1306)のようなETFを長期保有するのがいいだろう。一方、MSCI-KOKUSAIのインデックス・ファンドは、金額が大きくないこと、為替などにも手数料が掛かることを考えると、信託銀行系の運用会社が設定しているノーロード(売買手数料ゼロ)で信託報酬の安い投資信託がいい(STAM、eMAXIS、CMAMの各シリーズが有望だ)。

 日本版ISAの運用資産は、あくまでも「全体の中の一部」だと考えることが重要だ。日本株、外国株、あるいは外国株でも新興国株式に投資したいと考えて、投資配分を調整するような場合は、日本版ISAの口座内の資産は固定したまま、売り買いしても損にならない口座(確定拠出年金の口座も含む)の資産を動かして、「運用資産全体の配分」を調整するといい。

日本版ISAに改善を要望

 さて、日本版ISAは上記のような、少々癖のある、しかし税制上の優遇だから利用しないと勿体ない制度なのだが、これに対する期待は、冒頭で述べたように今一つ盛り上がっていない。

 その最大の理由は、この制度の導入が、現在の証券軽減税制の税率優遇(本則は20%、現在は10%)を2012年で廃止することとセットで検討されていることにある。もともと株価が低迷した状況に梃入れするために導入された制度なのだから、現状で廃止を決めるのは、制度導入の趣旨に反すると思われるのだが、現在、財源欲しさの増税が方々で行われることを民主党は容認しそうな状況であり、現状では止まりそうにない。

 現在の状況と、日本版ISA導入後の状況を比較すると、日本版ISAの非課税枠をフルに使っても、現在、300万円以上の証券投資を行っている人にとっては増税になる。これでは、何ともパッとしない。

 何はともあれ、ダメモトでも証券軽減税制の継続を要望したいところだが、日本版ISA自体にももう少し改善を要望したい。

 先ず、2014年までの期限は延長する必要があるだろう。国民は、2012年から2014年までの3年間に都合良く運用に回せる資金を持っている人ばかりではない。2014年以降も制度を継続すべきだし、その表明も早いほうがいい。

 一人で利用している非課税枠の合計に上限を設けておけば、際限なく非課税運用が増えるわけではない。もっとも、現在検討されている制度では預け入れが1年に100万円で、運用益非課税期間が10年なので、最大でも1000万円にしかならない。当初は一人300万円を上限として始めるとしても、非課税運用枠は拡大していく方向でいいのではないか。そうなるのでなければ、「貯蓄から、投資へ」の掛け声が空しい。

 もう一つは改善して欲しいのは、制度を最大限に利用するためには一口座100万円の口座を三つ開かなければならない煩雑さを解消して欲しい。一人300万円までなら、一口座に300万円まで一度に投資できるようにならないものか。日本版ISAでの投資にあたっては、税務署で確認書類の交付を受けるなどの手続きが必要になる公算が大きく、100万円投資する度に、しかも毎年一度ずつ、手続きをするのは面倒だ。一つの口座の中で非課税枠の利用に関する管理ができる仕組みにして欲しい。

 投資家の立場から要望を考えると、正直なところきりがないが、最後にもう一つ、成人だけが対象とのことだが、子供の名義の口座でも非課税の長期投資ができるようにして欲しい。年間100万円なら、非課税で贈与できる範囲内だし、10年後に子供に証券投資の形で運用成果を渡すことができる仕組みは魅力的だ。

 以上、投資家の立場から幾つか要望を考えてみたが、それにしても、証券軽減税制廃止の見合いが、今報じられているような日本版ISAの導入だというのは、わびしい話だ。

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