決裂回避が精一杯のG20慶州会議
そして高まる! 猛烈な円高の足音

〔PHOTO〕gettyimages

「我々は、経済のファンダメンタルズを映す形で、これまで以上に市場メカニズムが(水準を)決定する為替相場制度への移行を進めることによって、競争的な通貨の切り下げ(という行為)を慎む」――。

 首の皮一枚で残ったと言うべきだろう。

 韓国南東部の慶州(キョンジュ)で開かれた主要先進国と新興国の財務相・中央銀行総裁会議(G20)は23日、決裂という最悪の事態を回避し、この文言を含む共同声明(コミュニケ)を採択した。

 今回のG20は、自国通貨レアルの急騰を「通貨戦争」の仕業と断じ、不満を剥き出しにしていたブラジルのマンテガ財務大臣が欠席するなど、開催前から不穏なムードが漂っていた。最後まで、人民元相場の切り上げを巡る米、中2ヵ国の対立も解けなかった。

 それでも、コミュニケは「協調的でない対応は、すべての国々にとって一段と悪い結果をもたらす」とか、「すべての保護主義的な慣行に抵抗し、貿易の障壁を削減する顕著な進展を模索する」といった文言の挿入にかろうじて成功した。自由貿易体制の維持と国際協調の継続を謳いあげることができたのだ。

 とはいえ、コミュニケは、G20諸国に対して、強制力を以って、安値で放置されている通貨の切り上げや巨額の経常黒字を是正させる手立ては導入できなかった。

 日本にとって、歴史的な円高が一段と進み、投資の縮小と失業の増加が避けられない懸念が高まる結果に終わったのである。

 G20を3日後に控えた今月19日。中国人民銀行は米国をあざ笑うかのような先制パンチを放った。

 金融機関の基準金利(期間1年)を翌日から0.25%引き上げて、融資のそれを5.56%、預金のそれを2.50%にすると発表したのだ。中国の利上げは2年10ヵ月ぶりのこと。狙いは、国内のインフレ懸念を払しょくすることにあるという。

 しかし、あえて、この時期に利上げに踏み切った理由がそれだけとは信じ難い。

  欧米先進諸国は、軒並み巨額の財政赤字を抱えて財政政策を出動しにくい中で、このところゼロ金利や流動性の供給を柱とした金融政策を積極化して、国内景気のテコ入れを図っている。中国を含む新興国は、先進諸国が金融緩和に伴う通貨安を結果的に貿易拡大に役立つとみて放任していると苛立っていた。時ならぬ利上げには、そうした欧米諸国との違いを鮮明にする狙いもあったとみられている。

 特に、米国では、米連邦準備理事会(FRB)が11月2、3の両日に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)で、追加緩和に踏み切る公算が強いとされている。それだけに、G20を睨んで、中国が強烈な先制パンチを見舞ったとみる通貨マフィアは少なくなかった。

 実際にG20が始まると、期待された以上に熱心な姿勢でコミュニケ取りまとめに奔走し、存在感を誇示したのは、議長国、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領だった。

 同大統領は開幕を告げる演説で、「G20にたいした成果は期待できないと見下している人が多い」と指摘。そんなことは許されないとして、「(合意に至らなければ)皆さんの帰途のバスや列車、飛行機を動かなくするかもしれない」と冗談を交じえながら、参加国に結束するよう呼びかけたという。

盛り込まれなかった数値目標

 米国代表のガイトナー財務長官は、G20開催直前に、各国に書簡を送り、通貨の切り下げ競争を慎むことと、各国に上限目標を設けて経常黒字の抑制に取り組むように提案したそうだ。

 そして、会議が始まると、経常黒字をGDP比で4%以内に抑え込むという数値目標の導入を各国に要求した。

 国際通貨基金(IMF)の経済見通しから試算すると、2010年は、G20諸国のうちサウジアラビア、ドイツ、ロシア、中国、日本、韓国、アルゼンチン、インドネシア、EUの9ヵ国(地域)が経常黒字を計上する公算が強い。中でも、4%を超える黒字が見込まれるのは、サウジアラビア、ドイツ、ロシア、中国の4ヵ国という。これまでの対立の経緯を踏まえれば、米国が中国を狙い撃ちにしようと目論んでいたことは明らかである。

 しかし、新聞報道によると、数値目標には、当の中国だけでなく、ドイツも強く反発したらしい。日本も歯切れが悪かったと報じられている。

 最終的には、コミュニケに、こうした数値目標が盛り込まれることはなかった。単に「過度の不均衡を削減し、経常収支を持続可能な水準で維持するため、あらゆる政策を追及する」との文言を盛り込むにとどまった。この程度の内容では、通貨戦争とまで呼ばれている深刻な通貨の切り下げ競争にピリオドが打たれるとは考えにくい。

 ちなみに、野田佳彦財務大臣は、コミュニケの「先進国は、為替相場の過度な動きや無秩序な動きを監視する」との文言について、「必要な時は、(市場介入も含めて)適切な協力を行うという意味だ」と新聞各紙に語ったという。

 だが、これには異論も少なくない。というのは、通貨安競争の回避が主眼のコミョニケを採択したのだから、円売り介入(円安誘導)がそれほど簡単に容認されるのは不自然だとの見方が多いのだ。

 実際のところ、今後の為替相場を睨んだ場合に気掛かりなのは、画一的に、「量的緩和」策とか、「ゼロ金利政策」と呼ばれているものの、各国の中央銀行が行ってきた措置は規模の点で比較にならないほどそれぞれ大きな違いがあるという問題だ。

 どういうことかというと、量的緩和を行えば国債や投資信託などを購入し、代わりに通貨を市場に放出するため、中央銀行のバランスシートが膨らむことになる。

 そこで、リーマンショック直前(2008年8月)と直近(今年10月)のバランスシートを比べると、日銀はわずか7.2%しか増えていないのに対して、欧州中央銀行(ECB)は1.5倍、FRBは2.6倍、そしてイングランド銀行(BOE)は3倍に、それぞれ資産を膨張させているのである。

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