金融・投資・マーケット
買収資金を肩代わりさせ、社員削減で返済 名門ファンドの呆れた投資戦略の実態
「是非、(希望退職に)応募して下さい。
特に、あなたは」――

 ベインキャピタルという投資ファンドをご存じだろうか。

 米国では、あのマッキンゼー・アンド・カンパニーなどと並び称される名門コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」の系列で、7兆円という巨額の資金を運用する大手ファンドだ。サーティワンのブランドでアイスクリーム店をチェーン展開するバスキン・ロビンスなどへの投資でも知られた存在という。

 2006年に開設された日本事務所のホームページを見ても、「単なる資本の提供にとどまらない中長期的視点での戦略立案・実行支援により真の企業進化を実現します」と仰々しく連ねている。

 しかし、ベインキャピタルが傘下に収めた「ベルシステム24」というコールセンター事業大手の例を取材したところ、こうした美辞麗句とは程遠い実態が浮かび上がってきた。

 買収対象に買収資金を借り入れさせた挙句、これといった成長戦略を提示できず、"指名解雇"紛いの人員カットによる経費削減で、借金の返済資金を賄おうとしているというのである。

 今回は、ハゲタカを地で行くような米国系の投資ファンドのビジネスの知られざる実態をレポートしたい。

 1982年創業のコールセンター業の老舗「ベルシステム24」(本社・渋谷区)が、ベインキャピタル傘下の投資目的会社「BCJ-4」の公開買い付けに賛同すると発表したのは、昨年11月19日のことだ。

 そもそもベルシステム24は、1986年に、資本参加を受けて、創業者経営者の大川功氏が率いていたCSKグループに入った。そして、1997年に東京証券取引所第2部に上場するなど順調に成長。2004年に、ソフトバンクと包括業務提携に踏み切り、同社のテレホンセンターを運用するBBコールの株式を全株取得して子会社化した。

 ソフトバンクにとって、この案件は、英ボーダフォンからボーダフォン・ジャパンを買収するために必要だった資金を調達するための金融取引だったことから、金融関係者の話題になった取引でもあった。当時のベルシステム24は、役員の派遣問題などを巡って、大川氏亡き後のCSKと対立する関係になっており、同グループからの離脱を模索していた。

 このとき、ベルシステム24が行った第3者割当増資を引き受けることによってBBコールの買収資金を提供しただけでなく、CSKが保有していたベルシステム24株の買い取りや同株式の公開買い付けなども次々と断行し、ベルシステム24の新たな親会社に収まったのは、日興コーディアル証券グループだった。

 ちなみに、筆者は、後に休刊する月刊誌「現代」の2006年2月号で、日興コーディアルグループの粉飾決算疑惑を指摘した。日興は孫会社「日興プリンシパル・インベストメント」を通じてベルシステム24を買収しながら、これを連結対象としなかったにもかかわらず、含み益だけを本体の連結決算に取り込むという不適正な決算処理を行っていた。

 ベルシステム24の社員たちの運命の流転はここから始まったと言ってよいだろう。日興が粉飾決算の訂正に伴い、会社としての信用を失い、米シティグループに身売りすると、ベルシステム24の経営権もシティに移ったのだった。

 そして、リーマン・ショックに象徴された米国発の経済・金融危機の直撃を受けたシティグループのシティグループ・キャピタル・パートナーズ(旧日興プリンシパル・インベストメント)が、保有していたベルシステム24の発行済み株式総数の93.49%にあたる株式の売却・換金を希望したため、ベインキャピタルが買収に名乗りをあげることになったというのである。

 ただ、金融界では「ベインキャピタルのベルシステム24買収は高値掴みだった」(M&Aの仲介実績が豊富な米国系証券会社)と冷ややかに分析する向きが多い。中には、「日本市場の環境も考えず、手掛けた案件、実績作りに拘って、無理な買収を試みたことが仇になったと見るべき」(米系コンサルティング会社)といった見方もある。

