牧野洋の「ジャーナリズムは死んだか」
2010年11月18日(木) 牧野 洋

村上ファンド、ライブドア事件報道を検証 日本の新聞はなぜ「裁判官」を報じないのか

「裁く側」をチェックしないメディア

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 日本の新聞紙面上では「捜査する側」は匿名、「捜査される側」は実名で報道されがちだ。以前の記事(「『捜査する側』を匿名にする日本の新聞報道」)で指摘した通り、検察など捜査当局は新聞のチェックを受けにくい。

 では、検察が起訴した刑事事件の99.9%に有罪判決を下してきた裁判所はどうだろうか。

 本来ならば「裁かれる側」と同様に「裁く側」も新聞のチェックを受けるべきだ。裁判所は司法権を行使する立場にある。つまり、立法権と行政権と並んで3権の一翼を担う巨大権力なのだ。

 ところが、検察と同じ「司法村」に属するからなのか、裁判官が新聞のチェックを受けることはあまりない。どんなに有名な事件であっても、担当裁判官の経歴や手腕はなかなか公にされない。

 例えば、村上ファンド事件の1審公判の舞台になった東京地裁。裁判長の高麗(こま)邦彦は2007年7月、インサイダー取引の罪に問われた同ファンド元代表の村上世彰に実刑判決を言い渡す際に、「安ければ買うし、高ければ売るという徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない」などと指摘した。

 以前の記事(「村上ファンド事件、1審判決の『おかしさ』に目をつぶった大新聞」)で書いたように、専門家の間では「実態を知らない素人の判断」という声も出た。裁判長は過去にどんな裁判を担当し、どんな司法判断を下してきたのか。そもそも経済事件に明るいのか。みんな興味津々だったのだが、主要紙を見てもどこにも何も書いてなかった。

 ライブドア事件の1審公判も東京地裁だった。1審判決が出たのは2007年3月で、ライブドア元社長の堀江貴文は村上同様に異例の実刑判決を言い渡された。裁判長の小坂敏幸は検察側の起訴事実をすべて認め、「粉飾した業績を公表して株価を不正につり上げた」と非難した。

 検察が起訴したのは50億円程度の粉飾であり、1800億円の純資産を持っていたライブドアにしてみれば少額だった。公判前には、『ヒルズ黙示録』の著者である大鹿靖明が「万引きに死刑宣告」などと書き、話題を集めた。検察の「死刑宣告」を認めた裁判長がどんな人物なのか、やはり主要紙には何も書いてなかった。

 厳密に言えば、紙面上に名前が出ることは多い。記事検索システム「日経テレコン」を使い、全国紙と地方紙を対象に村上ファンド事件に絡んで高麗が登場する記事本数を調べると、合計178本になった。もっとも、ほとんどは「~に対する判決が東京地裁(高麗邦彦裁判長)で言い渡された」といった形で名前が引用されているにすぎない。

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