海上保安官逮捕の「判断」を左右させた「日中首脳会談」の成否
安保・外交での能力不足をまたまた露呈した菅政権

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突を巡るビデオ映像流出事件で、第5管区海上保安本部(神戸市)神戸海上保安部所属の海上保安官・主任航海士(43)が捜査中の警視庁捜査一課に対しインターネット上の動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿した供述している。それにも拘わらず、今なお同保安官は国家公務員法(守秘義務)違反容疑で逮捕されていない。ほぼ間違いなく「確信犯」であるのに、なぜか。

 ソウルで開かれていた主要20ヵ国・地域(G20)首脳会議終了後の12日夕、中国の胡錦濤・国家主席(共産党総書記)は横浜で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため来日した。13日午前に市内のインターコンチネンタルホテルで予定されている菅直人首相との日中首脳会議が実現するかどうかは直前ギリギリまで分からない。

 改めて指摘するまでもなく、件の海上保安官逮捕の判断は、この日中首脳会談の成否と関係している。海上保安官が神戸海上保安部所属の巡視船「うらなみ」から下船し、同部施設内で取調べを受けた10日中に逮捕されていたら、検察への身柄送検は12日になっていた。

〔PHOTO〕gettyimages

 つまり、胡錦濤氏来日の、まさにその日にぶつかっていたのだ。

 海上保安庁から告発を受けた東京地検と警視庁は今回も、沖縄地検が9月24日に中国人船長を超法規的措置によって処分保留・釈放を発表した時と同じように、官邸側の意向を忖度、"外交配慮"しているのではないか。

 首脳会議議長を務める菅首相は14日午後1時30分、会場のパシフィコ横浜会議センターでオバマ米大統領をはじめメドベージェフ・ロシア大統領ら各国首脳の前でAPEC首脳宣言を発表、午後3時から記者会見に臨む。

 ところが、胡錦濤氏は首脳宣言発表直後の午後1時45分ごろには会場を後にして、早々と帰国の途に着く予定だ。従って、海上保安官は同日の夕方以降に逮捕されるのではないか。

 一方、現時点では、約44分の編集ビデオ映像を神戸の海上保安官に提供したのは第11管区海上保安本部(那覇市)石垣海上保安部所属の巡視船「よなくに」幹部乗組員・海上保安官ではないかという情報もある。「共犯者」の存在の可能性だ。そちらの捜査に時間が難航しているので、件の海上保安官逮捕を見合わせているという見方である。

 それにしても、菅政権、というよりも仙谷由人官房長官率いる官邸サイドがAPEC首脳会議開催期間中の強制捜査への踏み切りに難色を示しているのは明らかである。これにはもちろん、理由がある。

 日中両国の外交当局それぞれの対日、対中ラインの劣化ということだ。中国の対外政策の最高意思決定機関は「共産党中央外事工作指導小組」で、組長は胡錦濤・国家主席、副組長は習近平・国家副主席。同組弁公室主任の戴秉国・国務委員が尖閣問題など対日政策においても胡国家主席の腹心として政策を提案する。

 共産党外事弁公室主任でもある戴氏は対日政策・工作を行う非公式組織「日本組」の組長も務めているとされるが、同組では外交部、国防部、商務部、さらに党中央対外連絡部などから横断的に対日関係幹部を集めて対日戦略を協議し、胡氏に直接報告する。

脆弱だった日中双方の対中、対日ライン

 その戴秉国・国務委員と、仙谷官房長官は尖閣問題がヒートアップの真只中の10月1日夜、密かに飯倉公館で電話会談を行い、その直後のアジア欧州会議(ASEM)での菅首相と温家宝・首相との「ハプニング会談」のお膳立てしたとされる。

 実は中国側の外交部には呉江浩アジア局副局長を除くと、胡正躍・外務次官補、楊燕怡・アジア局長など幹部クラスに「知日派」がいない。そして日本側も丹羽宇一郎駐中国大使は元伊藤忠会長の民間人であり、下支えの横井裕次席大使と堀之内秀久公使(総務班長)の両チャイナスクール出身者も北京勤務にブランクがある。

 所管局長の斎木昭隆アジア大洋州局長はアメリカンスクールだ。

 日中双方の対中、対日ラインが脆弱であることが、尖閣事件発生当初対応のボタンの掛け違いとなり、今日まで尾を引いているのだ。政権担当能力上の「基礎学力」である外交・安保での対応に大きな疑問符が付いたと言える。

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