政府が北方四島への「渡航自粛」を求める間に進んだロシア化
メドベージェフ大統領の国後訪問は
国家戦略なき外交が生んだ!
〔PHOTO〕gettyimages

 旧ソ連時代を含め、ロシア貿易40年以上を誇る経営コンサルタントの城三彦氏が、「メドベージェフ大統領の国後訪問は、日本の外交無策が生んだ」と、嘆く。

「ロシアからのサインは、何年にもわたって出ていました。北方四島を中心に、『クリル社会経済発展計画』を打ち立て、179億ルーブル(約540億円)を投じてインフラ整備を行っています。

 実効支配を強め、既得権化を進め、9月2日の日本の第二次大戦降伏文書署名日を『対日戦勝記念日』に制定、戦勝65年記念行事を開いて、内外に北方四島がロシアに帰属するものであることをアピールしました。

 それに対して、日本政府は何ら有効な外交戦略を打ち出さず、それどころか北方四島を孤立化させています」

 何もしてはならなかった。

 政府は、1989年の「閣議了解」で、北方四島への渡航自粛を求めている。「実行支配を認めてしまうから」というのがその理由。しかし、「自粛」の間に、四島は大きく変わった。酷寒の島で、資源といえばサケ、タラ、昆布といった海産物だけで、文化はなく、娯楽もない、という「最果ての地」は、様変わりした。

 地熱発電が電力を安定供給、温泉が掘られて保養所ができ、近代的な水産加工場が各地に建設され、家電量販店にはモノが溢れ、最新の携帯電話が普及、「釣に温泉」を求めて、観光客が次々に訪れるようになった。

 インフラが整備され、産業が発展すれば、ビジネスチャンスを求めて、ロシアのみならず各国の企業が集まる。水産物を求めて中国や韓国のビジネスマンが、貿易交渉を行い、工場建設や機材納入にかかわろうとする。だが、日本だけは埒外だ。

 城氏がこう嘆息する。

「渡航を認めないんだから話になりません。建設機械や資材、水産加工場で使用する各種機械や装置は輸出されていますが、直接の輸出は出来ず、ロシアの他の企業を経由させます。しかしそれでは、アフターサービス等に問題が生じ、他国との競争に勝てません」

 現在、北方四島には、ロシアのビザを取得、サハリン経由で船か飛行機で渡るしかない。渡航の「許可書」が必要で、それは外人もロシア人も現地人も同じなのだという。

 実は、日本人のなかにもロシアのビザで入国、「許可書」で四島に入る人はいる。さまざまな形で輸出された機械や装置が壊れ、修理が必要なことがあるし、世界を観光した富裕層が、「北方領土を見てみたい」と、好奇心で渡ることもある。

 だが、「四島入り」は、各種機関が監視していることもあって、いつか情報が洩れ、『北海道新聞』など地元メディアには大きく報道され、「好ましくない」という官房長官談話が発表される。「自粛」ではあっても、「禁止」ではないし、商談もサービスも必要なのだが、「何もさせるな」という政府方針が縛りとなって、日本と北方四島は"疎遠"になった。

定期便就航でますます発展する

 20年以上の「自粛」は、果たして正しいことだったのか。

 今年7月、商機を求めて択捉島に渡った水産加工メーカーの技術者が批判的に報じられた時、新党大地の鈴木宗男代表・衆院外務委員長(当時)は、次のように述べた。

「(89年の)閣議了解は、今の時代に合わない。四島の経済発展を黙ってみているのではなく、日本の科学技術をロシアに知ってもらうのが国益になる。もっと柔軟に考えていいのではないか」

 ロシアを知悉する"プロ"の政治家らしい発言である。

 ロシアは、国益優先の帝国主義国家である。国家戦略で自在に攻めてくる。日本は、1855年の「日露通好条約」で、最北端の択捉島を北側の国境線と定めたのを「固有の領土」の根拠とし、事実、戦前は1万7000人の日本人が暮らしていた。それを承知しながらロシアは、実行支配を崩さず、相手が下がれば、押しに徹して攻め込む。

 1991年のソ連崩壊で四島からの人口流出が進んだ時、ロシアは社会資本整備を充実させ、島民を根付かせようとした。それがプーチン時代に実り、「クリル社会経済発展計画」につながった。2011年には国後、択捉の両島に飛行場が建設され、有視界飛行ではなく、計器での離着陸が可能になって、定期便が就航、ますます発展する。

 日本政府は、その間、「自粛」を貫いて発展に関与する機会を失った。現地の様子は伝わらず、ロシアの支配だけが強くなり、蚊帳の外に置かれてしまった。

 戦略なき事なかれ主義――。

 メドベージェフ大統領は、そんな日本政府の姿勢を見透かし、日ロ関係にも、北方四島の島民生活にも、何の影響力も行使できないと知って、国後訪問に踏み切ったのである。
 

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