グローバル化へ東大が秋入学検討
[大学]実施すれば入試、企業採用に影響必至

東京大学の入学式で記念撮影する新入生たち=東京都千代田区で09年4月13日

 各界に多くの人材を輩出してきた東京大が、入学時期を春から秋に移行できるかどうかの検討を始めた。急速に進展するグローバル化に対応するため、欧米の日程に合わせることで留学生の受け入れを増やし、国際経験が豊かで多様性を持つ学生を育成する狙いがある。

 日本では卒入学シーズンとして春が定着してきた。東大は学内に設けた懇談会で今年中に結論を取りまとめる予定だが、秋入学の全面的な導入に踏み切った場合、大学入試や企業の採用への影響も予想される。

「『タフな東大生の育成』」「グローバル・キャンパスの形成」---。09年4月に就任した浜田純一総長が15年までの任期中の基本方針を示した「行動シナリオ」には、自身が追い求める東大生とキャンパスの理想像を描いている。これらのキーワードを掲げざるをえなくなったのは、学生と教育システムの現状に対する強い危機感の表れでもある。

 東大生の「同質化」はデータが物語る。専門職や大企業、官公庁の管理職らを保護者とする学生が7割以上を占め続け、学生全体の過半数は中高一貫型の私立高出身者だ。より深刻なのは国際体験の乏しさで、昨年5月時点で留学に送り出された学部生は48人(全体の0・3%)に過ぎず、大学院生でも253人(同1・7%)にとどまっている。

 一方、今年5月時点の留学生の受け入れは、学部生が276人(同1・9%)、大学院生が2690人(同18・6%)。東大が07年にまとめた調査によると、学部生と大学院生を合わせた留学生の比率は、米国のハーバード大が20%、英国のオックスフォード大が29%、シンガポール国立大が30%などとなっており、東大は国際的に高いとはいえない水準にある。

 海外では7割近くの国々で学年が秋に始まるため、入学時期の違いが日本の留学の受け入れと送り出しを阻む要因とみられている。東大の鈴木敏之副理事は「カレンダーがずれるのはハンディが大きい。留学の斡旋をしようと思っても、どうしても無理が生じる」と話す。その打開策として秋入学への移行が浮上してきた。

 東大は4月に公表した今年度以降の主な取り組み項目の一つに、「将来的な入学時期の在り方について検討」を盛り込んだ。清水孝雄副学長を座長とする「入学時期のあり方に関する懇談会」を設置。秋入学への移行に伴うメリットとデメリットの洗い出しを進めている。

 日本の大学の入学時期は、会計年度の開始に合わせて1921年から4月となり、春入学が根付いている。87年に臨時教育審議会が秋入学を提言したものの、高校卒業時から大学入学時までに生じる空白期間などを課題に挙げた。07年には当時の安倍晋三首相の肝いりで発足した教育再生会議も9月入学の促進を求め、入学までに多様な体験活動を行う猶予期間を与える「日本版ギャップイヤー」の導入をうたった。

4月以外入学241校で実施

 9月入学は主に帰国子女や留学生、社会人を念頭に例外的に認められてきたが、文部科学省は08年に学校教育法施行規則を「学年の始期と終期は学長が定める」と改正し、各校の判断で弾力的に設定できるようになった。文科省によると、4月以外にも入学者を受け入れる大学は、08年度で241校に上る。

 文科省は東大の検討を見守る姿勢だが、鈴木寛副文科相は「グローバルな人材をどう育てていくかは大変重要なテーマ。こうした動きを歓迎し、よりよい結論を期待したい」と好意的に受け止めている。

 英語を中軸とした教養教育を掲げて04年に開学した国際教養大(中嶋嶺雄学長、秋田市)は、9月入学を本格的に導入している。10年度は外国人留学生163人の多くが9月に入学したほか、11年度の一般選抜定員175人のうち25人を9月入学に割り当てる。ギャップイヤー制度も取り入れ、今年度は14人がボランティア活動などを経験して9月に入学する予定だ。

 中嶋学長は東大の動きについて「結構なことだ」と歓迎しながら、「入学式を9月にやっただけでうまくいくわけではない」と警告する。春秋の半期ごとに単位が取れるセメスター制▽英語授業の大幅増▽カリキュラムにつける国際コードの設定---などが必要な条件という。

 国際教養学部を04年に開設するなどグローバル化を進めてきた早稲田大も、今年度は7学部14研究科が9月入学を実施する。だが、アジアには韓国(3月)をはじめ秋以外に新学期を迎える国があることもあり、国際担当の内田勝一副総長は「正解は4月と9月の両側に入る」として春秋並存を訴える。早大は東大との併願者が多いため、気掛かりなのは東大の入試が秋入学に伴い4月以降になった場合で、内田副総長は「早稲田に入ってから東大の入試を受けて、9月に学生が抜けてしまうのが最悪のシナリオだ」と苦笑する。

 その他の有力大では、慶応大も法学部の帰国生入試などで9月入学を導入済みで、「今後については、本学の理念やアドミッションポリシー(入学者受入方針)に従って考えていく」(広報室)とコメント。京都大は9月入学とギャップイヤー制度の導入について「今後検討予定(具体的な検討時期未定)」(広報課)とする。

 学校教育法は大学の修業年限を4年間と定めており、現行制度で秋に入学すれば卒業も秋となり、採用時期も秋にずれ込む。民間企業では、国内の新卒採用よりも海外採用を優先する傾向が急拡大している。リクルートが発行する高等教育専門誌「カレッジマネジメント」の小林浩編集長は「日本は新卒一括採用が続いてきたが、東大の動きがグローバルに活躍する企業の採用の複線化を加速するきっかけになる可能性がある」と指摘する。

 秋入学の拡大に当たっては、入試時期の設定、ギャップイヤー制度の利用者の受け入れといった「入り口」に始まり、就職という「出口」に至るまで関係する分野は多方面にわたる。東大がどのような結論を出すのか。目が離せそうにない。

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