菅 直人 ああ、男の嫉妬は見苦しい
「総理はオレだ、仙谷じゃない!」

もはや笑うしかない民主党劇場
「菅にしゃべらせるとロクなことがない」とばかり、やたら前に出てくる仙谷官房長官(左)。 ひたすら「失敗しない」ことを目的にした逃げの姿勢が、大官房長官の突出を招いた(右)。

 「仙谷総理!」。ヤジが飛ぶたび、菅直人首相はひどく傷ついた。なんだ? これはオレの政権だぞ? ささくれだった感情は、出過ぎた官房長官に向けられ、「嫉妬」の暗い焔が首相の胸を焦がす。

卑怯なオトコの宿命

 人間は生きている限り、他人を嫉み、妬むという感情から逃れることはできないという。ロシアの文豪・ドストエフスキーは、その作品中でこう記した。

「感情は絶対的である。そのうちでも、嫉妬はこの世でもっとも絶対的な感情である」

 嫉妬心に囚われた者は、その呪縛から逃れられない。とはいえ、それが男女間のものであれば、たいていの場合は痴話ゲンカ程度で済む。しかし、男の男に対する嫉妬が、しかも一国の政治を司る最高権力者の心に生じたとすれば・・・。それはとても厄介な代物と化す。

 菅直人首相は10月16日夜、首相公邸で福田康夫元首相と向き合っていた。話題の中心は、11月に横浜で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)について。'08年にサミットを主催した経験がある福田氏に、菅首相が助言を求めたのだという。

 だがその場では、こんな会話も交わされていた。

 ところで、以前の小沢さんとの大連立話は、どういう経緯で進められたんでしょうかね。

福田 あの時は、いろいろな人が関係していたから、ちょっと話せないよ。

 それじゃ、小沢さんに聞いたら分かりますか?

福田 小沢さんでも話はできないと思うけどね。

 それは、仙谷や枝野がいるからですか?

福田 え? いやいや、そういうわけではなくて。間に何人も人が入っているということなんだけど・・・。

 菅首相の悩みのタネは、現在の「ねじれ国会」だ。その解消には公明党など野党を懐柔する必要がある。そのためのコツを聞きたかったのか、それとも、まさかの「政界再編」を見越した質問だったのか。

 ただ福田氏は、菅首相の口から唐突に、仙谷由人官房長官や枝野幸男幹事長代理の名前が出たことに戸惑った。この文脈では、野党との連携に、あたかも「仙谷」「枝野」が邪魔であるかのように聞こえてしまう。

「仙谷がいなければ、何とかなるのではないか。いざとなったら切ってもいい」

 首相がそう考えていると誤解されても仕方がない。

 いまや菅政権は、「仙谷政権」と化した。これは誰もが認めるところだ。

 国会の答弁でも、菅首相が指名されているというのに、後ろに座る仙谷官房長官が「オレだ、オレだ」と手を挙げ、野党と激論を交わす。その自信過剰なさまは、「誰が"真の総理"なのか」を国民に疑わせるのには、十分な態度である。

 これに対して、菅首相に浴びせられるのは、「逃げている」「存在感がない」といった、情けない批判ばかり。

「質問には正面から答えようとせず、ずっとメモを読んでいる。野党時代の輝きはすっかり色褪せてしまい、残念ですね。もっとも、最初から語るべき国家像などを持たないまま、総理になってしまったのでしょう。女性の視点で言うと、すごく卑怯なオトコ(笑)に見えます。肝心な時に、責任を取らずに逃げる。そんなイメージがついてしまいました」
(衆院本会議で菅首相に質問をした、自民党の稲田朋美代議士)

 "逃げ菅"との評がすっかり定着した首相に対し、仙谷氏はまさに飛ぶ鳥を落とす勢い。官邸内の官房長官室には、連日、各省庁の官僚らが列を成して待機しているという。霞が関の官僚たちは、誰がこの政権の主で、誰が自分たちを庇護する者なのかを、完全に見切ってしまった。

「まずは"仙谷さま"に報告を」

 官邸を乗っ取った官房長官と、それに群がる官僚たち。いま民主党政権は、いってみればこの「カンカン」体制によって支えられているのだ。

 一方で、本来の「カンさん」こと、菅首相の周囲では閑古鳥が鳴いている。

「菅さんのところには、全然人が来ないんだよ」

 首相の側近、寺田学首相補佐官は、そう嘆いた。

 この惨状に、ようやく菅首相は気づいたのだ。官邸内も党内も、そして霞が関も、誰も自分のことを気にしていない。自分のことを、ただのお飾り総理だと思ってバカにしている―。

「なんで、全部仙谷なんだ。おかしいじゃないか。総理はオレなんだ」

 菅首相は最近、若手議員との会合で、

「仙谷はとても頼りになる。でも、煙たいんだ」

 そうホンネを漏らした。政権スタッフから絶大な信頼を受け、政権を一人で切り盛りするナンバー2・・・。懐の深い為政者であれば、その異才を十分に活用することで、国家の繁栄を築くことができるだろう。

 しかし、そんな"名君"の数は、歴史書を紐解いてみても極めて限られる。凡百の為政者にとって、「自分を遥かに超えて優秀な部下」は、いつか自分の地位を脅かしかねない、嫉妬の対象以外の何物でもない。菅首相も、すべてを「仙谷大官房長官」に丸投げし安穏としているうち、疑心暗鬼に陥った。

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