大研究シリーズ 早期発見が命を救う
ああ、あれが病気の始まりだったのに
予兆はあったのに、多くの人が見逃してしまう

(週刊現代)

「あのとき気づいていれば・・・」大病を経験した人は、皆そう口を揃える。知っているかいないかで、生死を左右する兆候は必ずある。もしかしたら、あなたも見過ごしているのではないだろうか---。

「あのとき気づいていれば・・・」大病を経験した人は、皆そう口を揃える。知っているかいないかで、生死を左右する兆候は必ずある。もしかしたら、あなたも見過ごしているのではないだろうか---。がん・心筋梗塞・脳梗塞・糖尿病・認知症ほか

肩から胸が痛む心筋梗塞

「夜の9時頃、タクシーで家に帰る途中でした。車中で、これまで感じたことのない痛みが、肩から胸にかけてどんどん広がってきた。『これは心筋梗塞や』、そう思ったんです」

 '98年6月、京都大学元総長で、当時、大学院理学研究科長だった尾池和夫氏(71歳)は、同大の学位授与式に列席した後、飲んで帰る際に異常を感じた。
「急性心筋梗塞」---冒頭のような異常を感じたとき、そうすぐに判断できる人はどれだけいるだろうか。サッカー元日本代表の松田直樹選手が、練習中に心筋梗塞で急に倒れ、亡くなったのも記憶に新しい。

 だが地震学者でもある尾池氏は、自身の身体の異変を察知し、家に着くとすぐに家族に救急車を呼んでもらったのだ。

「とくにその夜はどうも身体がしんどくて、早めに店を後にしました。僕は科学者の体質でなんでも調べて知識を貯めるので、予備知識があったんです。だからタクシーの中で、この胸の痛みは『これは血管が詰まっているな』とわかった」

 それまでの健康状態は、とくに悪くはなかった。血圧や血糖値は、やや高めながらも正常の範囲内。タバコを1日1箱吸っていた程度。そのタバコも皮肉なことに、自身の誕生日でもある5月31日、世界禁煙デーに合わせて止めた。まさにその翌日、発症したのだ。

 江戸川病院ハートセンター長の大平洋司氏が言う。
「突然発症する急性心筋梗塞は、前兆のない場合がほとんどです」

 前兆と呼べるものがあるとしたら、狭心症の発症くらいだ。

「血液の循環が悪くなると、心臓への酸素の供給量が減ります。するとそれに反応して、心臓が痛みだす。これが狭心症です。狭心症になると、動いたときに胸が痛くなる、喉が詰まるような感じがする、左腕や左胸がだるい感じがする、などの症状が出ます」

 ただ、多くの人が見落としてしまうのは、狭心症は安静にしていると治まってしまうからだ。

「血流障害というのは、5~10分でケロッと治まる一過性の症状です。ただし、治まったといっても、細くなって血液の流れが悪くなった血管が、元通りになって血流が回復したというわけではない。血管は細いままだけれど、心臓の酸素需要量が減ったため、症状が落ち着いただけなのです。それなのに『俺は何ともない』と思いこんでいる狭心症の患者さんが、山のようにいます。これらの人たちは、みな心筋梗塞予備軍なのです」(大平医師)

 狭心症の段階では、まだ心臓に酸素は送られている。けれども、心筋梗塞になると、血流が遮断され、酸素の供給がストップする。そうなればその先の心筋は死に、死んだ筋肉は戻らない。だから心筋梗塞は怖いのだ。

 尾池氏の場合、お酒を飲んでいる最中に「身体がしんどい」と感じたときは、もう心筋梗塞を発症していたが、本人がそれを自覚し、救急車をすぐ手配したのが幸いした。

 救急車で搬送され、手術によりどうにか死地を免れたのだ。尾池氏はこう反省する。

「僕の心臓の細胞は、30%くらい壊死してしまった。高血圧も高血糖も心筋梗塞には大敵です。発症する前に、若干高めだった血圧を下げる薬を飲んでおけばよかったと後悔しています。また、血糖値が高くなると心筋梗塞の再発率が高くなるので、術後は血糖値を少しでも下げようというので苦労しました」

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