避難先で行政サービス受けられる特例法案
[被災者支援]長引く原発災害による自治体の消滅を防ぐ

福島県双葉町議会が避難先の埼玉県加須市で開かれ、行政報告を行う井戸川克隆町長(中央)=加須市騎西総合支所で6月28日

 政府は、東京電力福島第1原発事故による避難者への行政サービスについて、避難先自治体でも受けられる「避難住民に関する事務処理特例法案」を国会に提出した。特例法案には、転出届を出した移転者から選ばれた人で構成する「住所移転者協議会」の設置も盛り込んだ。ふるさとを離れざるを得なくなった移転者が元の自治体との連携を維持して、原発被災地の自治体の消滅を防ぐ狙いがある。

 行政サービスは、原発事故の警戒区域や計画的避難区域などに住民票を残したままの避難者が対象。現行法では教育や保育、介護などサービスごとに避難先自治体への事務委託が必要となる。各省は東日本大震災後、転入届を出さなくても避難先で行政サービスを受給できるように弾力的に運用している。

 例えば、児童・生徒の区域外就学は移転元と移転先の両自治体が協議して移転者を受け入れる手続きが行うが、文部科学省は転学手続きの書類が整わなくても転入できるようにした。介護認定でも、厚生労働省は介護保険証がなくても避難者が介護認定できるように周知した。

 ただ、仮にこの弾力的な運用が長期化した場合、避難者が行政サービスを確実に受けることができるか分からず、社会福祉施設やごみ処理施設などの拡充など避難先自治体でも財政負担が増える懸念もある。

 特例法案による行政サービスは、まず総務相が指定する避難元自治体が、避難者に提供できない行政サービスを総務相に届け出る。総務相は避難先が行うサービスの一覧を告示し、避難先自治体に避難者の氏名や年齢などを通知する仕組み。告示したサービスの一覧のうち、避難先自治体に依頼しないものは避難元自治体が避難先自治体に連絡する。

 避難先自治体は原則として事務処理にかかる経費は負担するが、サービスそのものの負担は「国は必要な財政上の措置を講ずる」と特例法案に明記した。また避難先の社会福祉施設などを拡充する必要性が出てくることについて、片山善博総務相は「それぞれの施設を所管する省庁が必要な予算が確保できる措置を講じてもらいたい」と述べ、今年度第3次補正予算案で財政措置を行うよう財政当局に要請する意向を示している。

「住民移転者協議会」を設置へ

 全国に散らばった移転者と避難元とのつながりを保つ仕組みも特例法案には盛り込んだ。避難元自治体は申し出た移転者に対して、

(1)県や市町村の情報を提供する
(2)訪問事業や交流促進の事業推進に努める
(3)住所移転者との関係維持を図る施策を講ずるよう努める---の3点を行う。

 この3点に関する移転者の意見を聞くため、「住所移転者協議会」も設置できる。

 今回の特例法案は、片山氏と福島県飯舘村の菅野典雄村長が5月9日に会談してから検討が進んだ。片山氏は同日、「避難先でも住民サービスを受けられることが重要だ。特別立法や法改正などを検討している」との考えを表明。その後、片山氏は6月4日に原発被災地の同県双葉郡8町村や田村市、南相馬市、川俣町、飯舘村の12市町村から要望を聞いた。7月4日には仮設住宅や避難所を設置して避難者を受け入れている福島市や会津若松市など11市町村から行政課題などを聞いた。

 特例法案を提出したのは、原発被災地では避難が長期化する恐れがあることも一つの要因だ。福島県では現在、原発被災地を中心に約7万5000人が避難を続けており、そのうち県外への避難者は約4万5000人にのぼる。

 避難が長期化した例は、雄山が噴火した東京都三宅村があり、00年9月から4年5カ月間にわたって全島避難した。新潟県山古志村(05年の合併により現長岡市)も、04年10月の中越地震によって全村避難し、仮設住宅を解消するまで3年以上かかった。三宅村は避難指示の解除後、山古志村は仮設住宅の解消後とともに約7割がそれぞれの村に戻った。

 今回の原発事故で全村が計画的避難区域となった飯舘村の菅野村長も「地震発生時の村民の7~8割か、それ以上が戻ることを目指したい」と語るが、帰還時期の見通しは立たない。

 総務省は、原発被災地の固定資産税などの減免措置を盛り込む地方税法改正案も国会に提出した。対象は警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域の中で市町村が指定する区域。

 原発事故で使えなくなっている土地や家屋について、今年度分の固定資産税と都市計画税を免除する。警戒区域に宅地や住宅を持つ住民が、避難先で新たに宅地や住宅を取得した場合は、避難元の宅地と住宅の面積相当分の不動産取得税を軽減する。

 地震や津波で被害を受けた地域に関しては、既に固定資産税などを減免する改正地方税法が4月に施行されたが、今回は範囲を原発被災地にも拡大して適用する。税免除で減収となる市町村に対しては、減収分の全額を普通交付税で措置する。総務省は特例法案と地方税法改正案を原発避難者支援2法案と位置づけている。

 地方自治に詳しい大森彌・東大名誉教授は特例法案などの対応について「住民がいるかどうかが地方自治体の根源。仮に避難者全員が避難元市町村から転出すると避難元の自治体はなくなる。避難元の住民に対して法律上の地位を維持していくことがポイント」と話した。

 地方自治法でいう自治体は地理的概念だ。福島県では原発被災地の9町村が役場ごと域外に移転している。現行の地方自治法は域外に役場や住民が長期間にわたって避難することを想定していない。

 大森名誉教授は「地震や津波の被災地は復興のめどをたてやすいが、原発被災地はいつ戻ることができるか分からない。それに避難者の土地への記憶がだんだんと風化していくことも防がなければならない」と語り、行政サービスの提供や「住所移転者協議会」の設置などを通じて、避難者と避難元自治体とのつながりが維持されることを期待している。

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