丹呉元財務次官の人事、菅・与謝野会談の裏側でくすぶる「増税大連立」
もはや「末期症状」の政権は禁じ手に踏み込むのか

 11月16日、前財務次官の丹呉泰健氏(59)が読売新聞の社外監査役になるという新聞記事が報じられた。そうしたら、19日に、菅直人総理と与謝野馨たちあがれ日本共同代表が首相公邸で会談したという報道が出た。なんの関係もない二つの出来事が、なんともきな臭く感じてしまう。

  丹呉氏は小泉純一郎総理の秘書官を異例の5年半も務めたが、小泉総理は5年半も増税にはなびかなかった。しかし、菅総理は財務相になったとたんに、増税を言い出した。そのときの財務次官が丹呉氏だった。また読売新聞グループ本社会長の渡辺恒雄氏は福田・小沢大連立を仕掛けて以来の「大連立論者」として知られる。

 増税論者の菅総理とこれまた増税論者の与謝野氏が会談したのだから、当然増税路線が話し合われたはずだ。今の自民党の執行部も増税路線である。ひょっとしたら、民主党と自民党の増税大連立の橋渡しに与謝野氏がなるという話があっても不思議でない。彼らは「大きな政府」路線であるので、増税が不可欠だ。民主党が政権末期の様相になっているので、こうした大連立話が出てもおかしくない。

 民主党は、今年6月の中期財政試算では、増税をいうために、名目2%成長を慎重シナリオ、名目3%成長を成長戦略シナリオとしている。どちらでも、2020年度でプライマリーバランス黒字化のためには、GDPの2~4%程度の増税が必要としている。10兆円から20兆円程度の増税である。しかし、名目4%になると、増税なしでプライマリーバランスが回復する。小泉政権の後半、歳出カットと名目1~2%成長でプライマリーバランスは黒字化まであと一歩のところまでいった。

 それでは、なぜ名目成長4%を目指さないのか。増税論者は、デフレから脱却できず、物価上昇率もプラスにならないか、プラスになると金利が高くなって困ると考えている。これらが間違いであることを示そう。前者はこれまでこのコラムで何回も書いたので省き、後者に焦点をあてよう。

数字のマジック

 たしかに、物価が上昇すると長期金利も上昇する。しかし、GDPギャップがあって失業があるうちには、すぐには長期金利は上昇しない(ただし、マーケットのあやのような小幅な金利上昇はある)。

 これは1930年代の大恐慌の時もそうだった。設備投資はすぐには起こらず、それに資金需要が出てきても市場にだぶついた資金が使われるために、金利がすぐには上昇しないのだ。大恐慌の時には2~3年遅れて金利上昇が起こっている。金融機関の関係者の中に、少しでも物価が上がると金利が急騰し金融機関が破綻するという人がいるが、2~3年のスパンでなら、債券から貸出とか株式にシフトできるはずだ。

 財政当局も過度の金利上昇を心配する。その好例が財務省が毎年公表している3年間の財政試算である。それでは、金利上昇による利払い費負担が税収増を上回っている。

 ここには数字のマジックがある。この試算は機械的計算なので、名目成長に対する税収増の割合(税収弾性値)は一定である。しかし、現実には赤字企業が黒字化するので、景気回復局面での税収弾性値は大きい。さらに、金利上昇がすぐには起きないことを見逃している。

 さらに、プライマリーバランスの黒字化のためには利払い費増は関係ない。これを気にするのは、利払費が増大すると目先の予算編成がやりにくくなることばかりを気にする財務官僚の近視眼的発想だ。確かに最初の2、3年は金利負担が伸びていくが、段々と小さくなり、逆に税収が伸びていく。金利負担の伸びが鈍るのは、ロールオーバー(借り換え)を繰り返していくからだ。たとえば、100兆円の債務がすべて10年国債で均等に成り立っていたとする。1年経つと9年前に発行された国債が償還され、2年経つと8年前に発行された国債が償還され……と10年経つと全部償還されるので、すべて新しい金利に代わり、金利の伸びは止まる。

 極端に言えば、100兆円の債務がすべて1年前に借りた1年国債で、いま金利が1%上がったら明日償還だとすると、利払費が1兆円が増える。でも、2年目以降は同じ金利だから。それ以上は増えない。

 要するに、物価上昇率を2%くらいにすれば、名目成長率が4%になって名目成長率が金利を上回るかイコールになる。これで、増税なしでも財政再建が容易になる。その中で、小泉政権のように歳出カットや民営化による政府のスリム化を行えば、それ以上に財政再建は容易になる。しかし、財務官僚は、近視眼的発想にとらわれて、低成長の下で金利が上昇しない状況で増税を好むのだ。他省庁の人でも、たとえば総理秘書官経験者でも、そう信じ込んでいた人もいた。

 今、年内に政権が倒れたり衆議院の解散があっても不思議ではない状況だが、その裏で、大きな政府による大増税連立が画策されているかと思うと背筋が寒くなる。もし、この路線が浮上してくれば、せっかくの円高一服や株式市場の好調は一気になくなるだろう。
 

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら