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こじあけられた被災地のATM6億円の記録
犯人グループは捕まらず

被災地では傾いたり横転するATMが続出。そのスキを狙われた〔PHOTO〕gettyimage

「原発20km圏内では他県ナンバーのクルマが多く目撃されていた。追跡すると逃げるので怪しいと言われていたが・・・」(福島県住民)。新聞やテレビではわからない、被災地犯罪の実態を追った。

防犯カメラは作動せず

 震災発生から1ヵ月ほど経った、4月半ばのこと。福島県内でコンビニを経営していたA氏は、はじめて店に戻ることにした。店が福島第一原発から20km圏内にあるため震災直後から近づいていなかったが、立ち入りが制限される「警戒区域」に設定されると聞き、その前に様子を見ておこうと決意したのだ。

 目を剥くような惨状だった。入り口にあるはずのATMが見当たらない。慌てて探すと、それは数m先、店内の陳列棚付近に横転していた。バールを使ったのか、側面がきれいにこじ開けられ、無残にも表面がパックリと開いている。一目で現金が抜かれているとわかった。

 ほかに盗まれたものはないかと店内を一巡すると、日用品や食材は物色された様子もなく、そのまま残っている。ATMだけが手際良く開けられていた。

「完全に現金目当てだ、と思いました。ATMをむやみやたらにボコボコにしているわけでもないので、慣れた手口だな、と。近隣ではほかにも被害に遭ったコンビニがあったようですから、住民が避難して無人化した街を狙って、何件も犯罪をこなしたのではないでしょうか」(A氏)

 過酷な被害に遭っても犯罪ひとつ起こさず、暴動どころか抗議すらせず寡黙に復興を目指す---。そんな日本人の姿を海外メディアはこぞって褒めちぎった。しかし、これまではあまり報じられていなかったが、被災地でATMから現金を窃盗する事件が相次いで発生していたことが発覚、各国から絶賛されたのとは違う「震災後の風景」が浮かび上がってきた。

 7月14日、警察庁がまとめた数字は衝撃的だった。3月11日から6月末までに確認されたATMからの現金窃盗被害は計56件、6億8400万円---。岩手、宮城、福島の被災3県で、金融機関やコンビニに設置されたATMがやられていた。

 事件は震災直後から起きていた。岩手県の地銀幹部が語る。

「狙われたのは釜石港から1kmもない、海岸の目の前のような場所にある支店です。この地域はごっそり津波でやられ、震災直後は余震もあったので実質的な〝立ち入り禁止区域〟になっていた。私たちも危険すぎて近づけなかったので、支店の営業はストップ、行員もいなかった。そこに犯人が現れたのです。

 支店の入り口のガラスは割れていたため、中に入るのは簡単だったでしょう。停電しているから、警備システムも防犯カメラも動いていない。そこで犯人はバールのようなものでATMをこじ開けようとしていたそうです。ただ、うちは震災直後にATMのカネを盗まれないよう警備をお願いしていたため、幸い近くにいた警官によって現行犯逮捕になった」

 同じ時期に宮城県石巻市でも事件が発生、コンビニのATMから現金を盗もうとしていた男が現行犯で逮捕されている。ただ、ATM窃盗の〝主戦場〟は岩手、宮城ではない。

 被害が集中していたのが福島県。56件のうち半分以上(34件、約4億7700万円)が同県内のコンビニなどで発生、さらにそのほとんどが福島原発から20km圏内の「警戒区域」での犯行だった。

「実はATM運営会社や金融機関などは震災直後からATMの盗難を恐れて、独自に現金回収を始めていた。瓦礫に埋もれたATMを掘り出したり、入り口に積み重なった何台もの車をかきわけて店内に入ったりと懸命の作業で、岩手や宮城では震災から1ヵ月以内にそのほとんどを回収しています。ただ福島に限っては被曝の危険があるため『防護服を着てから』『ガイガーカウンターを用意してから』と対応が後手に回り、回収作業が始まったのが4月以降になってしまった」(ATM管理会社幹部)

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