企業・経営

業界激変!トヨタが営業利益で日産に破れた理由

産業界の勢力図が塗り代わり始めた
〔PHOTO〕gettyimages


本業での儲けを示す営業利益額の比較で、トヨタ自動車が日産自動車に負けた――。

 1982年にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が合併して現在のトヨタが誕生して以来、ともに黒字状態での比較では初めてのことだ。

 自動車産業を長年ウオッチしてきた筆者から見て、信じられない出来事である。しかし、冷静に考えると、これは、2008年9月のリーマンショック以降、産業界の勢力図が変わろうとしていることを象徴している。

 トヨタが11月5日発表した2011年3月期の中間連結決算は、売上高が前年同期比15・5%増の9兆6784億円、営業損益が1369億円の赤字から3231億円、当期純損益が560億円の赤字から2891億円の黒字にそれぞれ転じた。円高の影響で1200億円の減益要因があったものの、エコカー補助金による国内での販売増や経済成長が著しいアジアでの好業績に支えられた結果、増収増益になった。

 しかし、前日発表した日産の連結中間決算と比較すればトヨタは大きく見劣る。日産の売上高は27・7%増の4兆3191億円、営業利益は約3・5倍の3349億円だった。日産もトヨタ同様に国内やアジアで販売が伸びたことが好業績につながった。ただ、日産の売上高はトヨタの半分以下であることを考えると、いかにトヨタの利益率が低いかが分かる。

 両社の収益構造をもう少し細かく見ると次のようになる。地域別営業利益で、国内は、トヨタが520億円の赤字(前年同期は2577億円の赤字)なのに対し、日産は850億円の黒字(同432億円の赤字)だ。北米は、トヨタが1557億円の黒字(同120億円の黒字)に対し、日産は1291億円の黒字(同906億円の黒字)。欧州は、トヨタが89億円の赤字(同186億円の赤字)で、日産は276億円の黒字(同65億円の黒字)。アジアは、トヨタが1642億円の黒字(同654億円の黒字)で、日産は958億円の黒字(同253億円の黒字)だった。

 このデータから言えることは、トヨタは北米とアジア以外は赤字で、日産はすべての地域で利益を出しているということだ。これが業績の勢いの差に現れている。販売台数を見ても北米でトヨタは15%増の約104万台、日産は9・8%増の約45万台。トヨタは日産の2倍以上を売っているが、営業利益は日産の1・2倍でしかない。トヨタの北米事業の低収益性を物語っている。これまでのように高級車が飛ぶように売れなくなったことや、原価構造が高いことも低収益の理由だ。

 トヨタにとって、国内事業の赤字が続いていることは頭痛の種だ。この原因は、トヨタは国内生産の比率が高く円高の影響が大きいことや、過剰設備の状態にあるからだ。トヨタの年間グローバル生産に占める国内の比率は4割程度だが、日産は3割を切っている。大衆車「マーチ」を追浜工場(横須賀市)からタイ工場に移管したことが日産のグローバル生産推進の象徴的な戦略である。海外からの部品調達も日産の方が早くから推進している。こうした取り組みの差も国内事業の収益に影響している。

 さらに日産は来秋以降、同社最大の生産拠点である九州工場(福岡県苅田町)を分社化し、賃金上昇を抑制する計画だ。円高が進む中で、もの造りのノウハウの固まりである熟練技術などを国内に残すため、苦肉の策として分社化に踏み切る。これ以上賃金が上昇すれば、今の円高の状況では競争に耐えられず、さらに生産拠点を海外に移すことは避けられないからだ。

「国内生産300万台死守」という厳命

 こうした日産の動きに、「日産は『外資』なので日本から簡単に出て行く」という批判がマスコミの中にある。トヨタ内部にも「日産は日本自動車工業会の会長企業なのに日本を捨てていいのか。うちはこうしたことはやらない」と指摘する声もある。これは、トヨタは日本企業のリーダー的存在の、いわゆる「経団連銘柄企業」であり、空洞化を招くような行動を簡単には取らないということを意味している。豊田章男社長も「国内生産300万台の死守」を厳命している。ただ、一方で、本コラムでも報じたように、トヨタは「カローラ」の輸出用の国内生産を海外に移す方向で検討している。本音では今の円高にもう耐えられなくなりつつある、ということであろう。

 こうしたトヨタの言動に対し、系列の部品メーカーからは「本音と建前が乖離しすぎており、付いていく下請企業には非常にわかりづらい。海外に出て行く時期がきていると、はっきり言うべきではないか。このまま日本に残っていては国際競争から取り残されるだけだ」といった声も出ている。

 筆者は、今の為替状況や国内の経済情勢などから見ても海外事業を拡大させ、その収益で国内の雇用や技術を守る局面にきていると思う。頑なに日本の雇用を守るというトヨタの姿勢も企業の社会的責任を果たすという意味で評価できるが、このままでは低収益が続き、結果として工場閉鎖など国内の雇用を維持できなくなる局面が来るのではないか。

 かつての日産も、ブラザ合意以降の円高に悩まされ、1986年に創業以来初の営業赤字を計上した。その後、日本はバブル経済に突入したので、日産では構造改革すべき課題が覆い隠され、抜本的な対策を打てなかった。これが尾を引き、倒産寸前の経営危機に陥り、仏ルノーの傘下に入ることになった。これを「他山の石」とすれば、トヨタにも待ったなしの判断が迫られている。一度は倒産した米GMが息を吹き返しているように、自動車産業の勢力図が塗り変わるスピードは早いのだ。

 しかも、今回の円高は、過去の円高とは状況が大きく違っている。これまでは、ドルに対して円高になると、マルクなどの他通貨も同調する傾向にあった。このため、ドイツ車との競争環境は大きく変わらなかったが、今回は主要通貨では円だけがドルに対して高くなっている。また、過去の円高局面では、海外販売車の価格を引き上げることで為替の変動を受けることを避けてきたが、多くの先進国でデフレ的な経済情勢が続いており、価格転嫁できないといった状況にある。

 5日に決算会見したトヨタの小沢哲副社長は「トヨタの競争力を超えた為替水準だ」と悲鳴を上げた。そして、「下半期に600億円の営業利益を見込んでいる。これは少し大袈裟な言い方になるが、この利益目標を達成させることが国内生産を維持していくうえでの最低の必要条件」と語った。もし、「カローラ」が海外に生産移管した場合、約15万人の雇用が失われると、トヨタ内部では試算されている。

 トヨタが今の窮地から抜け出すことは自助努力しかない。しかし、民主党政権の無策が招いた円高が、トヨタというこれまで日本経済を牽引してきた企業の屋台骨を揺さぶり、国内の雇用に影響しかねない戦略の見直し着手のきっかけになっていることを、政権与党は重く受け止めるべきであろう。

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