「師匠」田中角栄を封じにつくった政倫審出席が焦点となる小沢一郎「歴史の皮肉」

 今秋政局の最大の焦点は民主党の小沢一郎元代表の国会招致問題といっても過言ではない。小沢氏の弁護士は10月15日、先の東京第5検察審査会の「起訴相当」議決無効を求めて東京地裁に提訴した。岡田克也幹事長など民主党執行部はこの小沢氏側の"徹底抗戦"の構えに困惑しているかに見える。

 臨時国会召集当初、社民党を除く野党各党は小沢氏の証人喚問要求で一致していた。ところが衆参院予算委員会での与野党攻防が激しさを増してきた今週半ばになって、公明党が「証人喚問は各会派一致が原則」論を唱え始めことで野党内の足並みが乱れてきたことから、民主党執行部は小沢氏に衆院政治倫理審査会(政倫審。土肥隆一会長=民主党)での説明を要請する方針を固めたばかりだった。

 事実、菅直人首相は13日の衆院予算委員会で同氏の国会招致について、「本人の意向に沿わない場合でも、やらざるを得ない時には党として判断したい」と述べている。

 この菅答弁の翌14日午後、小沢氏側近の輿石東・参院議員会長は記者会見で「捜査のプロである検察当局が嫌疑不十分として不起訴処分をしたのだから、小沢氏が出席する必要はない」と異論を挟み、執行部を牽制した。

 一方、仙谷由人官房長官は同日夕、小沢氏側の提訴に関して「刑事裁判の中で争うしかないのではないか。弁護人が控訴棄却を申し立てるのが伝統的な法律家の方法だ」と述べた。

 今臨時国会審議の喫緊の課題である2010年度補正予算約5兆円の早期成立で与野党が一致している現状からすれば、落としどころは、やはり小沢氏の政倫審出席しかない。では、政倫審とはいったいどのような機関なのか。

 1983年12月にロッキード事件で田中角栄元首相に1審有罪判決(懲役4年の実刑判決)が下った2年後の85年12月、国会史上初の倫理チェック機関として発足したのが政倫審である。当時、衆院議運委員長として同審査会設立に動いたのが他ならぬ小沢氏であり、それに先立つ84年2月に衆院に設置された政治倫理協議会(政倫協)の座長にも就いている。

 同年5月末からの国会は、会期延長をきっかけに所謂「田中問題」のけじめをめぐって審議が空転した。まさに政治倫理問題が、当時の中曽根康弘政権を直撃した。小沢氏は一時期審議空転打開のために「1審有罪議員を国会法による懲罰の対象に加える」とまで言って、自民党内の根回しに動いたのである。

巧みな岡田執行部人事

 実は、その背景に当時の最大派閥・田中派(木曜クラブ)内の権力闘争があった。金丸信元副総裁や小沢氏などが田中角栄氏に抗して竹下登元首相を担いで「創政会」を結成するべく周到な準備をしていた時期だった。

 同派が「親田中」と「親竹下」に分裂する兆しが見え始めていた85年の年初、小沢氏は当時の衆院事務総長に対し「野党に予算案修正で攻められている。政倫審をつくるにせよ、証人喚問や有罪議員への辞職勧告などの国政調査権を持たさなければだめだ」と述べている。

 要は、小沢氏は政治師匠の田中氏から竹下氏に乗り換える過程で、沸騰していた政治倫理問題をテコにして田中氏牽制のために政倫審を設置したのだった。

 皮肉なことに、小沢氏はこの政倫審で弁明せざるを得なくなる可能性が高い。

 いま改めて見てみると、「反小沢」が主流を成す岡田執行部人事は実に巧妙である。菅首相のご意見番である江田五月党最高顧問(前参院議長)が倫理委員長、「ミスター・クリーン」の代名詞の岡田氏が幹事長、反小沢の枝野幸男前幹事長が同代理、川端達夫前文部科学相が衆院議運委員長、清廉潔白の権化の長浜博行氏が財務委員長、そして牧師でもある土肥氏が衆院政治倫理審査会長――。

 こうした陣立てを前に小沢氏は政倫審で弁明をすることになりそうだ。放ったブーメランは自分に返ってくるのである。

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