東京第5検察審査会「小沢一郎起訴相当」決議を会計的に解析する
会計のプロが徹底分析

 東京第5検察審査会が、政治資金団体陸山会の土地購入をめぐる政治資金収支報告書虚偽記載事件において、2回目の起訴相当決議を行った。改正検察審査会法の規定に基づき、小沢氏は強制起訴され、その身の潔白を法廷で争うことになる。

 検察審査会の強制起訴の妥当性をめぐっては、政治家や司法関係者が、国会やマスコミで喧々諤々の論争を繰り広げている。しかし私には、これらの論争が何らかの建設的な意味を持つとは思えない。なぜなら論じる人の中に、この問題の会計的側面に論及している人が誰も居ないからである。

 もとより政治資金収支報告書とは政治団体の会計報告書なのであり、すべての会計には会計上のルールがある。

 ルールを知らずにルール違反(虚偽記載)を論じても無意味ではないか。そこで東京第5検察審査会起訴相当決議の会計的解析を行ってみた。

 東京第5検察審査会が指摘する犯罪事実は、東京都世田谷区の土地3億5261万6788円の取得に関する会計処理、並びに、この土地取得に先行して行われた小沢氏からの4億円の資金供与に関する会計処理の2点より構成されている。

 そこで、まず、世田谷区の土地取得について検討する。検察審査会は、平成16年10月に土地代金3億5261万6788円が支払われたことを根拠として、この土地取得が平成16年度の政治資金収支報告書に計上されなかったことを虚偽記載としている。

 陸山会側では、世田谷の土地の本登記が平成17年1月7日であることから、この土地を平成17年度の取得として政治資金収支報告書に計上したが、検察審査会はこれを偽装工作として断罪している。

 ここで問題となるのは、土地の取得を代金の支払時点で計上するか(代金支払説)、あるいは登記の完了時点とするか(登記完了説)の会計処理である。この点に対する会計上の正解は簡単だ。どちらでも良い。公正ナル会計慣行上、土地の取得は代価の支払時点で計上しようが、登記の完了時点で計上しようが、財務諸表作成者の自由なのである。実務においても両手法はあまねく混在している。

 陸山会の場合は、代価の支払が平成16年の10月で、登記の完了が翌平成17年の1月なので、この間に決算報告期末の12月31日を挟んでしまっている。ここで、登記完了時点で土地資産を計上する場合、すでに支払済みの土地代価は未だ土地資産に転化しない金銭債権という事になり、これを会計上「前渡金」という。

 すなわち、登記完了説をとる場合、12月31日の決算報告時点での支払済の土地代金は前渡金となる。これに対して、代金支払説をとる場合は、支払代金はそのまま土地として処理される。

 どちらにしたところで、内訳としての前渡金と土地との資産科目の違いに過ぎず、報告体の財政状態や経営成績に対する影響があるわけではない。要は大した話ではない。

 ところがここに政治資金規正法が絡むと、話は俄然ややこしくなってしまう。なぜなら、政治資金規正法は部分単式簿記を前提としており、登記完了説をとった場合に出てくる前渡金には、資産計上が求められていないからである。

 政治資金規正法第12条において求められる政治資金収支報告書の記載事項は、政治団体の「収支とその他の事項」とされている。

 ここで「その他の事項」としては、不動産、取得価額100万円超の動産、預貯金、金銭信託、有価証券、出資金、貸付金、支払金額100万円超の敷金、取得価額100万円超の施設利用権、並びに、100万円超の借入金が限定列挙されているに過ぎない。この規定では、土地取得の前渡金3億5261万6788円は政治資金収支報告書に計上すべき項目とはされていない。

 陸山会は土地の資産計上につき登記完了説をとったため、世田谷の土地取得は、その代金支払年度である平成16年度ではなく、登記完了年度である平成17年度の政治資金収支報告書に計上された。

 登記完了説をとった場合、決算報告時点における支払代価3億5261万6788円は前渡金となるが、前渡金は政治資金規正法第12条に定める政治資金収支報告書の記載事項ではないので、平成16年の陸山会の政治資金収支報告書に計上されていない。

 本件土地取得に関する陸山会の会計処理は、公正ナル会計慣行並びに現行の政治資金規正法の定めにまことに忠実であり、この会計報告に対して虚偽記載を主張する事は出来ない。

ふたつの4億円処理に問題はあるのか

 次に、土地取得に先行して行われた小沢氏からの4億円の資金供与について検討する。ここで問題とされている小沢氏から陸山会への4億円の資金移動は、実は2本ある。

 最初の4億円は2004年10月上旬のこと。小沢氏の説明によれば、この金は、陸山会が東京都世田谷区の土地を購入するに際して当座の資金がなかったので、自分が一時用立てたものとのことである。

