「内部留保ゼロ」「借入は社員から」という会社の挑戦
不況下で成果主義の見直し相次ぐ

 1月25日から「労使フォーラム」が始まり、春闘の火蓋が切って落とされた。サラリーマンの懐事情や働き方にも影響する「風物詩的」なイベントでもある。26日には日本経団連の御手洗冨士夫会長と連合の古賀伸明会長が会談。定期昇給を巡り、賃金を抑制したい経営側と一定の賃上げを求める労組側との軽いジャブの報酬もあった。

 いわゆる「派遣村」など、その日の暮らしにも行き詰る人が増えている中で、賃金よりも雇用を優先すべきだといった意見がある。賃上げだけを求める「春闘」ならば、デフレ経済が進むこの深刻な経済状況下で、「何と悠長なことか」といった批判も出るだろう。

 「春闘」は、単なる賃上げ交渉ではなく、働き方など様々な課題について労使が真摯に話し合う貴重な場としての機能を強めていくべきである。

 ところで今、その働き方で大きな揺り戻しが起きている。1990年代後半から多くの企業が、個人の実績を査定して給与や賞与などを決める成果主義を導入した。しかし、この結果、個人主義が蔓延り、チームワーク力も衰え、組織としての競争力が大きく低下したため、最近、その見直しを始めたのだ。

 08年の労働経済白書でも、成果主義が人件費削減の方便であり、これにより社員のやる気が低下したと指摘。そして09年の労働経済白書は「成果主義の導入に近年急ブレーキがかかった」と述べている。

 成果主義を改めた代表格の1社が三井物産だ。同社は99年に成果主義を導入し、その結果、個人が自分の業績だけを求める風潮が強まった。

 02年に国後島ディーゼル発電施設不正入札、04年にディーゼル車の排ガス浄化装置のデータ捏造といった世間を騒がす不祥事が相次いで起きた理由は、「プロセスを見ずに成果ばかりを優先させる風土も一因」と社外の有識者から指摘された。このため、三井物産では06年から、入社9年間は能力給に差がつかない資格制度を導入した。

 同時に社員寮も復活させた。舎監がいて、共同の風呂や食堂付きの昔ながらの独身寮だ。大卒新人のほぼ全員が入寮する。コミュニケーション能力が低い若者が増えた中で、社内ネットワークの場を提供する狙いもある。

利益はすべて値下げと社員に還元

 広島市に本拠を構える株式会社「21(トゥーワン)」は、広島県内に22店舗(グループでは128店舗)の「メガネ21」を展開している。経営の特徴は、利益はすべて値下げの原資と社員への配分にあてるとうたっている。内部留保をまったく持たない。課長や部長などの管理職もなく、ノルマもない。評価や賞与も社内ですべてオープンにしている。

 月給の上限は27万円で、残りは賞与で対応する。細かい査定制度はなく、アバウトに評価する。評価担当の大上博己取締役は「ふだんの仕事ぶりや、同僚に話を聞いて評価する。少人数なのですべて見えるからできる仕組み」と話す。

 「21」のもうひとつの特徴は、銀行借入をしないことだ。運転資金は社員からの借り入れでまかなう。約10億円借りている。08年までは年率10%の利子を払っていたが、今は利息分をメガネを値下げする原資に回すため3%に落とした。近いうちに10%に戻すという。社員借り入れの仕組みは一口50万円。利息狙いだけで借り入れに協力する人は排除するため、借り入れの時に会社側が仕事への取り組み方などを評価した上で決める。

 働きによって差をつけても社員が高いモラルを維持し、経営に参画するつもりで仕事をしてもらうことを狙った制度だ。

 筆者は1月半ば、創業者の一人、平本清取締役にインタビューした。

「みんなで稼いで、みんなに配る仕組みです。会社は人間性を大切にした運命共同体でありたい。実際の稼ぎよりも多く収入を得た人は、稼いでくれた人に感謝して欲しい。稼ぐのは下手でも稼ぐ人をアシストすれば評価します」

 と説明してくれた。

 社会が大きく変化する中で、人の働き方とその評価方法は当然変わってくる。そして成果主義の否定は、社員を甘やかすことではない。ビジネスの現場はどこも競争が厳しくなっており、それを勝ち抜くには、シビアな働き方も求められる。「愛のある厳しさ」が必要なのかもしれない。

 大相撲の横綱が、自分が本場所で優勝すればよいだけではなく、見込みのある若手に胸を貸して未来の横綱を育てる、そんな気概が必要なのと同じではないか。

 不透明な時代になり、過去の成功体験が通じにくい世の中で頼りになるのは、コンピューターではなく、人間の志や創造性だろう。志や創造性を失わせる成果主義ならば不要である。

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