TPP参加は民主党得意の「時間差論法」なら難題にはならない
大切なのは「方向性」

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が、11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に急浮上している。TPPは、シンガポールとニュージーランドの自由貿易協定(FTA)を土台に、チリとブルネイを加えた4カ国の協定として、2006年5月に発効した。さらに、米国、豪州、ベトナムなど5カ国が参加を希望しており、今年3月に計9カ国で新たなTPPの枠組み作りに向けた交渉がスタートした。発効から原則10年以内にほぼ100%の関税撤廃を目指す。また、交渉対象は、モノやサービスのほか政府調達や知的財産権など広範な分野が対象になるだろう。

 日本のTPPへの参加について、民主党内は閣僚の一部から反対論が出るなど割れている。この問題は貿易関係であり、いろいろな人が意見をいうのでマスコミ報道も多く、政権としては大きな難題に思えるが、実は政策としては処理はやさしい部類に入る。なにより、国際会議の日程が一つのデットラインとなるので、それなりの結論がでる(この点がマスコミ報道しやすいところだ)。もちろん、菅直人総理が議長を務める11月のAPECがその締め切りだ。

 政策として処理が簡単だというと、関係者から何を言うかとおしかりを受けるが、貿易関係はこれまでのノウハウも多い。多くの場合、農業がネックになるが、前原誠司外相もいうように、農業付加価値のGDPに占める割合は1.5%である。これは、何も日本固有の話ではなく、先進国では共通の話だ。下図は、世界各国の一人当たりGDPと農業付加価値のGDP比を示した図である。一人当たりGDPが高まるにつれて、農業付加価値のGDP比は下がっていく。一人当たり3万ドルを超えると、農業比率は1,2%になってくる。


貿易自由化の効用は経済学で疑われていない。世界にとって互恵であり善なもので、全体としてのGDPは必ず増大する。農水省は、貿易が自由化されると農業には壊滅的な打撃があるという試算をだしているが、経産省は貿易自由化のメリット、内閣府はメリットとデメリットを合わせた試算をだしている。メリットとデメリットを合わせると、必ずプラスになるのが貿易自由化だ。これに反論することはまずできない。であれば、全体に膨らむパイを、痛みを補うために使えば、容易に解が見いだせる。しかも農業付加価値は1.5%にすぎないのでだから、残り98.5%のメリットの一部でも農業にとって大きな恵みになる。

 さらに、TPPに参加しても、自由化まで10年間の猶予がある。その間に、農家戸別所得補償制度の補助金を農家にばらまけば不満は解消できる。これまでも、農業の市場開放でとられてきた常套手段だ。10年先の話と目の前の現金を見せられれば、多くの人は現金に弱い。こうした言い方は、身も蓋もないが、政策決定の現実であり、海外でもよく行われている。

 民主党は、こうした「時間差論法」は得意なはずだ。実際、マニフェストが実行できていなくても、「4年間のうちにやればいい」と主張する。しかし、進捗率を考えるととてもできそうにない。また、企業献金再開も、マニフェストに書いたのは「法施行三年後」だから今はいいという論法を唱える。しかし、こうした便法は、企業献金禁止の法律を早く国会に出せ、公明党も賛成するだろうとか、企業献金禁止という理念に賛成したのにそれに逆行するとかいう批判をすぐ受ける。

 要するに、「時間差論法」の場合、方向性がとても重要なのだ。その悪い例が、特別会計の事業仕分けで数多く見られた。

 まず、特会の事業仕分けは、政府内における法律上根拠のない参考意見である。これを実際の政策に昇華させるためには、これから政府内の検討を行い、その上で法案を作り、国会で審議し通過させるという作業が必要だ。これを成し遂げるためには、明快な方向性が不可欠である。

 財政には二つの方向がある。資金をできるだけまとめるというGeneral Fundと、受益と負担をわかりやすくするSpecial Revenue Fundである。前者が一般会計、後者が特別会計だ。特別会計は別に日本だけでなく、海外にも存在している。この意味で、特会を一般会計化すればいいとならない。

 特会のほうが情報量が多く、事業の廃止でなく一般会計化した場合、受益と負担が不明確になってドンブリ化するだけの場合もある。国会審議も、一般会計と特会では同じであり、ともに予算書は1000ページ程度だ。質問が少ないのも事実だが、マスコミが報道しないだけだ。特会の一般会計化が意味ないのと同じで、独法化も意味がない。ただし、民営化にむかうのであれば一歩前進だ。

事業仕分けでの「空港整備勘定廃止」は無意味

 特会の改革を論ずるとき、方向性は、民営化、地方移管、廃止のいずれかである。政策を評価するときに、こうした視点をもって評価したらいい。それでは、具体的に特会仕分けのうち3つをとりあげ、具体的に評価しよう。

 まず、貿易再保険特会。貿易再保険特会を独立行政法人日本貿易保険に統合となったが、これは酷い。そもそも再保険と保険と二階建てになっているのは、もともと国営の貿易保険を、再保険は国、保険は民間とするために2001年の省庁再編時に、再保険は特会、保険は日本貿易保険で独立行政法人と決めたからだ。その後、日本貿易保険の民営化(特殊会社化)となり、貿易保険には民間会社が参入した。

 しかし、今回の事業仕分けで、民営化の方向性がなくなった。再保険と保険が独法でひとつになり、以前の特会が独法に変わっただけなので、2001年以前に逆戻りだ。民営化の方向性と逆なので、まったく評価できない。民主党は、郵政民営化や道路民営化も逆に戻しているので、なんとも思わないのかもしれない。

 次に、空港整備勘定。廃止というが、各空港の民営化が前提になっている。これは時間差論法といえども、いつになったらできるのかわからず、ほとんど何もしないに等しい。民営化が容易でないのは、空港で下の滑走路は国の所有で、上のビルだけ民営化しても、着陸料等の収入は国がもっていく。
 

 だから、いったん空港整備勘定を分解して各地方自治体に譲渡し、着陸料込みで上下一体で地方公共団体に経営してもらうほうが、より民営化や公社化につながる現実的な対応策だ。今回の空整特会の仕分けは、民営化の方向にみせているが、とんでもない遠回りであり、近道の地方移管の方向になっていない。

 最後に、外為特会。これは先週のコラムで書いたとおり、円安という目的が達成できずに、損失を抱えているのであるから、廃止の方向でなければならない。今の為替レートで35兆円以上の含み損があり、積立金は20兆円だから、15兆円程度の債務超過になっている。

 為替レートは金融政策でほぼ決まり、為替介入の効果はせいぜいぜい数日間だ。国民から借金して、効果がなく損をするくらいからやらない方がいい。しかも、G20等の議論でわかるように、為替介入は世界に受け入れられない。日本は変動相場制の国だ。ところが、特会仕分けでは、外為特会の存続は当然として単なる見直し(そのばあい「抜本見直し」という)に終わってしまった。為替管理の本質論にはまったくとどかなかった。

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