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徹底検証「児童ポルノ禁止法改正案」の危うい中身
「単純所持」規制と、曖昧すぎるポルノの定義
---今国会に提出される問題法案を見逃すな!
「超党派で合意できることが望ましい」と語る小宮山氏。 ’09 年の3党合意に積極的に関わった一人である〔PHOTO〕鬼怒川 毅

 今から2年前、衆議院法務委員会で、一冊のヌード写真集が議論の俎上に載った。

 当時野党だった民主党の枝野幸男代議士(47)が、写真家・篠山紀信氏が撮影し、 '91年に出版された宮沢りえの写真集『Santa Fe』を例に、与党の自民・公明両党が提出した児童買春・児童ポルノ禁止法改正案を批判したのだ。

「単純所持の禁止は、警察が捜査する入り口を広げる」と批判する山尾氏。元検察官という経歴を持つ〔PHOTO〕鬼怒川 毅

 この時審議された改正案は、販売目的ではなくても、児童ポルノを所持しているだけで罰せられる「単純所持罪」を新たに設けたものだった。

 しかし、元々、児童ポルノの定義が曖昧だったため、『Santa Fe』を所有しているだけでも罰するのかという議論になったのだ。この〝サンタフェ論争〟が今夏、再燃する可能性が出てきた。

 今国会でまたもや審議入りすることが決まったのだ。

 後述するが、今回審議される児童ポルノ禁止法改正案は、漫画・アニメの表現規制にまで繋がる危険な法案である。

 今国会で自・公両党が提出する改正案は、 '09年に廃案になったものとほぼ同じ内容だ。「何人も、みだりに、児童ポルノを所持し、又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録を保管してはならない」と、単純所持罪を明記しており、違反すれば、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」が科せられる。

  '09年に改正案を提出した自民党・高市早苗代議士(50)は、単純所持罪を盛り込んだ理由を次のように説明する。

「インターネット社会では、一度流布してしまった映像、画像は回収不可能です。被写体となった子供たちの映像、画像は、次々とコピーされて拡散していくわけです。それに歯止めをかけるには、供給する側だけでなく、需要する側、つまり所有者に歯止めをかける必要があります」

 また、日本が「児童ポルノの一大供給国」として国際的に批難されていることもこの改正案の背景にはあるという。自民党の平沢勝栄代議士(65)が言う。

「インターネットで世界に拡散してしまうので、この改正案には外国からの要請という側面もあります。改正案の勉強会でも、先進国(G8)で児童ポルノの単純所持に罰則がないのは日本とロシアだけという報告がありました」

 しかし、山下幸夫弁護士は、今回の改正案には2つの問題があると批判する。

(1)児童ポルノの定義が曖昧であること

(2)「単純所持」を規制していること

 である。

 (1)の児童ポルノの定義は、現行法でも明記されており、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」という曖昧なものだ。結局、衆議院の解散総選挙で廃案となったが、民主党は '09年の審議で、服を着ていても児童ポルノに認定される可能性があるとして削除を求めていた。しかし、今回の自・公案ではこの文言は削除も修正もされてはいない。これに(2)が加わると、警察の恣意的な捜査が可能になると山下弁護士は指摘する。

「販売目的ではなく、所有しているだけの人を警察がどうやって見つけることができるのでしょうか。アメリカでは児童ポルノ所持の摘発のため、おとり捜査が行われていますが、日本でもこのような捜査が行われる危険性があります。乱用すれば、特に容疑のない人物の家にガサをかけることも考えられます」

 今回の自・公案に対し、民主党は '09年に提出した対案を練り直して7月中に提出する予定だ。その中では、児童ポルノの定義をより明確化し、単純所持については禁止するものの処罰は科さない方針だという。民主党WT事務局長である山尾志桜里代議士(36)が解説する。

「この法律は社会風俗に網をかけるものではなく、被害を受けた子を守る法律です。児童ポルノをただ持っているからといって一律に処罰の対象にしません。未成年者喫煙禁止法のように社会的な規範として認識してもらうことが大切です」

漫画とアニメは別の法律で

 民主党案は、自・公案に比べると規制範囲が限定され、単純所持罪はなくなる見込みだ。しかし、民主党内も一枚岩ではない。 '09年に3党合意の修正協議に参加していた民主党の小宮山洋子代議士(62)はこう話す。

「民主党がとがった案を出しても、ねじれ国会では通りにくい。私は自・公ともすり合わせていければいいと思います」

 実際、 '09年の審議では、民主党が自・公両党に歩み寄り、一度は「単純所持」に規制を設けることで同意した過去がある。今回も民主党が自・公案に歩み寄る可能性がないとは言い切れないのだ。

 この〝歩み寄り〟にこそ、漫画・アニメへの表現規制に繋がる危険がある。自・公案には、児童ポルノに類する漫画やアニメと、児童の権利侵害との関連性を調査研究するという検討事項が明記されているが、実は、 '09年に民主党の歩み寄りの中で一度は決まった3党合意は、この点についてさらに踏み込んだ内容だったからだ。前出の小宮山氏が言う。

「 '09年の3党合意では、漫画やアニメの規制については別の法律での規制を検討する、という付帯事項が付けられていました。ワイセツな漫画やアニメの規制は別途議論する必要があるでしょう」

 つまり将来的には、昨年12月に可決成立した東京都青少年健全育成条例のような規制が、法律レベルで行われる可能性があるのだ。しかし、「子供を守るため」という正論を振りかざして、漫画・アニメへの表現規制が進められるなどということは、到底許すことができない。

山本直樹氏は、文化庁メディア芸術祭優秀賞の受賞作『レッド』を「イブニング」で連載中だ〔PHOTO〕足立百合

 光文社から発行した短篇集『Blue』が '91年に初めて東京都青少年保護育成条例で有害コミック指定を受けた漫画家の山本直樹氏は次のように話す。

「時速60km制限の道路を誰も時速60kmで走っていないわけだけど、いざとなればいつでも捕まえられるわけです。そういう権力の自由裁量を増やそうとしているとしか思えません。日本の漫画にはいろんな種類の作品があって、その中には下品なものも下衆なものもあるから面白いんです。

 そして、何が下品で何が下衆かということは、お上かみが決めることではなく、読者が決めることです。また、『表現の自由』も黙っていて上から貰えるものではありません。その都度、確認していくことも大切でしょう」

 国会審議の行方を注視したい。

「フライデー」2011年8月5日号より

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