小沢一郎「記者会見」をラスプーチンが読み解く

これは民主党政権VS.検察官僚の「権力闘争」だ

 1月15日、石川知裕衆議院議員(民主、北海道11区)が、東京地方検察庁特別捜査部によって逮捕された。容疑は、政治資金規正法違反(虚偽記載)だ。検察の標的は石川氏ではない。石川氏を逮捕し、徹底的に揺さぶることによって民主党の小沢一郎幹事長を摘発しようとしている。

 2002年、「外務省のラスプーチン」こと佐藤優(筆者)を逮捕して、鈴木宗男衆議院議員をからめる事件を検察が摘発しようとしたときの図式に似ている。もっとも佐藤優を徹底的に取り調べても、鈴木宗男氏につながる事件はでてこなかった。検察の見込み捜査ははずれてしまった。あのとき筆者が検察に迎合して、実態と異なる鈴木氏を陥れる供述をしたならば、検察の描く事件ができあがっていたと思う。

 特捜部の取り調べを受けた経験がない人にはなかなか理解してもらえないが、被疑者や参考人が述べた内容がそのまま供述調書になるのではない。検察が描く筋書きに合致した内容だけが供述調書になる。取調室という密室で、検察官と被疑者の「共同作品」としての調書がどのようにしてできあがるかに関心をもたる読者は、是非、拙著『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮文庫)に目を通して欲しい。

 23日、検察は小沢幹事長に対する事情聴取を行った。同日夜の記者会見で、黙秘権を告知されたかという記者の質問に対して、小沢氏は、「私に対する告発があり、被告発人として説明をうかがうという話がありました。黙秘権もあるとうかがった。しかし、私は一切黙秘権を行使せず、すべて答えています。調書には2通、署名しました」(1月23日asahi.com。以下、小沢氏の記者会見に関する出典はこのasahi.com)と述べた。

 参考人としての調書であっても、公判では証拠能力をもつ。検察官が黙秘権を告知したのは、状況によっては、この調書が小沢氏を立件するのに用いられるからである。この場合、黙秘権を告知した後に取られた調書の方が、証拠能力が強くなる。検察は本気で、小沢氏の摘発を考えている。

 もちろん小沢氏もこのことを十分理解している。記者会見で、小沢氏は、朗らかな表情で、ていねいな言葉づかいをしていた。これは、検察・小沢戦争の帰趨において、テレビ映像が大きな影響を与えることを意識した上での対応だ。抑制された口調の中で、検察と徹底的に争う小沢氏の決意を読みとることができる。

 記者からの「水谷建設から事務所に金が流れているという情報があるが、それについて特捜部から話を聴かれましたか」という質問に対して、小沢氏は「それがメーンではないが、話はありました。私はそのような不正な金は、水谷建設はもちろん、ほかの会社からもいっさい受け取っていません。秘書らも不正な金は受け取っていないと確信していると申し上げた」と答えている。これは、検察が小沢氏に今後かけてくる容疑をあらかじめ全否定したものだ。

 また、「(1月16日の)民主党大会で検察のやり方は到底容認できず、断固戦う決意だと話しました」と記者が述べたのに対し、小沢氏は「不正な金をもらってもいないし不正もしていない。その主張は貫かなくちゃならない。ただ、公平公正に捜査をしていただく以上、今後も協力はしていきたいと思っています」と答えた。これは検察の捜査が公平公正でないという認識を小沢氏がもてば、捜査に協力するつもりはないという徹底的な抗戦宣言である。

 一部に、石川氏が罪を認め、議員辞職することで、検察と小沢氏が「手打ち」(和解)するという見方があるが、筆者はその可能性は低いと見ている。これは、「誰が日本国家を支配するか」をめぐって展開されている官僚と民主党の間で展開されている権力闘争だ。

 政界に小沢氏の影響力が残る限り、今後、人事、予算を通じて検察は締め上げられる。小沢起訴は検察の既定路線と筆者は見ている。

 検察として「勝利宣言」が可能な最低ラインは、小沢氏の幹事長辞任ではない。議員辞職だ。それにより、政界から小沢氏を排除し、鳩山民主党政権を弱体化し、できることならば瓦解させる。そして、今後、政治家が常に検察の意向を意識しながら活動するような「正しい政治文化」を定着させることが、検察官僚の集合的無意識なのである。

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著者:佐藤優
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