不況知らずの米ペットビジネスがますます大きくなる理由とは? 

ニューヨーク・タイムズ USA

 ペットフードから医療品に至るまで拡大の一途を辿る「ペット経済」。世界最大のペット見本市からその成長の背景と今後の展望に迫った。

 今年の4月、米フロリダ州オーランドのオレンジカウンティ・コンベンション・センターで世界最大のペット見本市「グローバル・ペット・エキスポ」が開催された。

 会場内のブースではペットフード会社の社員が、“本日のメニュー"を紹介している。

「鴨肉のソテー、玄米とブルーベリー・コンポート添え。ローストターキー、ニホンカボチャとラセットポテト添え。サーモンのキヌア(栄養価の高い南米の穀物)添え・・・」

 なんと、これらの料理すべてが“ドッグフード"だというではないか。それも、そこらのものとは違うと社員は自信を見せる。それを証明すべく、味見までさせてくれた。

 人間の経済が再び停滞するなか、「ペット経済」が驚くほど打たれ強さを見せている。不況で一時減速したものの堅調な成長を続けており、市場調査会社パッケージド・ファクツによると、米国人が昨年ペットにかけた費用は過去最高の550億ドル(約4兆4000億円)に上る。これはベラルーシのGDP(国内総生産)を上回る数字だ。

 いま、米国はペット市場のになっている。そして高価な人間用の食材を用いた豪華なペットフードは、その一端に過ぎない。

 飼い主たち、あるいは業界用語でいうところの「親たち」は、ペットに人間並みの贅沢をさせ、人間並みの医療サービスを受けさせることに夢中だ。

 今日の甘やかされた犬や猫向けの商品には、おしゃれなレインコートから抗うつ剤、果ては人工睾丸まである。去勢手術を受けた犬や猫用の人工睾丸「ヌーティクルズ」は、一組およそ1000ドルの商品だ。考案者らによると、「ペットが生来の自然な外見と自尊心を保てるようにし、肉体の変化に伴うトラウマを和らげる」のが目的だという。

 ペット経済は実際、奥が深い。米ペット用医療品メーカー、ペッツライフの共同所有者を務める、スティーブ・ティベッツによると、人間用の成分で作られた同社の口腔スプレーは、犬の歯と歯茎の健康を守り、口臭を抑えるという。猫にも効き目があり、人間にも効くそうだ。ティベッツはスプレーを自分の口内に2度も吹き付け、実演してみせた。

「飼い主は自分のペットに夢中なんです。自分よりもペットにお金をかけるんですよ」と彼は言う。

 ペット市場を牽引しているのが、獣医療サービスの分野だ。米国のペットは、人間と同様に長寿化しており、人間の医療技術をペットに適用するケースも増えている。専門家によると飼い主たちは、医療面でも食事の栄養面でもより行き届いた世話をするようになっているという。

「たんに家を提供するだけではなくなっています」と、米ペット製品製造者協会のボブ・ベテーリ会長は指摘する。

「飼い主は、ペットの生活の質を維持するために投資しているのです。多くの場合、自分を犠牲にすることはあっても、“忠実な友"の出費を切り詰めることはありません」

 米業界誌「ペットフード・インダストリー」のジェシカ・テイラー編集長によると、同誌を創刊した4年前、ペットフード業界の流行は人間界より優に1年以上は遅れていた。それがいまは、半年足らずだという。

 テイラーは、ペットフードで次にヒットするのは、ブルーベリーとザクロだと予測する。近年、老化を防ぐその抗酸化作用が人間界で大きく取り上げられてきた食材だ。

 ペット産業は以前から、不況への耐性を自負してきた。そして今回の景気悪化で、その強さは証明されたといえる。確かに、動物保護施設は経済的な事情で飼えなくなったとみられる動物で溢れ返り、ペットを購入する人は減ったかもしれない。それでも関連商品などの売り上げが上昇したため、他の産業と比べれば業績は良かった。

"屈辱"から解放されるペット

 アナリストたちは、犬や猫用の高級おやつやフードをはじめとする健康関連の商品や、獣医療への需要増加に牽引され、ペット産業は回復を続けると予測している。

「自然派食品やオーガニック食品については、いまもかなり強気で見ています」と、パッケージド・ファクツでペット市場担当の上級アナリストを務めるデイビッド・ラミスは語る。こうした商品はペットフードの売り上げの約7%を占めているという。

「今後も大きな成長が見込まれます」

 米国でペットを飼っている家庭は全体の約62%を占め、そのなかでも犬を飼っている家庭は40%に上る。2番目に多いのが猫で34%。近年、鳥や淡水魚、爬虫類など他のペットの人気が下がっているにもかかわらず、犬や猫の飼い主はわずかながら増加し続けている。

 だからこそペット業者は、飼い主たちが再び大きく出費するようになると見込んでいる。ある業者は、犬が室内でも運動できるように、ランニングマシーンを販売している。これで愛犬がひび割れた歩道を歩いたり、雨に濡れたりするような“屈辱的な思い"をせずに済むようになる。

 環境に配慮した家具やグルーミング用品もあり、オーガニック栽培の竹から作られたウェットティッシュまである。あるイスラエルの会社は、死海のミネラル成分が入った犬用シャンプーを売り込み、オーストラリアの会社は、ビタミン入りの犬用ミネラルウォーターを売り出している。

ニューヨーク・タイムズ USA

 冒頭の見本市では、ペットフード関連のブースが大半を占めていた。その多くは「人間用の食材を使ったペットフード」というコンセプトを前面に押し出していた。

 米ヒルズ社の「サイエンス・ダイエット」は、太り気味の犬や猫の減量を助けるため、一食分ずつ個別包装されたフードを売り出した。米国のペットが、多くの飼い主と同様、体重に関する問題を抱えているからだ。

「ペットを減量させる餌のやりかたをご提案しています」と同フードの販売マネジャーを務めるマイク・グーチは言う。
「言ってみれば、ペットの体重管理の方法に〝パラダイム・シフト〟が生じたようなものです」

 餌の量を減らし、散歩の時間を長くするなど、飼い主が自己管理するほうが手軽で、安上がりなのではないか?

 だがグーチは、多くの飼い主にとってそれはかなり難しいと考えている。

「私たちがマクドナルドで食べる回数を減らせないのと同じことですよ」

COURRiER Japon
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