企業・経営
孫社長が出し直してきた3度目の「光の道」構想はまたも「机上の空論」
タスクフォース委員は見た
町田 徹 プロフィール

 「合計4.6兆円のリスクを我々1社ででも取る覚悟があるということを宣言させていただく」---。

 ソフトバンクの孫正義社長が、やや声を強張らせて、こう述べ、単独で国策を背負って立つと広言したのは、11月9日のことだった。

〔PHOTO〕gettyimages

 舞台は、東京・霞が関の総務省だ。超高速通信網「光の道」を世界に先駆けて整備する方策を論じる政府主催のヒアリングの場での出来事だった。

 ADSL事業参入から10年未満で国内3位の通信コングロマリットを育て上げた孫社長の宣言だから、普通ならば、同社長は称賛の対象で、その覚悟に嵐のような拍手が起きてもおかしくない場面だったのかもしれない。

 しかし、実際に、その場に広がったのは、言葉では形容しがたい冷ややかなムードだった。過去2度に続いて、合計3度も「机上の空論」を聞かされるのかと不快感を隠せない専門家も少なくなかった。

 それにもかかわらず、孫ソフトバンクは各種のメディアを通じて、自社案こそ「税金ゼロで整備できる」「日本復活の鍵」と国民に売り込むのに躍起である。

 この落差は何なのか。なぜ、孫案は専門家に相手にされないのかを述べることにしよう。

 まず、「光の道」構想を説明しておこう。2015年までに国内の全世帯が光ファイバー網などの超高速ブロードバンド網を利用する状態を整備しようというものだ。

 実施案作りを担当しているのは、原口一博前総務大臣が昨年10月に設置した「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」の傘下にある「過去の競争政策のレビュー部会」と「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」という2つの部会である。

 すでに1年を超す歳月が検討に費やされている。

 筆者は、一介の経済ジャーナリストに過ぎないが、タスクフォースの末席に構成員(委員)として名を連ねている。

 その第16回会合として開催された関係事業者7社に対するヒアリングで、孫社長が主張したのが冒頭の「4.6兆円を投入する」という案だった。

「債務超過」の指摘に提案内容を修正

 孫案を検証する前に、もうひとつ触れておくべきことがある。ヒアリングはこれまでにも2度開かれているということだ。

 最初は4月20日の開催だった。2度目は8月23日のことである。2度目は、企業秘密に関わる経営データの議論が出るかもしれないと事務局が判断、非公開で開催した。

 最初の2回のヒアリングでも、孫社長は、それぞれ提案をした。一貫しているのは、「税金ゼロでできる」と言う点だ。その肝として語られるのが、「アクセス網の分離(家庭や事業所と電話局の間を結ぶ足回り回線を、NTTの東西地域会社から分離・独立させること)」である。

 ところが、それらは、筆者たち構成員の目からみると、杜撰極まりない提案
だった。以前にも本コラムで取り上げているのは,詳細はそちらを一読いただきたい。5月25日付の「『税金ゼロで光の道が整備できる』はムリがある」と、9月01日付の「『光の道』構想の真贋を問う」の二つがそれである。

 重複を避けるため、ここでは、ごく簡単に提案の問題点に触れるだけにしておく。

 最初のヒアリングでは、提案のミソが「光の道」建設を5年という短期間で終えることにあった。それによって、税金投入ゼロで実現できるとしながら、資金の調達は「既存の通信網の維持コスト削減」の10年分の積み上げなどとしており辻褄があっていない問題があった。

 しかも、このとき、孫社長はバックデータの速やかな公開を公約しながら、ソフトバンクが公約を果たしたのは1カ月近くも後のことだった。

 2回目、つまり8月23日の孫社長の提案が、タスクフォースの構成員たちを驚かせたのは、孫社長が最初の提案に固執し、一部にNTTの財務データを用いた試算が添付され、実現可能であるかのように述べられていたことだ。

 すでに述べたように、この日のヒアリングは非公開だったので、この提案について直接言及することは控えるが、経済学が専門のある構成員が「孫案の実現性の乏しさを周知する機会を逃した形。タスクフォースとしては、秘密会にしたのは失敗だ」と怒りを露わにした事実は紹介しておこう。

 孫社長が3度目のヒアリングに先立ち、10月25日に都内のホテルで記者会見を行って「光の道の実現に向けた新提案」を公表し、その中で、政府、NTT、KDDI、ソフトバンクの4者による新会社への共同出資を提案。その理由を問われて、孫社長自身が「一部に(新会社が)債務超過になるのではないかとの指摘があったから」と答えていることも申し添えておく。

 この言葉には、孫社長自身が8月提案の杜撰さを認め、10月の新提案に、その修正を図る狙いがあることを認めたという意味があるからだ。ちなみに、債務超過と言えば、上場企業にとって、市場第1部から2部市場への降格や上場廃止を招く大変な経営危機である。

 孫社長の修正のポイントは、ここに掲載した「アクセス回線会社の株主構成」である。赤い字で4者に募る出資額の内訳が記されている。

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