 この現金授受には金銭消費貸借契約書も作成されていなければ、返済期間や金利の定めも一切なされていない。この資金移動は平成16年度の政治資金収支報告書に記載されておらず、第5検察審査会はこれをもって政治資金収支報告書不記載の犯罪事実としている。

 さて、陸山会は2004年10月29日午前、東京都世田谷区の宅地を3億5261万6788円で購入し、その土地代金支払の数時間後、石川議員は、他の小沢氏関連の政治団体から陸山会に合計1億8千万円を移し、残っていた資金と合わせて陸山会名義で4億円の定期預金を組んだ。

 そして、小沢氏は、この定期預金を担保に個人名義で銀行から4億円の融資を受け、同額を陸山会に貸し付けたという。こちらの4億円は平成16年度の政治資金収支報告書において小沢氏からの借入金として計上されている。

 二番目の4億円は小沢氏から陸山会への貸付金であり、陸山会はこれを借入金として政治資金収支報告書に記載している。そこで一番目の4億円が問題となるが、小沢氏は「自分が一時用立てた」と言っているのであるから、この金は使途の最終形態が不明確なまま一時的に移動した資金ということになる。

 会計上、このような資金移動を仮払・仮受という。陸山会が小沢氏から受取った一番目の4億円は、会計上の仮受金と評価するのが正しい。

 小沢氏は、10月29日に出した2番目の4億円を陸山会に貸付けたと言うのであるから、そのときの4億円は小沢氏の金だったはずだ。だから定期預金を担保にしてその4億円を銀行から借りたのも小沢氏である。そうすると、小沢氏が担保にした定期預金は一体誰ものかということになる。

 ここで小沢氏は政治団体名義の定期預金を自ら銀行担保に差し出し、借りた金はしっかりと自分の金として政治団体に貸付けている。

 このことから、小沢氏がこの定期預金が実質的には自分のものだと思っていたことが分かる。そして陸山会側もまた、この小沢氏の言動に即した会計処理を行なっているのであるから、定期預金は実質的には小沢氏のものだと認識していたことになる。

 ならば、陸山会は、あの10月初旬に小沢氏から用立ててもらった1番目の4億円の仮受金を、この定期預金で決済(返済)したことになるではないか。

 さて、東京第5検察審査会は、「陸山会が、平成16年初めころから同月27日ころまでの間に、被疑者から合計4億円の借入をしたのに、平成16年分の収支報告書にこれらを収入として記載せず」として不記載罪を主張している。ということは1番目の4億円を政治資金収支報告書に収入として記載しなかったことが、政治資金規正法違反の犯罪になると考えていることになる。だが、この主張はそもそもの理屈が間違っている。

 なぜなら、1番目の4億円は、会計期間中に決済された仮受金となり、期中決済された仮受金は資金残高には一切影響しないのであるから、これを書く、書かないは、政治資金収支報告書作成者の任意となるからだ。陸山会がこの仮受金を政治資金収支報告書上の収入として計上しなかったのは、正しい会計処理なのである。

 公正ナル会計慣行上計上しなくとも良い仮受金収入を計上しなかったことをもって、政治資金収支報告書不記載を主張する事はできない。

 もとより私は、会計人として、小沢氏の本件4億円を含む資金原資全般に対し、常人以上の強い疑惑を感じるものである。しかし、同時に私は、日本国民の刑事責任は、法と証拠のみに基づいて追求される得るべきものであることを知っている。小沢氏の資金源泉に対する疑惑はこの例外にはならない。

 東京第5検察審査会は、陸山会の政治資金収支報告書虚偽記載における小沢氏の共謀を認定し、起訴相当決議を行ったが、この認定は間違っている。なぜなら、問題とされた陸山会の政治資金収支報告書には虚偽記載そのものが成立しない。従って共謀そのものがあり得ない。

 すなわち、東京第5検察審査会は起訴事実がないにもかかわらず、起訴相当決議を行ったのであり、その決議に基づく強制起訴は不当である。陸山会の政治資金収支報告書に対する公正ナル会計慣行が法廷で立証されることを期待する。

細野祐二(ほそのゆうじ)
昭和28年生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、公認会計士登録。KPMG日本(現あずさ監査法人)およびロンドンにおいて会計監査並びにコンサルタント業務に従事した後に独立、有能な会計士として知られた。しかし、シロアリ駆除の上場企業「キャッツ」経営陣による株価操縦事件に絡み、東京地検特捜部に粉飾決算の容疑で逮捕。裁判では会計学者から粉飾ではないとの鑑定意見が出され、また他の容疑者のよる被告に有利な証言が相次いだにもかかわらず、敗訴。その不可解な捜査の内幕と裁判の過程を描いた『公認会計士vs特捜検察』は話題になった。
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