経済・財政
TPPはなぜ日本にメリットがあるのか 誰も損をしない「貿易自由化の経済学」

 APECの首脳会議は、11月14日、2日間の討議を終了し、首脳宣言「横浜ビジョン」を発表して閉幕した。

「横浜ビジョン」は「貿易や投資がより自由化され、より開かれているAPECの共同体を発展させる」としている。具体的には、(1)ASEAN=東南アジア諸国連合の10か国に日本、中国、韓国を加えた13か国での枠組み、(2)これにさらにインドやオーストラリアなどを加えた16か国での枠組み、(3)アメリカなど9か国が進めているTPPの3つを明記し、今後、APECが経済連携の基礎とし、域内での自由貿易圏を実現する必要があるとしている。

 この方向性はいい。残されたのは政治の問題である。今回は経済学の講義のようで恐縮であるが、自由貿易の経済学を示そう。そのロジックがわかると、残された政治課題も浮かび上がってくる。さらに、米国の主導だからけしからんとかいう感情論は意味ないこともわかる。

あくまで、日本の国益のために、自由貿易が望ましいのだ。自由貿易が望ましいとのロジックは経済学の中でも長い歴史で実証されているものなので、世界共有財産ともいえる英知である。

 ある農産品で関税等の貿易制限があると、海外からの輸入がなく国内供給だけになる単純なケースとしよう。その場合、価格はP1、取引数量はQ1となる。このとき、P1より高い価格でも買おうとする消費者もいるが、P1で買えるので、そうした人には「お得」になっている。それらは、三角形A・P1・E1で表される。これを「消費者余剰」という。

一方、生産者にとってもP1より低い価格で出荷してもいいという者もいるが、P1で出荷できるので。そうした者にとっては「利益」になる。それらは、三角形P1・B・E1で表される。これを「生産者余剰」という。消費者余剰と生産者余剰の合計は、この農産品取引のメリットであり、三角形A・B・E1で表される。

 そこで、貿易制限を撤廃し貿易自由化を行うと、海外からの輸入が増えて、価格はP2まで下がり、取引数量はQ2まで増える。

こうなると、価格低下のメリットによって、消費者余剰は、三角形A・P2・E2と増える。貿易自由化前との差は、台形P1・P2・E2・E1である。

生産者余剰はやや複雑だ。国内生産者と海外生産者の合計では、三角形P2・C・E2となる。このうち国内生産者余剰は、三角形P2・B・Dになる。これは、貿易自由化前と比べて台形P1・P2・D・E1だけ海外製品の輸入に押されて縮小する。

 海外生産者は、三角形P2・C・E2から三角形P2・B・Dを除いた、四角形D・B・C・E2となる。これは皆増である。

消費者の利益で穴埋めできる

 貿易自由化によって、打撃を被るのは国内生産者であって、その損失額は台形P1・P2・D・E1である。一方、利益を受けるのは、国内消費者と海外生産者であって、その利得額はそれぞれ台形P1・P2・E2・E1、四角形D・B・C・E2である。

 しかしながら、国内生産者の損害額の台形P1・P2・D・E1は、国内消費者の利得額台形P1・P2・E2・E1より、必ず小さく、国内消費者の利得額の一部で穴埋めができる。そうしても、国内消費者は貿易自由化の前より状況はよくなる。

 さらに、海外生産者の利得は貿易自由化によって初めて得ることができる。貿易自由化は相互主義なので、ある農産品では日本は輸入ということなるが、ある工業品では日本は輸出の立場になる。そうなれば、農産品の海外生産者と同様に輸出者として利得を得ることができる。

 以上から、国内消費者、国内生産者、それに海外輸出者のすべてのメリットを合算すれば、日本にとってメリットになり、そのメリットを国内で再分配することによって、誰も損しない状況を作ることができる。

 なお、食の安全や環境面の考慮をしても、供給曲線などに多少の修正は必要になるが、それでも上記の結論は大きく変わらず、貿易自由化を否定することはできない.

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