菅直首相が乾坤一擲の勝負を賭ける「TPP解散」の可能性
尖閣ビデオ流出
メドベージェフ北方領土訪問で失点続き

 11月13日から2日間、横浜で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を間近に控えた現在、今年後半の最大政治イシューとなった環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加を巡る各セクター内の対立激化によって、ここに来てにわかに「TPP衆院年内解散・総選挙」説が急浮上している。

 民主、自民両党内では賛成派と反対派との対立が露となり、霞が関にあっては推進派の外務省・経済産業省と反対派の農水省との対立が先鋭化、さらに経済・労働界でも積極派の経団連など経済3団体と絶対反対の全国農業協同組合中央会(JA全中会)が対峙している。

 この抜き差しならぬ対立構図を象徴するのが政府・与党内の「ねじれ」現象である。

 4日午前と夕方の2回、民主党は国会内でTPPなどを議論するプロジェクトチーム(座長・山口壮衆院議員)が会合を開き、TPPに関する提言の調整を行った。

 だが、提言の表現を巡り紛糾、最終的に「参加の可否を含め、情報収拾等のため事前の協議を始める」という当初案から「等」と「事前の」の文言を削り、まとめた提言を玄葉光一郎国家戦略担当相に提出した。党内の慎重派への配慮を余儀なくされたのだ。

 これまでに、菅直人首相は臨時国会冒頭の所信表明演説でTPP交渉参加を表明、仙谷由人官房長官以下、前原誠司外相、玄葉国家戦略担当相・政調会長、岡田克也幹事長など主要閣僚や党執行部は交渉への早期参加を主張している。

 一方、党代表選で小沢一郎元代表を支持した勢力を中心とする慎重派は「TPPを慎重に考える会」(会長・山田正彦前農水相)を結成、菅批判を強める鳩山由紀夫前首相を顧問に迎えるなど来春の11年度予算成立のタイミングに合わせた“菅降ろし"政局の材料にする腹積もりである。両者の溝は深まるばかりだ。

 さらに、所管大臣である元自民党農水族の鹿野道彦農水相は2日の関係閣僚会議で参加検討を表明した菅首相に異論を唱え、党内鳩山グループの大畠章宏経産相もそれまでの積極姿勢を慎重論に転じた。

 他方、代表選で小沢氏を支持した海江田万里経済財政担当相、樽床伸二衆院国家基本政策委員長、細野豪志前幹事長代理などは交渉参加支持である。こうした「ねじれ」の中、焦点は菅首相が9日の閣議で参加方針を決断し、APEC首脳会議で日本のTPP交渉への早期参加を表明するのかどうかである。

 とかくリーダーシップの不在が指摘される菅首相だが、仮に鹿野農水相ら一部閣僚が閣議決定に同意しない場合、罷免してでも初心を貫徹すれば、それこそ拍手喝采となるのは必定である。TPPは農業分野を含めて貿易自由化の例外を原則として認めず、100%の関税撤廃を目指す。

 しかも、関税は即時、または10年以内に撤廃する原則を掲げており、通常の経済連携協定(EPA)よりも厳しい内容になっている。こうしたことから、「国内農業保護」を名目にコメ、小麦、牛肉など農産品にかけている高い関税率を維持することは難しくなる。

TPP=アメリカ・豪州とのFTA締結

 わが国の名目国内総生産(GDP)に占める割合を産業別に見ると、TPP参加により恩恵が期待される製造業とサービス業が各々20%になるのに対し、打撃が懸念される農業はわずか1.2%に過ぎない。農協票に依存する与野党国会議員は少なくないのは事実だ。

 それにしても、である。日本がTPP参加を見送れば、日本製の自動車や家電は、米国と仮署名済みの自由貿易協定(FTA)を今月末までに発効する予定の韓国との価格競争力で圧倒されるのは必至である。日本のTPP参加は事実上、米国とオーストラリアとのFTA締結である。

2日に実施された中間選挙で大敗を喫した米民主党政権だが、オバマ大統領は来年11月のハワイでのAPEC首脳会議でTPPの全面締結を目指している。尖閣ビデオ流出でさらなる悪化が予想される対中関係、メドベージェフ大統領の北方領土・国後島訪問でこじれる対ロ関係でだけでなく、実は対米関係も決して良好とは言えない現状からすれば、TPP交渉参加の決断は菅政権にとっての危機打開のうえで「好材料」となるはずだ---。

 菅首相がそう判断し、TPP反対派を「抵抗勢力」と見なし乾坤一擲「TPP衆院解散」に踏み切る可能性は排除できない。

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