 不良債権問題の嵐が吹き荒れて、貸し剥がしが横行したため、経営の継続を断念して会社の売却を希望する企業が続出する中で、投資ファンドの進出や創設が相次いだ2000年代初頭と、昨今の日本市場は大きく異なっている。ある程度、経済が落ち着いてきたため、売却希望案件数が激減したため、以前のように、企業を買い叩くことは、難しい状況になっている。

 前述のようにベインキャピタルは2006年に日本事務所を設置した後発組のファンドである。米国での名声がどんなに高かろうと、こうした日本市場での実績が乏しいファンドにとって、企業を安い値段で買い叩いて入手し、短期間に簡単なリストラクチャリングを施して、高く売り抜けることが可能な案件を発掘するのは容易でないというのである。

 それでも買収を強行したことのツケ、つまり高値掴みがの一端が垣間見える部分もある。前述の昨年11月19日付のプレス・リリースによると、2009年2月期のベルシステム24の連滅ベースの売上高は1157億円、経常利益は137億円に過ぎないのに、公開買い付けに999億円の資金を投入するという方針を明らかにしている。

 業績や資金調達の詳細について、同社広報室の高場正能室長は「当社は非上場企業でもあり、開示できない」としている。

背負い込まされた700億円の借り入れ

 しかし、別の同社幹部によると、「ベルシステム24は、複数のLBO(レバレッジドバイアウト)ファンドを組成させられて、合計約700億円の借り入れを背負い込まされた」と言うのだ。

 この幹部は、「(先述したように買収の際の特殊事情があって、2015年ごろまでは)ソフトバンクが巨額の手数料を支払ってくれるBBコールを子会社として保有しているので、なんとか、こうした借り入れができたが、実力から言えば、借り入れの規模は過大で無理がある」と断言する。

 ちなみに、BBコールを除いたベルシステム24単体の収益力は「売上高が700億円程度、経常利益が30億円程度が実力」らしい。買収先の企業の資産やキャッシュフローを事実上の担保にして、買収資金を調達するLBOファンドを、しかも、これほど巨額のLBOファンドを組成させられたことは、後述するように、ベルシステム24や同グループの従業員に重くのしかかっていくことになる。

 LBOファンドの借り入れは、運転資金の借り入れ枠の設置も含めて3本立てとなっており、5年かけて後年度になるほど元利返済が多くなるものと、5年後に一括返済するもの(5年後に、借り換えで対応する皮算用?)、そして枠だけのものの3種類になっているという。平均の金利は年5.0%程度で、利払いだけでも年間35億円あまりが必要になる計算だ。

 一方のベインキャピタルは、ベルシステム24にこのLBOファンドを組成させたことにより、自己資金による投資を約200億円に抑えることに成功した。それで、シティの「1000億円強で売却したい」という希望との折り合いをつけることができたというのである。

 ちなみに、「シティの方は、なかなかのしっかり者だった」と明かすのは、売却のアドバイザーについた米ゴールドマン・サックスの関係者だ。別の情報源からは、シティは、ベルシステム24売却の直前に、同社に200億円前後の特別配当を実行させて、この資金もちゃっかり懐に入れたと聞く。

 繰り返すが、当のベルシステム24にとって、こうしたLBOファンドの組成で背負わされた借入金の返済は、決して軽い負担とは言えない。

 さらに、ベインキャピタルから派遣された経営陣や、新たに採用されて派遣されてきた管理職の面々にも、クライアント企業からアウトソースされるコールセンター業務が中心のベルシステム24グループの業務に精通し、収益を短期間に劇的に改善するノウハウを持つ専門家は一人もいないという。

 こうした中で、新経営陣が、元利の返済を控えて、資金調達のために依存するのはリストラクチャリングしかない。これこそ、ビジネス実務の経験の乏しい、米国型のビジネススクールのMBA(経営学修士号)保有者たちが考えそうなステレオタイプの手法である。

 中でも重点が置かれているのが、人件費の削減だ。

 筆者が入手した管理会計上の経営計画書によると、直接費・間接費をあわせて正社員の人件費は10月が約9億5000万円だったが、これを11月には9000万円少ない8億6000万円に減らす予定になっている。

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