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焼き肉戦争勃発!"牛角"を猛追する新興勢力
超豪邸建設&優雅にゴルフ練習。牛角CEOの
"危機感" 業績伸ばす"あみやき亭・焼肉きんぐ"
トップは"新陳代謝"を熱く語る

 外食業界における"戦争"の必勝パターンは、安さの提示と店舗の拡大。だが、焼き肉チェーンの場合、莫大な店舗数を誇る「牛角」が即座に"勝"とはならない---。

[写真:船元康子・香川貴宏・川柳まさ裕・花井知之]

 思い起こせば、'90年代後半から'00年代はじめにかけ、圧倒的な価格破壊で、「焼き肉は家族で外で食べるもの」とファミリー層の外食スタイルを変えたのは「牛角」だった。

現在、牛角では1ヵ月で10万皿を売り上げたという巨大な「ギガカルビ」に続き、「ギガホルモン」をヒットさせる戦略に出ている

 牛角の店舗数は658で('10年8月末時点)、業界内では店舗数の多さで知られる「安楽亭」が252('10年3月期)だから、牛角が圧倒的にトップという印象だ。

 だが、牛角の創業から14年、焼き肉チェーン業界の競争の形は変わった。ある経済誌記者は、次のように解説した。

「チェーン店の数を増やす拡大戦略を進めてきた牛角はグループ全体の売上高こそトップですが、1店舗あたりの売り上げを見ると、実は凋落(ちょうらく)の傾向が見えるのです。

 '03年に起きたBSE(牛海綿状脳症)ショックで、米国産牛肉を使っていた多くの焼き肉チェーンがオーストラリア産などに切り替えましたが、

 ただ単に肉の仕入れ先を切り替えたところと、それ以上の努力をした企業で、大きく結果が変わったのです。現在の勝ち組の代表格が、国産牛にこだわった『あみやき亭』と、新しいバイキング方式を売り物にした『焼肉きんぐ』です。今の業界全体を覆(おおう)キーワードは、彼ら新興焼き肉チェーンによる"世代交代"だと言えます」

株主から起こされた訴訟の只中にいる西山知義氏を直撃。日大法学部を中退後、起業した人物(10月19日)

 ここで、本誌が有価証券報告書や企業情報を基にまとめた数字を紹介したい。牛角を展開する「レインズインターナショナル」(東京都港区・西山知義代表取締役社長CEO・以下レインズ)の売上高は、287億3400万円('09年12月期)に上る。

 もっともこの数字は、「しゃぶしゃぶ温野菜」「居酒屋土間土間」など傘下の外食チェーンを合わせた数字なので、牛角単体の売上高を示していないのだが、同期のグループ全体の総店舗数1231で割ると、1店舗あたり約2334万円となる。

 先ほど名前の挙がったあみやき亭(本部・愛知県春日井市)の売上高は170億5200万円('10年3月期)と、レインズと比べて100億円以上少ないが、店舗数が144(うち焼き鳥チェーンの「美濃路」が50店舗)なので、1店舗あたり約1億1842万円となる。

 同様に焼肉きんぐを展開する「物語コーポレーション」(愛知県豊橋市)の売上高は127億8100万円('10年6月期)で、店舗数186(「丸源ラーメン」など含む)で割ると約6872万円。

 焼き肉チェーンをメインブランドとして掲げる2社は、確実に牛角をロックオンするほど猛追しているのだ。

メニュー220種を誇るあみやき亭。「肉の部位ごとに違う味を楽しんで」とタレは8種類ある

 経済誌が注目するあみやき亭は、'09年に日本ハムの孫会社「スエヒロレストランシステム」(以下スエヒロ)を子会社化し、関東圏では名前の知名度を活かした「スエヒロ館」として展開中だ。

 あみやき亭の佐藤啓介社長(60)とスエヒロの福井啓雄(ひろお)社長(45)がインタビューに応じ、経営戦略を語った。

 本社を訪れた際、机の脚が市販のものより30~40㎝高くされ、佐藤社長をはじめ社員が立って働いていたのに驚いた。「フットワークが良くなる」(佐藤社長)という。

 牛角と比べ、あみやき亭がセールスポイントにしているのは、低価格競争の時代に国産牛を提供している点にある。

 実際、「国産牛上カルビ」は480円で、「牛角上カルビ」(490円)と同価格帯で競っている。以前に食肉卸・小売専門店に勤めていた佐藤社長ならではの仕入れルートが、それを可能にしているのだという。

佐藤社長(右)と福井社長。「顧客目線を失う」からベンツに乗らないとか。社長室もなかった

「牛角と明確に違うのは、急激な店舗展開をしなかった点です。会社を成長させるために借金をして店舗を増やすと、売り上げが上がっても資金繰りは悪化します。出店を自己資金で行い、確実な繁盛店に育てることが重要です」(佐藤社長)

 あみやき亭は無借金経営だといい、それを支えるのが「ジャストインシステム」だと佐藤社長は説明する。

 つまり、肉を1箇所で仕入れ、本社近くのセントラルキッチンで加工したうえで、各店舗にその日必要な分だけ配送する仕組みだ。

「これによって仕入れから顧客への提供までの時間の短縮が可能となり、鮮度が保てます。さらに在庫を保管する巨大な冷蔵庫が必要なくなり、その分1店あたりの客席数を増やせて、経済効率のアップにつながる。まさに、"肉のトヨタ生産方式"と言えるでしょう」(佐藤社長)

