21世紀の怪物
中国とどう闘うか 後編

このままでは日本は必ずやられる
[3] 「公害はヘイチャラ、技術は盗む」
         驚異の経済発展 その光と影


上海市内の会計事務所。そこには、世界各国の「売却希望企業リスト」が揃えられている。日本企業も200社ほど登録されているが、買い手がつかないという。数年前まで中国は「超日」を目指していたが、いまや日本企業には見向きもしない。
リストを見に来た中国人起業家はこう語る。 「日本企業は儲からない。そのクセ、買えば、ハゲタカだなんだと口うるさい。『お願いします』って頭を下げてきても、買いたくないね」

 中国財界人が集まる会合ではいま、「抄底」なる言葉が飛び交っている。金融危機のショックからいまだ回復できない世界経済を尻目に、名だたるグローバル企業を「安値で買い漁る」ことを指すという。

 その実績は'09年だけで40件総額1250億元(約1兆5500億円)、買収先は先進各国の家電、航空機部品、半導体、携帯ソフトなどのメーカーから銀行まで多業種にわたる。さらに進行中の案件は100件以上、その額は5兆円を超えるともいわれているのだ。拓殖大学政経学部教授の朱炎氏が言う。

「中国政府はここ10年、『引進来』(海外企業を自国に積極的に誘致すること)から『走出去』(自国企業が海外に打って出ること)へと経済戦略の舵を切ってきた。その中で、技術力に勝る海外企業の買収を通じて、国際競争力を伸ばすことが推奨されました。そしていま、2兆4000億ドルという莫大な外貨建て資金を後ろ盾に、官民一体となって欧米のトップ企業に目を光らせ、あわよくば呑み込んでしまおうとしているのです」

自動車で世界一になる

 昨夏、中国経済団が、トヨタとゼネラル・モータース(GM)が合弁で設立した「NUMMI」工場へ視察に訪れた。メンバーは中国の政府・自動車企業関係者数名。日程には郡幹部との会談もセッティングされており、工場取得の協議がなされたようだ。中国が特に力を入れているのが、自動車メーカーの買収である。

 この1〜2年だけを見ても、吉利汽車が米フォード・モーター傘下のボルボに続き、世界第2位の変速機メーカーDSIのM&Aを実施。中国の重機メーカー・四川騰中重工はハマー買収を合意まで進め、北京汽車はGM傘下のオペル買収に名乗りを上げた(ともに最終的に断念)。富士通総研主席研究員の柯隆氏が語る。

「'90年代から中国は自動車世界一を目指し、トヨタのような総合メーカーを目指す『大』、国内向けのミドルクラス車を作る『小』、軽自動車を作る『微』として選んだ企業に資源を集中させる『三大・三小・二微』戦略を進めてきた。

 その成果もあり、中国メーカーのキャッチアップは予想以上に速い。10年前には自動車の複雑な金型など作れなかったのに、いまや日本メーカーに納めるレベルに達している。買収を通じて技術力はさらに向上しており、あと5年もすれば世界の名だたる企業と互角に戦えると見る専門家は多い」

 かつて「世界の工場」と言われた中国が、「巨大メーカー」に変わろうとしている。すでにノートパソコン、携帯電話、粗鉄などの生産量は世界トップ。開発が始まったばかりの鉄道技術の進展も著しい。

 今夏、中国版新幹線「和諧号」は最高時速416kmを実現し、世界最速の記録を更新した。世界の時価総額ランキングでは、米エクソンモービルなどを抜いて、中国石油天然気が1位に躍り出た('09年末時点)。ちなみに日本企業は一社もトップ10入りしていない。日本総研理事の湯元健治氏が言う。

「最近では環境ビジネスにおける中国企業のプレゼンスがすさまじい。たとえば太陽光発電の分野では、太陽電池モジュールの世界シェアベスト5に中国企業が3社も入っています。風力発電分野も急激に伸びていて、近い将来には世界トップを取る勢い。電気自動車にしても、中国最大手の『BYD』は米国投資家ウォーレン・バフェットが投資するほどの注目株。ダイムラー・クライスラーとの合弁会社を設立して次世代電気自動車を開発、'13年に発売を予定しています。ガソリン車では優る技術力を持つ日米欧メーカーですが、これは電気自動車時代にはほとんど必要のない技術になる。これからは中国メーカーが世界の上位を占めることになるでしょう」

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