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 TPPという聞き慣れない単語がマスコミを賑わしている。正式名称は、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans‐Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの自由貿易協定(FTA)として06年に発効し、その後、米国、豪州、ベトナムが参加するなどして、現在は計9ヵ国で枠組み作りに向けた交渉を行っている。

 モノやサービスはもちろん、政府調達や知的財産権なども対象とする包括的FTAで、原則として15年までにほぼ100%の関税撤廃を目指す。当然、農産物も例外ではない。

 このTPPへの参加検討を菅直人総理は公言した。参院選前の「消費税発言」で懲りたはずなのに、反発に備えた根回しを一切しないまま、10月1日の所信表明演説で突然、明言したのである。

 11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議で議長を務める菅総理に、外務省と経産省が「関税撤廃でリーダーシップを発揮すれば、晴れ舞台で大きなポイントを稼げる」と耳打ちしたからだ。

 案の定、農業関係者は猛反発している。だが、民主党内が騒がしいのは、執行部対小沢一郎元代表の確執があるからだ。TPPに反対しているのは大半が小沢グループの面々。関税撤廃反対、農家の保護を大義名分に、小沢氏の国会招致実現に傾く執行部を牽制しようという本音が透けて見える。

 こうした状況になると官僚たちも黙っていない。存在感を誇示して、予算のぶんどり合戦になる。

 筆頭は、TPPで打撃を受ける農業を所管する農林水産省だ。TPP参加は日本にとってマイナスというのが農水省の主張。そう言わなければ省の存在すら否定されてしまうからだ。それに、マイナス効果となれば、いずれ補助金が必要になるはずという計算も働き、補助金を多く獲得するためにも、マイナス効果をできるだけ大きく主張する。

 農水省の試算によれば、関税完全撤廃によって農業生産額は年間4兆1000億円減少し、関連産業への影響も含めると国内総生産(GDP)が約7兆9000億円減少するという。

 一方、経済産業省はTPPで恩恵を受ける産業界の利益代弁者だ。TPPの効果をできるだけ大きく見積もり、産業界に恩を売っておきたい。あわよくば、恩恵を受ける業界がシンクタンクでも作ってくれれば、自分たちにポストが回ってくるかもしれない。ということで、TPPに参加すれば輸出額が約8兆円増加し、逆に不参加ならGDPが10兆5000億円減少するとの試算を示した。

 こうした計算は、物事の一面を自らに都合よくとらえているので、にわかに信じるわけにはいかない。こうした時こそ国家戦略室の出番だが、まるで機能していないから、各省が勝手気ままに補助金に群がる。かつてのコメ開放の際、農水省は5兆円の補助金をせしめたが、結局、コメの競争力は強化されなかった。カネのぶんどりだけでは、展望は開けないのだ。

 農水省も、時代の流れや国際情勢の動向からTPP参加が不可避なことをわかっている。最後は、関税撤廃までの時間の猶予と受け取る補助金の額で妥協が図られるのだろう。

 経済の視点から見れば、TPPへの参加は日本にとって全体としてプラスであり、その上で参加に伴う社会コストをどう負担するかという問題に落ち着く。そして、そのために農家戸別所得補償制度があるのだ。

 司令塔の不在は、国益の損失と直結している。


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