サラリーマンの所得を引き上げる「法人税減税」が財務省に潰される
菅政権の目玉政策がまた消えた!

 菅直人政権が経済対策の目玉に掲げていた法人税5%引き下げが風前の灯になりつつある。

 財務省が法人関連税制の枠内で「税収中立」を唱えて、法人税の単独引き下げを頑として認めず、恩恵を受けるはずの経済界さえもが「課税ベースの拡大を言うなら、引き下げなくても結構」(米倉弘昌日本経団連会長)と言い出したからだ。

 当コラムも先に指摘したが(10月22日公開「仙谷官房長官の「軽口連発」に霞が関が嗤っている」)、こういう展開になるのは、ほとんど夏の段階で見えていた。

 菅直人内閣は「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」を9月10日に閣議決定している。その中で法人税引き下げについて、次のように記していた。

「法人実効税率の引き下げについては、日本に立地する企業の競争力強化と外資系企業の立地促進のため、課税ベースの拡大等による財源確保と併せ、23年度予算編成・税制改正作業の中で検討して結論を得る」

 典型的な官僚の文章だが、この段階ですでに「『課税ベースの拡大等』が法人税引き下げの財源ですよ」と釘を刺されていたのだ。繰り返すが、これは閣議決定の文書だ。したがって当然、法人税引き下げの旗振り役になっている経済産業省も了解している。

 課税ベースとは、簡単にいえば「課税の対象になるもの」だ。課税ベース×税率=税額である。

 法人税について言えば、狭い意味では、企業の減価償却や貸倒引当金、繰越欠損金など課税対象から控除できるものを廃止したり縮減することで課税ベースが拡大する。これは企業レベルの課税ベースと言ってもいい。

 より広い意味では、研究開発や設備投資減税のような租税特別措置の見直し・縮減によっても課税対象が広がるので、租特見直しも課税ベースの拡大である。こちらは産業レベルの課税ベースになる。

 閣議決定が注意深く「課税ベースの拡大等」とわざわざ「等」の一文字を加えた背景には、減価償却の見直しといった企業レベルの議論だけでなく「必要とあらば、産業レベルの租特見直しにも踏み込みますよ」と念を押す意味合いがある。

 こういう文章になったのは、もちろん財務省の意向である。

 経産省はいまになって、財務省の税収中立論に対抗するために「減価償却の見直し」や「繰越欠損金の使用制限」にはしぶしぶ同意する一方、租特見直しに抵抗しているが、閣議決定の文章に同意した段階ですでに負けていたのだ。

 その一方、法人税引き下げが難しくなった場合に備えて、閣議決定には経産省らしい「セーフティネット」も用意していた。先の文章のすぐ後に続けて「政策税制措置」という文言を滑りこませて、こう記している。

「雇用の増加に応じ、企業の税負担を軽減する措置を講ずるなど、有効な税制措置の具体化を図る。また、企業の環境関連の設備投資・技術開発等を推進するための税制上の措置を講ずる」

 つまり雇用促進税制と環境関連の設備投資、研究開発税制の拡充である。これは民主党が公約していた租税特別措置の簡素化とは正反対で租特の拡充にほかならない。

 この閣議決定を裏から読めば、ようするに菅政権は「法人税引き下げ」や「租特簡素化」を経済政策のうたい文句にしながら、官僚たちはしっかり裏で手を握って「法人税引き下げがだめなら、租特拡大は頼みますよ」という談合を成立させていたのである。

 財務省は経産省ととっくに握っているものの、経済界がうるさいので「そんなに言うならナフサ免税をやめて、一部課税しますよ」と脅している。数ある租特の中でも、ナフサ免税は減収額が3兆7000億円ともっとも大きい。

 経済界はとたんにびっくりして「それなら法人税引き下げはいらない」とすっかり及び腰になってしまった。こうなると、せいぜい設備投資と研究開発、多少の雇用促進減税が実現すれば、手打ちという運びになる公算が大きい。

 もともと経産省ですら「5%はのりしろ分を含めた数字。たとえ2%程度でも引き下げが実現すれば御の字」と踏んでいた。大風呂敷を広げた数字なのだ。1%も実現できないとしても、経産省からみれば、いわば「織り込み済みの敗北」である。

賃金上昇の可能性もあった

 経産省が本当に引き下げを実現しようとするなら「(法人関連税制の)課税ベースの拡大等」を財源として容認せずに、納税と社会保障の共通番号制導入など、もっと幅広く税収全体の課税ベースを拡大する方策をめざすべきだったのだ。

 サラリーマンからみれば、ニコヨンとかクロヨンと呼ばれる、業種によって異なる所得捕捉率の不公平を是正し、それを財源にしてくれるなら、まだましだった。

 共通番号制の導入はそうした不公正是正につながるだけでなく、低所得者に手厚い給付付き税額控除制度を創設する基盤になる。

 サラリーマンからみると、法人税引き下げの話は縁遠いようでいて、実は賃金上昇につながる可能性があるので本来、歓迎すべきである。

 法人税といっても、最終的に税を負担するのは株主や従業員、取引先さらに消費者という「顔のある個人」である。法人とは、単なる枠組み=ハコにすぎない。

 したがって法人税が引き下げられれば、配当や賃金、製品価格の引き下げなどによって結果的にサラリーマンにも恩恵がある。めぐりめぐって中長期的には設備投資の拡大を促して経済活性化につながる、というのが普通の経済学のロジックである。

 とかく「企業を減税して個人の所得税を増税するのは不公平」という議論が起きやすいが、ここは「会社の税引き後利益が増えれば給料も上がる」と冷静に考えるべきだ。

 それにつけても、経産省の戦略のなさがなんとも歯がゆい。産業界ばかりに目を向けて、国全体を見渡した政策を考えてこなかったつけが回っている。

 (文中敬称略)

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