学校・教育
教授会という「利権集団」にメスを入れた平安女学院の「大学改革」
人事権も握る既得権益集団が教育を滅ぼす

 9月10日付の本コラム(「改革派事務局長」が次々に追い出される大阪産業大学の迷走)で、大阪産業大学の教員らの「既得権」を巡る大学内のバトルを書いたが、多くの大学で似たような構図の争いがある。その顕著な例が教授会の「利権」を巡る争いだ。

 教授会は新しい教員採用などの人事の権限を持つ。多くの大学では公募で教員を募集しているが、実は誰を採用するかは教授会傘下の選考委員会などで事前に決まっているケースも多い。形だけ公募にして公平さを装っているのだ。学会で有力な教授の研究室出身といった「箔が付く」ことも採用のポイントなる。

 自分の言いなりそうな(言い方を変えれば同じテーマを研究している)若手教員を学会などで目を付けおき、応募を勧めるケースもある。言ってしまえば、能力ややる気よりも内輪の理屈だけで採用を決めているのだ。

 採用以外でも、たとえば、セクハラや痴漢などの破廉恥な犯罪で懲戒処分を受けて退職する場合でも教授会の承認がいる。「学問の自由」を盾に、理事会など学校法人側の関与を嫌う。

 筆者が知るケースでは、社会人大学院生に学位と引き換えに肉体関係を迫った男性教員はセクハラと断定されたにもかかわらず、懲戒免職にはならず、教授会の判断で退職金が出る依願退職の形になった。こんな悪質なセクハラは、一般企業ならば即刻懲戒免職のケースだ。

 こうして教授会主導で採用した教員が必ずしも教育熱心とは限らない。少子化で学生の獲得競争が厳しくなっている中堅私学では、経営側は研究よりも教育熱心な教員を求める。なぜなら、高い授業料を取って、就職指導も含めてろくな教育をしていないと、保護者の目が厳しくなっているからだ。一方、教授会は教育熱心な教員を「教育労働者」と蔑む傾向にある。大学の教員は「研究第一」と考えているのだ。

成功した広中平祐・山口大学学長の改革

 しかし、筆者は、一流の研究者は教育もうまいと感じている。数学のノーベル賞と言われる「フィールズ賞」を獲得した広中平祐氏は故郷にある山口大学の学長職を1996年から2002年まで引き受けていたが、大胆な教育改革を進めたと言われる。理論と実践の両方を学べる講義が導入されて人気を博し、「山大の学生は勉強熱心」と一部では評価された。

 ろくな論文や著書もない三流教員ほど「研究第一」を言い訳に教育から逃げている場合がある。そして自分より教え上手な教員が来ることを嫌う。「教授会」という組織が、こうした「ろくでもない教員」をのさばらせる温床になっている面は否定できない。そして、教授会の議論は3、4時間も続き、結論が出ないことがざらだ。端的に言うならば、「教授会」とは衆愚の象徴のような組織なのだ。

 この既得権の固まりである「教授会利権」を豪腕経営によって剥奪した私学の経営者がいる。一般にはまだ無名だが、私学経営者の間では最近注目を浴びている。その人物とは、京都御所の向かいにある名門、平安女学院大学の理事長を務める山岡景一郎氏だ。

 平安女学院は創立135年と歴史は古いが、1学年が180人程度の弱小私大だ。しかし、教授会から利権を剥奪する大改革を展開したことで目覚しく教育内容が変わった。その結果、就職難の折、短大も含めた就職内定率は5年連続で90%を超えている。教育熱心な教員に入れ替えることで、実践的な講義を増やし、学生の問題解決能力などを高めていることが影響しているようだ。

 警察事務官や経営コンサルタント、書店経営や飲食業界の組合理事長など異色のキャリアを持つ山岡氏は改革のために要請されて、2002年に理事に選ばれ、同年11月には改革委員長に就任した。当時の平安女学院の財務状況は破綻寸前だった。赤字が続き、累積の債務は数十億も円あった。

 赤字の理由は、人件費の高さにあった。大学が多い京都府下でもトップクラスの給与だった。年収1000万円以上、大企業よりも多い退職金4000万円という人もいた。実態は、銀行から借金をして高い給与を払い続けていたのである。支出に占める給与の割合は80%を超えることもあった。教育設備の更新や新しい学部の設置など、教育サービス向上に原資を回せない状態だった。

 労働組合が強く、学校が潰れそうなのに高い給与を要求し続け、その要求を労組出身の理事が要求通りに払っていた。「組合立」と揶揄する声もあったほどだ。

 山岡氏はこう振り返る。「大学は、学問の自治という名の下、先生方は自由に研究し、教育しています。これを完全に否定するつもりはありませんが、責任ある自由なのかといえば、そうでもない面がありました。学生や社会に研究成果を還元するという大きな責任を無視して、自分のやりたいことだけをやっている先生もいました。これでは趣味的研究と言わざるをえません」

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