「円高無策」の日本は蚊帳の外 「基軸通貨」を狙うユーロと中国「連携」の動き
G20の裏側で何が起きるのか

 10月22、23の両日、G20の財務相・中央銀行総裁会議が韓国・慶州で開かれる。そこで、通貨が話題になっている。マスコミは通貨安競争との「言葉」に弱く、相変わらずさかんに煽っているが、その本質の理解へはほど遠い。

 通貨安戦争という言葉の裏に何があるのかは、先週の本コラムを参照してもらいたい。また、目先の円ドルレートが史上最高値の95年4月19日の79円75銭を超えるかどうかに関心が集まっている。

 こうした状況で、まったく信じがたい発言がでてくる。16日、日曜日朝のNHKの討論番組を見ていて出席者の事実認識には驚かされた。例えば、出席者の一人である大田弘子元経済財担当相は「円高ではなくドル安である」とし、「日本側の政策で対応できない」と発言した。これは事実とちがう。

 以下の図をみてほしい。米ドル、加ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、香港ドル、ニュージーランドドル、韓国ウォン、メキシコペソ、人民元に対する円のレートを、リーマンショックの前に2007年1月を基準として表したものだ。これを見ると、円はすべての通貨に対して高くなっており、まさしく「円高」だ。

 次の図は、加ドル、ユーロ、日本円、英ポンド、スイスフラン、豪ドル、香港ドル、ニュージーランドドル、韓国ウォン、メキシコメソ、人民元に対するドルのレートを表している。明らかにドル安になっているのは、加ドル、日本円、スイスフラン、豪ドル、人民元だ。ユーロ、ニュージーランドドルはややドル安、ドルペッグの香港ドルはほぼ同じ。英ポンド、韓国ウォン、メキシコペソは逆にドル高だ。これらを見ると、完全に「ドル安」とは言い切れない。

 「ドル安」という裏には、「円高」は「日本側の政策で対応できない」という思い込みがある。それはまったく誤りであることは、すでに本コラムで示した。

 円ドルについていえば、円とドルの相対的に少ない方の通貨がその希少性から高くなると、9割方説明できる。これまでも、米国の金融緩和によって、円がドルに比べて相対的に少なくなり、円高になってきたで、この説明が正しいことがわかる。

 さらに、15日、バーナンキ米FRB(連邦準備理事会)議長は、米インフレ率は事実上目標とする1.7~2%を下回っており、追加金融緩和を示唆した。このため、11月2,3日の次回FOMC(連邦公開市場委員会、日銀の金融政策決定会合に相当)で、FRB(連邦準備理事会)が金融緩和する観測を先取りして円高にふれている。


このメカニズムがわかれば、日本で政策的に対応できないという間違ったことは口にしない。米国と同じ以上に、日本が金融緩和すればいいのだ。今の日本は、先進国中で唯一物価上昇率がマイナスである。であれば、他国より金融緩和する大義名分はある。通貨安競争は必ずしも悪いことでないが、それに加わらず、円高とデフレを放置しておく方が、国民経済にとって罪悪だ。デフレ脱却とともに円高を吹き飛ばすために、日銀は金融緩和が必要なのだ。しかも、出遅れた分、日本は金融緩和競争に勝てるチャンスも大きい。

 このように簡単にできる政策があり、他国でもやっているのに、「日本では対応できない」といって、今は実質実効レートでみれば円高でないとか、円高は不可避だからそれに耐えるための競争力を考えよとか、というのは、まともな政策対応ではない。

 そういった人たちは、日銀の「包括的緩和」についても理解が不十分だ。「緩和」には、過去より通貨が増えるという日本基準と、他国通貨より相対的に増えるという国際基準がある。日銀の包括的「緩和」というのは日本基準での「緩和」でしかない。国際基準で「緩和」になっていないのは円安にならなかったことで明らかだ。

 企業、特に輸出関連の中小企業にとって、円高は死活問題だ。しかも、ここの企業では何もできない。対応できるのは日銀だけ。その無策ぶりは大きく国益を損ねている。

通貨問題は経済ロジックと国際政治のダイナミズム

 国際通貨問題は、このような国際経済ロジックの上に、国際政治が組み合わさるダイナミックな話だ。

 今の基軸通貨はドルだ。それは各国の外貨準備の構成割合をみても明らかである。

 米国はドルをどんどん増発すると、目先は景気回復に役立つ。しかし、増発しすぎると、国内がインフレになる。それゆえ、前回のFOMCでは、インフレ目標が議論されたようだ。ちょっと横道にそれるが、インフレ目標は日、米以外の先進国で採用されている。日本がその採用に熱心でないのは、どう考えても日銀の責任回避であり、いよいよ日銀は追い込まれた状況だ。

 米国では、明示的なインフレ目標はないが、予測として公表されている1.7~2%程度が事実上目標とされている。日本のように、実際のインフレ率をマイナスのまま10年も放置している国とはちがう、しかし、明示的なインフレ目標になれば、基軸通貨の垂れ流し批判にも応えることになる。遅かれ早かれそうなるだろう。

 しかし、国際政治の立場からは、ドル垂れ流しにみえる国際通貨体制は危う。そうなると、通貨第二位の地位にあるユーロが、今週末のG20あたりから、仕掛けてくることがありえる。基軸通貨の立場は、発行国にとって計り知れないメリットがあり、ユーロはそれを虎視眈々にねらっているはずだ。

 現に、フランスのサルコジ大統領は、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)を活用してドルに代わる仕組み作りを中国にも持ちかけている。ともにアメリカ一極体制にくさびを打ち込みたいユーロが中国と組む、ということは十分ありうる。

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