新聞記者たちの不安を聞きに行く 【第一回】 朝日新聞記者の憂鬱オレたちの仕事はなくなるのか 会社はどうなる   文:井上久男

2010年11月05日(金) 週刊現代
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 朝日、読売、日経、毎日、産経の全国紙を見ても、読売が'09年に前年比で微増した他は、軒並み部数を下げた。広告収入でも'09年に初めてネット広告が新聞を上回った。各社ともリストラや賃金カットなどの人件費削減の一方、ネットへの進出など新事業に力を入れているが、明るい展望は描けないままだ。

 10年前までは考えられなかったが、新聞記者たちは自分たちの仕事や会社が、このままではなくなってしまうのではないかと本気で考え始めている。筆者はこれから3回にわたって、記者たちが抱える「不安」に焦点を当て、新聞社や記者たちが直面している問題をレポートする予定だ。

 今回紹介する朝日新聞のケースは、新聞記者の取材とはどうあるべきなのかを問い直すうえでも、重要な意味を持っている。

幹部に送られた社外秘メール

 10月4日、朝日新聞の一部の管理職に「社外秘」と銘打たれたメールが送られた。内容は、前特捜部長逮捕の記事に関するレポートで、作成したのは同社の記事審査委員会である。記事審査委員会とは、主に他紙と朝日の報道内容を比較検討し、良質の紙面を作っていくために、社内議論のベースとなるレポートの作成を担当する部署である。

 少し長くなるが、このレポートを引用する。

< 現時点でも前(特捜)部長らは全面的に容疑を否認しているという。最高検側は裏づけとなる証拠をどこまで集めているのだろう。支えは前田検事や同僚検事らの供述しかないのだろうか。国民は当然、今回の最高検による捜査もまた、見立てに合わせた供述を取るような強引な方向に走る危険があると感じている。

 供述をめぐる報道合戦の中で、気がつけば最高検の描く構図に沿った認識が広がっていく、まさに郵便不正事件と同じ事が繰り返されているのではないかとさえ疑い始めているのかもしれない。捜査する側は検察、される側も検察。弁護人も検察OBがついているのだろうか。そうだとすれば、『検察ムラ』の中だけで事が進んでいることになる(中略)。

 本筋に関わる情報を取るのに全力を挙げるのは当然だが、それぞれの時点でどのような証拠があるのか、それで有罪は立証されるのか、冷静に分析しながら、節目での解説など客観的な紙面づくりを心がけていってほしい。 >

 そもそも、村木氏逮捕から検察の証拠FD改竄事件につながる一連の「郵便割引制度悪用事件」は、朝日新聞が2008年10月6日付朝刊で報じた特ダネが発端だ。朝日の報道を受けて大阪地検特捜部が捜査に乗り出した。その後、結果的に捜査線上から消えるが、政治家の名前も浮上し、現役高級官僚だった村木氏を逮捕。

 火付け役となった朝日新聞は、誤った大阪地検特捜部の見立てどおりに、検察からのリーク情報を駆使して「村木氏クロ説」を書き続けた。

 むろん、朝日に限らず、検察の見立て通りに村木氏が怪しいと書いたのは他紙も同様だった。

 そして、村木氏に無罪判決が下され、検察の見立てがいかに強引でいい加減だったかが白日のもとに晒された。

 朝日の記事審査委員会レポートは、証拠FD改竄事件についても、最高検の見立てに合うように事件が作られているのではないか、それを読者は見抜いているのに、記者たちはあくまで検察の見立てに引き摺られ、そのリークによって記事を書いているのではないかと警鐘を鳴らしているのである。

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