新聞記者たちの不安を聞きに行く
【第一回】 朝日新聞記者の憂鬱

オレたちの仕事はなくなるのか 会社はどうなる   文:井上久男
週刊現代 プロフィール

 新聞が瀕死状態に陥っている。記者たちは自信を失い、読者は読みたい記事が載っていないと不満を募らせる。今、新聞に何が起きているのか。

[文:ジャーナリスト・井上久男]

新聞協会賞受賞に疑問の声

「特捜部不祥事特報 本社に新聞協会賞」

新聞協会賞を受賞した「証拠FD改竄報道」(9月21日付朝日紙面)

 朝日新聞社の社内報「エー・ダッシュ」秋号(10月21日発行)の表紙に大きく掲げられた見出しだ。

「校了直前にビッグニュースが飛び込んできました(中略)。喜びつつ、大あわてでページを組み替えました」

 最終ページに掲載された社報編集長のコメントから、その喜びと興奮が伝わってくる。

 2期連続の赤字で苦しむ朝日新聞にとっては久しぶりの朗報であり、社内では受賞を聞いた役員クラスの編集幹部がはしゃぐ姿も目撃されている。

 「特捜部不祥事」とは周知の通り、障害者団体向け郵便割引制度が悪用された事件に絡み、大阪地検特捜部の前田恒彦検事が証拠のフロッピーディスク(FD)のデータを、自らの捜査の見立てに合うように改竄した事件だ。厚生労働省局長だった村木厚子氏に無罪判決が出た直後、朝日新聞は2010年9月21日付朝刊1面トップで、検察史に残るこの前代未聞の事件をスクープした。

 スクープしたのは、大阪本社社会グループに所属する30代半ばの記者だ。彼は'07年に栃木県の地方紙である下野新聞から朝日新聞に転職。下野時代の'05年にも、栃木県警が知的障害者を誤認逮捕した問題をすっぱ抜いた敏腕記者で、'06年の日本新聞労連ジャーナリスト大賞にも選ばれている。

 一般的に朝日新聞記者の中には「エリート臭」を漂わせ、頭で記事を書くことが専らの人材も多いが、彼は地方紙時代からこつこつと「足で稼ぐ」タイプだったようだ。

 筆者は約13年間、朝日新聞記者として勤務し、6年前にフリージャーナリストに転じた。新聞記者の苦労も少しはわかっているつもりだ。この若い記者も、おそらく早朝から深夜まで夜討ち朝駆け取材に努力し、その成果がスクープに結びついたのであろう。その努力に対して文句をつける気持ちはまったくないし、素直に敬意を払う。

 だが、浮かれる上層部とは対照的に、朝日社内にはこの協会賞受賞を疑問視する声も少なからずある。単純な嫉妬などではない。特ダネを書いた記者に嫉妬するのは、むしろ新聞記者として健全なライバル意識でもある。

 朝日の「村木氏逮捕」や「証拠FD改竄」報道から見えてくるのは、ジャーナリズムの根幹に触れるような問題だ。そして、それはなにも朝日新聞だけに限った話ではない。多かれ少なかれ、どの新聞も、どの新聞記者も抱えている問題なのだ。

 現在、新聞が置かれている状況は極めて厳しい。業界全体の発行部数は'00年に5380万部ほどだったのが、昨年10月段階で約5035万部に減少。特に'08年から'09年にかけて100万部以上も減らしている。

 朝日、読売、日経、毎日、産経の全国紙を見ても、読売が'09年に前年比で微増した他は、軒並み部数を下げた。広告収入でも'09年に初めてネット広告が新聞を上回った。各社ともリストラや賃金カットなどの人件費削減の一方、ネットへの進出など新事業に力を入れているが、明るい展望は描けないままだ。

 10年前までは考えられなかったが、新聞記者たちは自分たちの仕事や会社が、このままではなくなってしまうのではないかと本気で考え始めている。筆者はこれから3回にわたって、記者たちが抱える「不安」に焦点を当て、新聞社や記者たちが直面している問題をレポートする予定だ。

 今回紹介する朝日新聞のケースは、新聞記者の取材とはどうあるべきなのかを問い直すうえでも、重要な意味を持っている。

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