新聞記者たちの不安を聞きに行く 【最終回】
朝日は早期退職に「7000万円」
記者たちの選択 

文:井上久男

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[文:ジャーナリスト 井上久男]

心を病んだ若手記者、メールで部下の悪口を流すデスク、こんなことでいいのかと思っているところに、早期退職の募集。留まるべきか、飛び出すべきか?

すぐ「パワハラ」と騒ぐ若手

 これまで2回の連載では、新聞社の取材力の低下や電子新聞の台頭といった問題を取り上げ、新聞記者がいまどんな不安を持っているのかを紹介してきた。そのなかでも印象的だったのが、新聞の未来を担う若い新聞記者を育てる土壌がなくなっているという指摘である。

 入社後に配属されて、記者として最初の訓練を受ける総局・支局の荒廃ぶりがそれを象徴している。

「デスクの指示もほとんどメール。チームで取材している仲間同士のやり取りすらメールです。たくさんの取材メモをメールでチームのメンバーに流すと、いかにも取材しているように受け止められ評価も高くなるが、その中身は『取材先に行くと玄関で犬が吠えていた』などアリバイ的に作成したものも多い。若い時からこんなことをやっていて本当に大丈夫なのか」

 こう指摘するのは、西日本の総局に勤務する朝日新聞の中堅記者だ。また、ゲラ刷りが出ても、今は記者の携帯用パソコンから確認可能で、データなどが間違っていたら記者が勝手にパソコン上で修正する。

 以前のように、ゲラを前に対面で侃々諤々と議論することがなくなった。デスクと原稿を通じたやり取りをすること自体が、若手記者の修行の場だったが、デスクが勝手に修正したものをメールで送りつけるだけのケースもある。

 記者としての基礎的な訓練が積まれていないため、入社2、3年目になっても「知事の記者会見で何を聞いたらいいか分からない若手もいる」と、この中堅記者は怒る。そして最悪なのは、注意したり指導したりすると、すぐに「パワハラ」だと騒ぐことだ。

「昔は取材が足りなかったり、原稿が下手くそだったりすると、目の前で原稿を破り捨てられたものだが、今ではそんなことをしようものなら、社内の『パワハラ110番』に駆け込まれてしまいかねない。

 若い記者が、厳しい上司をどうしたらパワハラで飛ばすことができるかを携帯メールで情報交換しているのを見たときには、こいつら何者なのかと気持ち悪くなった」(前出の中堅記者)

 筆者の取材では、朝日の別の部暑には、何かあるとすぐに「パワハラ」を叫び、実際に厳しい上司が飛ばされたことに味を占め、同じことを繰り返して、周囲から「パワハラゴロ」と呼ばれる若手記者もいた。

 また、仕事になじめず、メンタルを病む若手記者がいることも事実である。朝日の中堅幹部によれば、「平均して、10人前後の総局に一人はメンタルヘルスに問題を抱えている記者がいる」というから深刻だ。

 次に紹介するのは、大手紙のある支局での話だが、耳を疑うに違いない。その支局では、デスクが特定の記者を指しているとわかる形で、その記者を誹謗中傷するようなメールを、支局員全員に一斉送信したという。「被害」にあった若手記者はこう話す。

「私は時間をかけて人脈を作り、他紙が書かないような掘り下げた記事を書きたいと考えています。県庁の発表モノを引き伸ばして書けと指示を受け、それを拒否したところ、無視されるようになった。その挙げ句に、デスクは『日頃取材を優先してきた人も、たまには原稿を書いてください』という内容のメールを全員に送る。こんな会社は新聞社と言えるのでしょうか」

 ちなみに、この記者の評価を取材先に聞くと、「できる奴」ということだった。しかし、社内評価では最低ランク。彼は「会社がいやになりつつあります。辞めようかと思い悩んだこともある」と打ち明けた。

 こうした地方の「地盤沈下」を見かねたのか、朝日では、デスクの負担を軽減して、若い記者の指導に力が振り向けられるように「サブデスク制」を設けた。読売新聞も「メンター制度」を新設し、本社の中堅記者が地方の若手記者の悩みや相談を聞くようにしている。

 本来、新聞記者はコミュニケーション能力を生かして、取材先から情報を得てくるのが仕事なのに、社内コミュニケーションのために、こんな制度を作らなければならないことが、深刻さを物語っている。

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