瀬戸内寂聴vs塩野七生「どうやって死にましょうか」
「現代ビジネス」創刊記念対談〔後編〕
リードヘンリー・フォード曰く。「出来ると信じるか、出来ないと信じるか、どちらも結果は完全にその通りになる」当代きっての輝ける二人の女流作家は、一日では語り切れず、二日に渡って語り続けた。自分自身の人生のこと、大作を書き上げたときの高揚感、そしてやさしく鳩山由紀夫首相に対する助言も与えてくれた。いま日本人にとっていちばん必要な精神は、寛容なのである。

 もう長生きはしたくないけれど、やりたいこともある。日本を代表する女流作家が、ローマ時代の英雄の生き様から、現代の大物政治家の有り様までを語り尽くす。

何もかも本当は面倒くさい

塩野 男っ気がなかったら、歴史上の人物だって生き生きと書けません。わたしは2000年以上も前の男に恋情を抱けるんです。書いているときは、彼の胸の筋肉の感触まで感じましたね。

瀬戸内寂聴
せとうち・じゃくちょう 1922年徳島県生まれ。東京女子大学卒業。小説家、比叡山延暦寺禅光坊住職。代表作に『夏の終り』、『花に問え』など。近年は『源氏物語』全10巻をはじめ源氏物語を題材にした著書を多数発表。'06年に文化勲章受章。近著に『わたしの蜻蛉日記』

瀬戸内 えーっ!わたしはやっぱり現実の男のほうがいいわ。だって死んでしまった人間は恋情をかきたてても性愛は不可能でしょ。でもきっとローマ時代の男たちは魅力的なんでしょうね。塩野さんの本を読んだだけでも惚れ惚れする男がいっぱいいますよね。

塩野 わたし、男を見る場合、欠点よりもいいところはどこなんだろうと探すんです。そうすると大抵の男はいい男になってくる。

瀬戸内 たしかにそうね。でもイタリアの男は女に徹底的にサービスしてくれるんでしょう。

塩野 そんなことはありません。あれは伝説です。

瀬戸内 そう?でも映画に出てくるイタリアの男はみんな恋愛のテクニシャンじゃないですか。

塩野 イタリアに77歳でノーベル医学賞をもらった100歳の女の人がいるんです。さすがにしわくちゃだけど、お洒落なんです。頭の回転もきちんとしている。言葉遣いもちゃんとしていて理論的に話す。そして生涯独身だった。その彼女がニュース・キャスターの「どうしてあなたはこういう状態を保っていられるのか」という質問に、「わたしはね、明日やることがわかってるの」と堂々と答えたんで、イタリアの連中は仰天したわけです。

瀬戸内 凄いわね。それはわたしも負けますね。日本でも作家の野上弥生子さんや宇野千代さんは100歳前まで現役で仕事をして立派でしたよ。

塩野七生
しおの・ななみ 1937年東京都生まれ。学習院大学卒業。小説家。イタリアを舞台にした歴史小説を数多く執筆。主な著書に『海の都の物語』、『ローマ人の物語』。'02年、イタリア政府より国家功労勲章を授与され、'07年、文化功労者に。最新刊は共著『ローマで語る』

塩野 そこでわたしも考えたんです。あんなに長生きして立派にいられるのは、常人じゃない。ただごとではない。だから凡人のわたしは体に悪いことをいっぱいして早く死んでやろうって。タバコは吸うわ、お酒は呑むわ、何はやるわ。わたしはあと10年書けたら本望と思っているんです。でもそのあと介護されるなんてまっぴら。若い介護の人に幼稚園児みたいな口調でいろいろいわれたら、わたし憤死するんじゃないかと思ってるんです。

瀬戸内 わたしもそうなったら、相手のおでこんで死にたいね。憤死したい。だけど人間には定命があって、そう思うように死ねないのよ。長生きして老残のみじめをさらすのも人生です。

塩野 寂聴先生は100歳まで生きそうですね。

瀬戸内 いや、もういや。みんな100まで生きるっていうんです。じっさいそうなったらどうしようかと思ってます。いま満で87歳ですよ。この正月で、数えで89歳です。

塩野 だから死ぬようなこと、体に悪いことを全部やればいいんですよ。でも先生はずっとお話しになるのよね。わたしは書くならちょっと自信があるけど、話すことってとてもいや。

瀬戸内 わたしももういや。何もかも本当は面倒くさい。