小林佳雄社長は「土地により味付けやメニューを見直すフレキシブルな対応力を重視」

 物語コーポレーションが展開する焼肉きんぐの特徴は、テーブルバイキング方式によるサービス、つまり肉を客が取りに行くのではなく、テーブルに座ったまま「おかわり」が運ばれてくる時間制の食べ放題スタイルである。

 だが、小林佳雄社長(61)は「レストランビジネスを長年やってきて、食べ放題は死んでもやりたくなかった」と語る。

焼肉きんぐは「従来の食べ放題店と違い、誕生日などハレの席で使われる」(小林社長)

「安かろう、まずかろう、サービスが悪かろうというイメージがありますからね。'07年からこのスタイルを始めたのですが、当初は注文を受け、商品をお持ちするとテーブルへ行く回数が3倍に上がり、人件費も材料費も高くついて商売として見込みが立たない状態でした。

 ようやく軌道に乗せたのは、スタートから2年後のことです。

 しかし、食べ放題でもサービスは怠らないことを知っていただいたことで、ファミリー層以外の顧客を獲得しました。現在、ファミリー層6割、若者・学生のグループ2割、宴会などが2割といったところです」(小林社長)

 小林社長は、焼き肉チェーン業界の黎明期について、回想した。

「牛角が創業した14年前、焼き肉チェーンは7000億円を超える市場だと言われた時期がありました。輸入自由化で価格の安い牛肉が手に入りやすくなって、業界も伸びたのです。特にタンやホルモンなどは米国で消費しないため、効率よく輸入できました。

 しかし、BSEのおかげで消費が落ち込んだ。これをきっかけに安心・安全な和牛が見直されたのですが、やはり外食の回数は減り、市場規模は5400億円へと縮小しました。業界で生き残るには、価格に対する質を上げると同時に、顧客にバリューを感じさせる企業努力が必要となったのです」

フランチャイズ戦略の欠点

 ここで牛角に話を戻そう。前述したとおり、レインズが展開する牛角の店舗数は圧倒的である。それでも1店あたりの売上高で新興ブランドに勝てないのは、どのような理由からだろうか。焼き肉チェーン業界の関係者が説明する。

「レインズが展開する外食チェーンのうち、9割がフランチャイズ、残りの1割が直営店だと聞きます。フランチャイズ店では、問題点に対応する力が、オーナー次第ということになり、急速な拡大戦略の中で、従業員の育成が追いつかない面はあったでしょう。結局、繁盛店にならずに店を閉じたケースは多いです」

 実際、'06~'09年の3年でレインズは店舗の数を232も減らしている。

 しかもここ数年で、レインズについて目立った話題は、MBO(マネジメントバイアウト)の一件だった。MBOとは、会社の経営陣が株主から自社の株式を譲り受けたりすることで、オーナー経営者として独立する行為を指す。

 投資ファンド「アドバンテッジパートナーズ」(AP)と西山知義CEO(44)は共同で特定目的会社(SPC)を設立し、'06年12月、SPCがレインズの親会社である「レックス・ホールディングス」(現在は西山氏が会長、以下レックス)の株式を1株23万円で公開買い付け(TOB)した。

 だが、その「23万円」の根拠は「業績の下方修正をして大幅下落した局面の株価」などとして、株主の集団が公正な買い取り価格の決定を求めて提訴した。

 最高裁は1株を33万6966円とした東京高裁判決を支持し、レックスは敗訴。現在、1株あたり10万7000円の差額を求める訴訟が進行中で、原告104人の損害賠償要求額の合計は約2億4000万円に上る。株価の不当性を訴えた最初の裁判で原告代表を務めた予備校講師の山口三尊(みつたか)氏は、こう説明する。

「SPCを設立した8月9日の株価は31万9000円。MBOに踏み切ることが確定していたこの時点の株価を知ったうえで、西山CEOは高すぎると思って23万円に引き下げたとしか思えません。株主優待券など特典が目的で株を買った牛角ファンを裏切った背信行為です」

 差額の損失補塡を求める原告の一人は、本誌にこう憤る。

「公正であるべきマーケットで、自社を我がものにしたい西山氏という経営者のさじ加減ひとつで株価が誘導された事実は重い。訴訟を通して正当な権利として差額を求めるのはもちろんなのですが、それ以上に、レインズの経営者が、自らファンドと組んで、市場を操作した事実を広く知らしめたいのです」

東京・成城の西山氏の豪邸。大物俳優や企業社長が住む街の一画にある。株主との訴訟の最中に完成した

 レインズの社会的責任が裁かれている間の'09年3月、西山氏は東京・成城に敷地面積約778㎡、延べ床面積約754㎡という豪邸を完成させた(建築主の名義は妻)。

「現在は1坪250万円だが、当時はミニバブルで300万円が相場」(地元不動産会社)といい、本誌が依頼した設計事務所勤務の専門家が試算したところ、土地・建物の合算は9億円を超えていた。

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