「武器輸出3原則の見直し」の本格的議論を避ける菅首相の無責任
足元の北沢防衛相は議論に前向き

「基本理念は変えていくつもりはない」――。

 せっかく関心が高まり始めていた「武器輸出3原則」の見直し議論について、菅直人首相は10月14日の参議院予算委員会で、素っ気なく、こう述べるにとどまった。まるで国民が関心を持つべき重要な議論は存在しないと言わんばかりの態度だった。

 なるほど、「武器輸出3原則」そのものを撤廃するとか、骨抜きにするという議論は極論だ。そういう類の議論に賛同する国民はほとんどいないだろう。

 しかし、「武器輸出3原則」に国民的な議論をしなければならない論点がないと言えば、それはとんでもない間違いである。

 むしろ、尖閣列島沖の中国漁船の船長逮捕騒ぎに端を発した中国との一連の摩擦は、日本の安全保障が安穏としていられる状況にないことを示したはず。

 一方、武器の開発・調達コストの高騰には歯止めがかからない。財政ひっ迫の中で、どうやって効率的に防衛能力の劣化に歯止めをかけるのか。今提唱されているのは、そうした観点に立った効率的な防衛支出確立の一手法としての「武器輸出3原則」の例外規定の検証なのである。

 面倒な議論を避けるのは、鳩山由紀夫内閣以来の民主党政権共通の特徴になりつつあるが、ここは政府に逃げずに真摯な議論を望みたい。

「武器輸出3原則」はそもそも、1967年に佐藤栄作内閣が(1)共産主義国、(2)国際紛争当事国、(3)輸出禁止を国連が決議した国――の3つを対象に表明したものだ。1976年になると、三木武夫内閣は、これを一段と厳格化した。「平和国家」の観点から、当初の3つのタイプの国々以外への輸出も幅広く禁じた。

 その後は、武器輸出3原則が長年、「紛争処理の解決手段としての武力行使」などを禁じた日本国憲法や、「持たず、作らず、持ち込ませず」を明記した非核3原則と並んで、「平和国家・日本」の国是として守られてきたことは周知の事実だ。

 それにもかかわらず、なぜ、今、「武器輸出3原則」の見直し議論が関係者の間で注目され始めているのだろうか。

 実は、直近において、この議論を提示したのは、菅政権の閣僚の一人である北沢俊美防衛大臣だ。北沢大臣はASEAN諸国などとの防衛大臣会合で今月半ばにベトナムのハノイを訪問した際に、ゲーツ米国防長官と会談し、東シナ海の安定や日米安保条約に基づく緊密な協力などを確認。あわせて、3原則について、「新たな防衛計画大綱の見直しの中で方向性をつくりたい」と発言。ゲーツ長官が「おおいに歓迎したい」と応じたという。

 直後の記者会見で、北沢大臣は「内閣の意見の統一が大事だ」と語り、閣内の調整にも強い決意を示していたとされている。

 結局、菅首相は国会での本格的な議論を避けようとする姿勢を採ったが、実は足もとでは閣僚のひとりである北沢防衛大臣が本格的議論と政府一丸となった対応を望み、そのことを表明していたわけだ。

防衛市場から撤退したいメーカー

では、武器輸出3原則の何をどう見直す必要があると、専門家たちは考えているのだろうか。

 筆者が今回、防衛省や財務省、経済産業省、あるいは経済界を取材したところ、輸出規制の対象にならない例外範囲を明確化したうえで、ある程度、緩和や拡大をしていくという意見に集約されそうだ。

 ちなみに、政府部内で「明確化」の必要性が指摘されるきっかけになったのは、産経新聞が10月14日付の朝刊で掲載した「武器輸出3原則 ねじれ配慮動かぬ首相」という記事である。

 この記事は、日米が共同開発を進めてきたミサイル防衛(MD)の海上配備型迎撃ミサイル(SM3ブロック2A)を米側が第3国に供与する意向としたうえで、「MD共同開発は3原則の例外とされるが、第3国に供与するには3原則の見直しは欠かせない」と述べていた。

 しかし、ある防衛省の中堅幹部はこう明かす。

「実際には第3国への供与に、3原則の見直しは不要なのです。防衛記事に定評がある産経新聞ですらそれを誤解しているようでは、国民に3原則がきちんと理解されなくなるという危機感が湧きあがったのです」

 さらに、その中堅幹部は、

「厳格過ぎる武器輸出3原則の運用を緩和・拡大しないと、日本の武器調達コストの抑制が困難なのです」と指摘する。

 わかり易いのが、米国から購入している戦闘機などの航空機の部品だ。最近は部品を輸入して日本で組み立てるノックダウン生産の了承を取り付けることが容易でない。調達コストを下げるために日本製の部品を組み込もうとすると、まず日本から部品を米国に輸出したうえで、その部品を組み込んだ完成機を米国から輸入するという手順が必要になる。

 しかし、武器3原則が障害になって、最初の日本からの部品の輸出ができないという弊害があるというのである。

 このほか、防弾ガラスに転用可能な戦車の窓ガラスの輸出も認められないとか、PKO部隊として派遣される自衛官の装備品も「武器輸出」扱いとなり3原則に則った煩雑な手続きが義務付けられるなど、馬鹿げた事態も少なくないという。

 こうした状況に愛想を尽かした企業があり、「本音では、市場からの撤退を希望しているところが少なくない」(経済団体幹部)という。要するに、防衛市場は、規模が小さく、成長性が乏しいうえ、輸出という活路もないから、他の市場に経営資源を投入する方が得策との判断が働いているのである。

 こうした中で、「防衛産業の空洞化を防ぐだけでなく、装備品の調達コストを抑制するには、3原則の例外部分の緩和は避けられない」(経済官庁官僚)という見方が広がっている。

 菅総理は面倒な議論を避けるばかりでなく、議論すべきことはきちんと議論する姿勢が必要ではないだろうか。

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