Vol.6 「分解されるメディア コンテンツ・キュレーションについて考える」
小林 弘人
インターネットが普及し、ユーザー数も当初とは比較にならないくらい爆発的に増大した。
あらゆる場所と人々がつながったいま、インターネットを利用するということは、ただ検索や買い物、情報発信のためだけではなく、社会そのものを変える可能性にも満ちている。
実際に、新しい産業が生まれ、旧来の産業のなかには価値転換を迫られているものもある。あまりにも変化の速度が激しいため、我々自身がその状態に適合する術を知らない。

本連載ではインターネットを介在させることで、これまで見過ごされてきた価値や経験などのヘリテージ(財産)を、新しい未来へとどう接続し直していくのか、コミュニケーションやメディアの変遷を通じて探ってみたい。
例えば、それは筆者のフィールドであるメディア産業を軸に、金融、製造など、多岐にわたる分野で起きつつあることを取り上げながら、新しい環境に我々が適合するためのヒントを探っていきたい。

 本連載Vol.2では、フェイスブックを例に取り、ソーシャルグラフが新しい情報の流通網に変化しつつあるという話をしました。今回は、さらにソーシャルレコメンドがもたらす、メディアへの影響について考えてみたいと思います。

 最近、「キュレーション」という言葉がウェブ系のサービスに従事している人たちの間で飛び交うようになってきました。厳密には、「コンテンツ・キュレーション(content curation)」のことですが、これはネットワーク上で常に特定のテーマに沿ってさまざまなニュースを集め、それに新たな文脈を付与して再提示する行為を指します。

 つまり、情報過多である現在、膨大な数の記事、つぶやき、資料、ユーザーグループなどのネットワークから、それらを掬い、新たに意味を付与するわけですが、インターネット前史なら編集者、つい最近ならばブロガーの多くがそれを行ってきました。現在はさまざまなツールが登場し、編集者でなくともこのような情報の再編集が可能となりました。

 そして、新たな「キュレーション」という言葉にくるまれて提示されたわけですが、今回はそれがメディアにも少しづつ影響を及ぼし始めるのではないか、ということを考えてみたいと思います。

探す、拾う、並べる! キュレーション・ツールはポスト・ブログである

 コンテンツ・キュレーションは「誰でもメディア化」した現代では、必要欠かさざる行為となっています。断片的な情報がリアルタイムで行き交う現在、コンテンツは細分化され、その速度のフローが高まっています。そのため、私は『Twitterの衝撃』(日経BP)への寄稿記事に、新しい時代のスターは「解説者」であると書きました。それら情報がどのような意味をもつのか、あるいは情報xと情報yがどう紐づいているのか、また、提示されたソース(情報源)は信頼できるのか否か等を解説することが、プロフェッショナル・メディアの新しい役割ではないかと考えています。

 しかし、その機能は細分化するかもしれません。情報の波、というよりも洪水がひっきりなしに押し寄せるわけですから、担当者ひとりだけでは到底対応できません。たとえば、ファクトチェック(事実確認)はその熟練者たちによる専門家グループが行い、種類によっては、すべての人々(クラウド)に任せるといったことが必要になるでしょう。

 そして、異なる情報同士に結びつきを見いだし、それらを発掘、そして、再編集する作業が必要です。さまざまなコンテンツのなかから、ひとつの文脈に沿って新しい視座を導き出せることがあります。多くは"まとめ系"のように、特定の事象を時系列にまとめたものがほとんどでしょう。これらはアドホック型の情報提示です。アドホックというのは「特定の目的のために(一時的に)」といった意味があります。それがおそらくコンテンツ・キュレーションの大勢を占めるでしょう。

「togetter」HP

 コンテンツ・キュレーションのためのツールは、数多くあります。日本では先の震災後にも活躍した「togetter」(http://togetter.com/)や「NAVERまとめ」(http://matome.naver.jp/)が有名です。震災直後に私が短期間に記事をまとめられたのも、このようなツールがその手がかりになっています(リンク参照:特別寄稿 『小さなメディアの大きな力 日本のメディアが変わった10日間』)。

 また、最近では直感的な操作性に優れ、自分が参加するソーシャルメディアに収集した情報の一覧を公開できるツールが米国から続々登場しています。「Storify」(http://storify.com/)、「scoop.it」(http://www.scoop.it/)は多くの人にとって使いやすいでしょう。両者ともキーワードを入力しておけば、そのキーワードがソーシャルメディア上に出現すると、自動的にそのコンテンツを収集し、キュレーションを容易にしてくれます。

 あるいは、先の二つのサービスほど洗練されていませんが、個人的に私が愛用しているのは、「bagtheweb」(http://bagtheweb.com/)というツールです。多くのツールと同様、自分がまとめた情報(「バッグという」)と類似のバッグを教えてくれます。

 「Qrait」(http://qrait.com/)はシンプルですが、その検索結果をブログやウェブサイトに埋め込むコードを吐き出し、リアルタイムにキュレートされた情報を発信できます。そのほかにもコンテンツ・キュレーションのコンテンツをニュース以外に求めれば、マインド・マップ【註1】をソーシャルで作成できる「MindMeister」(http://www.mindmeister.com/)は、複数名以上のプロジェクト管理やアイデアラッシュ等に利用できるでしょう。「80leggs」(http://80legs.com/)はとにかくキーワードだけを徹底して集めたいユーザーに便利なツールです。単にニュースを集めるだけではなく、自社の評判などを調べるのにも使えます。

「Qrait」HP

 ほかにも紹介しきれないほどのキュレーション・ツールが続出していますが、その多くがブログに代替するパブリッシング・ツールとして登場しているような印象を受けます。つまり、ツィッターの登場以前に、ブログは多くの人にとって日記形式で綴ることができるコミュニケーション・ツールでもありました。もちろん、私が自著で提唱したような「誰でもメディア」の発信ツールでもあったのですが、現在では多くの人がツィッター上でコミュニケーションを喚起させるための発信を行うようになったのではないでしょうか。

 つまり、より日常的な情報(「いまラーメン屋なう」等)の発信は、ブログのようなCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)からツイッターに代替されてしまい、その手の発信内容を楽しんでいたユーザーは、あえてブログにログインして長い文章を書く必要がなくなってきたということです。そして、残ったのは、メディアとしてそれを使う人や組織、また、ある程度長文によって考えをまとめたり、コンテンツ・キュレーションによって新たな視座を提供するためのワードプロセッサ兼データベースという観点です。

 しかし、情報をまとめて分析を加えたりする、いわゆる前述のアドホック型情報発信に特化するとなると、利便性が劣るのも事実です。検索まで兼ね備えたツールとして、前述の「Storify」等を筆頭とするツールが登場したため、そちらに移行するユーザーも今後は増えていくことなるでしょう。

 ブログは情報を瞬時に発信し、双方向コミュニケーションを行うための基盤となるシステムでした。つまり、ソーシャルメディア時代を準備した初期型パブリッシング・ツールでした。そのため、載せるコンテンツは多様です。しかし、今では発信したいコンテンツにあわせてツールの単機能化(モジュール化)が進んでいると言えるでしょう。

 今回、紹介したツールは、リアルタイム・ウェブ化により断片的になりつつあるコンテンツを再接続し、新たな視座を与えるためのものです。そして、ブログと同様、個人の情報発信にメディア的性格を帯びさせるものです。

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