雑誌
高利回り「和牛商法」 破綻寸前!
安愚楽牧場に投資した
会員3万人の「絶望」

「8月1日からの3日間で、安愚楽牧場の出資者から約330件、50億円以上の相談が寄せられています。支払い停止がこのまま続くようであれば、第二の豊田商事事件のような騒ぎになるでしょう。被害総額も数千億単位になると思います。今後は、全国的な弁護団が結成され、破綻処理に加え、全国の裁判所で出資金の返還訴訟などをして、処理には10年単位の時間がかかると見ています」(紀藤正樹弁護士)

 資金繰りが悪化し、投資家への支払いを停止した「安愚楽牧場」。原発事故が放射性物質だけでなく、思わぬところに被害を拡散させた形だが・・・。

安愚楽牧場のHP。現在はほぼ閉鎖中だ

 安愚楽牧場は全国に40ヵ所の直営牧場と338ヵ所の預託牧場を持つ、国内最大級の「黒毛和牛」専門の畜産企業だ。同社では約14万頭の黒毛和牛を保有しており、これは国内の黒毛和牛総数のおよそ8%にあたる。ちなみに「安愚楽」という名称は、明治期に流行した「牛鍋」を「安愚楽鍋」と呼んだことに由来する。

 その経営規模もさることながら、同社を特徴づけるのは「委託オーナー制度」という運営手法にある。これは、1口30万~100万円の出資金を会員から募り、子牛が成長して肉牛として売れた時点で売却益を会員に還元するというもの。4~7%の利回りに魅せられて会員数は3万人にも及ぶ。「和牛預託商法」と呼ばれたこの商法は、バブル崩壊直後に大流行したが、出資金詐欺などの事件が相次ぎ、業者が続々と摘発。唯一の生き残りが安愚楽牧場だった。

 同社の会員によれば、これまで配当が滞ったことはなく、今年3月期決算でも売り上げが初の1000億円を超えるなど、業績好調に見えた。ところが---。

〈 昨年の宮崎県の口蹄疫問題を皮切りに、(略)放射線漏れ事故による牛の放牧制限、放射性セシウムの検出による福島県産牛肉の出荷制限等と、同社の経営は大きな制限・打撃を受け、さらに「泣きっ面に蜂」が如く、その風評被害による食肉市場全体での牛肉消費の落ち込みは、その経営状況を一気に悪化させました 〉

 全国の会員たちにこんな通知書が届いたのは8月初めのこと。同社代理人弁護士名義で、経営が苦しくなったので会員への支払いを停止し、1ヵ月かけて資産・負債状況を見直すという内容である。

 支払い停止が明らかになった翌日の8月2日、同社の東京支店には、途方に暮れた表情の会員たちが続々と集まってきていた。

「退職金600万円を4月に投資したばかりで配当はまだ一度も受け取っていません。それに、妻もこれまでに400万円ほど投資しています。どうなってしまうのか」(60代男性)

「会社に電話しても全然つながらない。窓口の弁護士事務所に電話したら、すでに送ってきたペーパーを電話口で読み上げるだけ。被害総額? 1本です。100万じゃないですよ、1000万円。17年も投資していて、良心的だと思っていたんですけど」(50代主婦)

 本誌が聞いた限りでも、1000万円くらいの投資額は珍しくなく、中には数千万単位の投資をしている人もいるという。

 細野豪志原発担当相は、同社について「賠償を受けられる可能性はある」と語っている。確かに、セシウム汚染牛騒動は福島県を皮切りに、宮城、岩手、栃木などでも牛の出荷制限が行われ、拡大の一途。皮肉なことに、セシウム汚染牛の第1号を出荷した福島県南相馬市の畜産業者は、安愚楽牧場から牛を預かり、出荷まで育てる預託牧場だった。口蹄疫騒動に続き、放射能汚染の被害をモロに被った同社や会員たちも「被害者」ではある。

 ただ同時に、自己責任が問われる投資の世界で、これまで高利回りの恩恵を受けてきて、いざとなったらその損金を賠償金で穴埋めすることについては釈然としないのも事実。東電が支払うにせよ、国が支払うにせよ、その原資は我々が払った電気料金、または税金なのだ。

牛が餓死する

 口蹄疫の被害を受けた、宮崎県の預託牧場の男性が嘆く。

「1頭につき、1日120円の預託料が出るんだけど、7月分は払われていません。口蹄疫で300頭くらいいた牛が全滅し、ようやく4月から牛が入ってきたんですが・・・。個人でやっているところは、口蹄疫で処分した牛に補償金が出ました。しかし、私のところは安愚楽から月25万円が出ただけです。

 本当に困っているのは、安愚楽の預託牧場では、本社から指定されたエサしか与えてはいけないルールがあるのに、そのエサが届かないこと。このままでは牛が餓死してしまう。本社に聞いても『今後のことはわからない』と言われるばかりです」

 安愚楽牧場側が資産や負債を調査している1ヵ月の間にも、本来ならカネを生んでくれるはずの牛たちは、配当どころかエサさえもらえず次々に死んでいく。生き物を投資対象にしたがゆえのリスクが、原発事故で浮き彫りになったと言える。

 そもそも、いまは全国展開している安愚楽牧場も、'81年に営業を開始したときは栃木県の小さな企業に過ぎなかった。その痕跡は、創業者が亡くなった後、未亡人となった三ヶ尻久美子氏が社長を継ぎ、役員に親族が入っていることからもうかがえる。言ってみれば典型的な地方の同族企業。経営者一族の内情を知る関係者が語る。

「創業者が亡くなった後、遺産相続を巡るトラブルもありました。そのとき、現社長は『絶対にカネなんか払わない』と言ったように、カネに対する執着心が強い。でも、口蹄疫にかかった疑いのある牛がいたのに、1ヵ月以上も報告せず、今年1月に宮崎県から経営の改善指導を受けるなど、企業として脇が甘い。いずれ行き詰まると思っていました」

 今後の見通しについて、本誌が栃木県の本社に尋ねると、「多忙のため、取材に回答できる状態にありません」とのこと。「通知書」を出した代理人弁護士事務所も「取材は受けていません」と取材拒否だった。

 「和牛商法」という時代遅れのバブル。放射能被害はバブル崩壊の一つのきっかけに過ぎなかったのかもしれない。

「週刊現代8月20・27日号」より

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