雑誌
牛肉だけじゃない
「いま福島県で起きていること」
新聞・テレビがパニックを恐れて
報道を自粛する

〔PHOTO〕gettyimages

「福島の食い物なんて誰も買わんよ。俺だって、自分の子には食わせないもん」福島県内のある農家の男性が、ふと漏らした言葉だ。表立っては語れない、生産者だからこそ知っている真実に迫った。

市民が作った放射能測定所

「こっちだって、危ない牛の肉は誰にも食べてほしくないし、出荷したくない。県のほうで検査して、大丈夫だって言うから売ったんだ。でも、一頭でも放射能にやられた牛が出たら終わり。この前、県の職員たちがうちで飼料に使っている稲わらを調べに来て、『基準値以下だから大丈夫です』って言ってたけど、結局、出荷できねぇんだろ。福島牛はこれで全滅かもな」

 福島県相馬市の肥育牛農家の男性は、あきらめた表情でそう呟いた。

 国が定めた放射能汚染の基準値を超える稲わらを食べた、いわゆる「セシウム汚染牛」問題は、あっという間に全国に広がった。7月8日に東京・芝浦と場で第1例が見つかって以降、10日余で、汚染牛の流通が確認されていないのは全国でわずか2県のみになってしまった(鳥取、沖縄。7月21日現在)。

 '01年のBSE(狂牛病)問題を受け、すべての牛に個体識別番号が付けられるようになり、スーパーなどで買った牛肉も、ラベルに記載された番号をインターネットで検索すれば、誰でも生産地を調べられる。新聞・テレビは、それを強調し、まるで汚染牛がすぐ見抜けるかのように報じている。ただ、宮城県や岩手県でも基準値超えの稲わらが見つかり、それを他県の畜産業者が購入していたように、もはや生産地がわかったところで、気休めにもならない。二言めには「風評被害を招くから」と、もっともらしい理由を挙げ、パニックを恐れて「不都合な真実」は報道を自粛するという姿勢は、無責任な国と同じだ。

 どうすれば我が家の食卓を守れるのか。その思いは、原発事故の被害にさらされながら、あたかも放射能をバラ撒く元凶のような扱いを受けている福島県に住む人々も同様である。

 7月17日、福島市内の福祉総合施設「福島テルサ」に、野菜、果物、牛乳などを手にした人々が集まっていた。この日、福島市民有志が立ち上げた「市民放射能測定所」がオープンし、一般の人々が持ち込んだ食品の放射線量を先着順で測定すると告知されていたからだ。

 家庭菜園で栽培したタマネギを測定してもらった白石章さんが語る。

「自分で作っていた野菜を測定してもらおうと思ったのは、この野菜が食べられるかどうかを確認するためではありません。『福島で作った野菜は食べられない』ということを確認しようと思ったからです。私には娘と孫がいますが、同じ福島市内に住む娘に、孫たちを避難させるように言っても、なかなか納得しない。今回の測定ではっきりした数値が出れば、さすがに孫たちを避難させるだろうという思いもありました」

 タマネギの測定結果は、4ベクレル(1kg当たり。以下同)。ドイツ製の「LB200」という測定機器は、ガイガーカウンターより精密な測定が可能だが、20ベクレル以下の低線量では誤差が出やすく、それを加味すると最大で14ベクレルになるという。国の基準値は500ベクレルだから、数値としては基準値をかなり下回っている。

 だが、以前は高校で物理の教師をしており、原子力や放射能汚染についての知識も豊富な白石さんは、こう続けた。

「国の基準値より低いからといって、安全だとは思えません。低線量被曝による健康被害にはわからないことがたくさんありますから。だいたい、日本の基準値は、たとえばチェルノブイリ事故で被害を受けたベラルーシと比べると5倍も甘い。政府が繰り返す『安全』を信じていたら、孫の命が縮まってしまう」

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