藤田康人(株式会社インテグレート社長)「ソーシャルメディア時代にマーケティングの必勝法はあるのか」
話題の本『どう伝わったら、買いたくなるか』著者に聞く

 まったく日本では知られていなかった「キシリトール」のブームを仕掛け、2000億円市場にまで成長させるなど、ヒットメーカーとして知られるインテグレート代表取締役・藤田康人氏の近著『どう伝わったら買いたくなるか 絶対スルーされないマーケティングメッセージのつくり方』が話題を呼んでいる。マスメディアの影響力が衰え、ソーシャルメディアが存在感を増す中でマーケティングはどう変わるのか、藤田氏にインタビューをした。

聞き手:瀬尾傑(『現代ビジネス』編集長)

---3.11で、メディアは変わりましたか。

藤田: そう思います。多くの人が、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアに触れる機会が増えました。4月以降少しユーザー数は落ち込んだ場面もありましたが、ソーシャルメディアの利用者に広がりが生れたことは確かです。震災や原発問題など画一的なマスメディアの報道に「この悲惨な報道でテレビは何を伝えたいんだろう」「被災者を追いかけてマスコミはどうしたいんだろう」などと、懐疑的な思いを抱いた人が多かったことの表れだと思います。

---マーケティングの世界でもソーシャルメディアの影響力は増しましたか。

撮影:前田せいめい(以下同)

藤田: もともと日本では、ソーシャルメディアの力は欧米程強くありませんでした。だから、少しは大きくなったかもしれません。しかし、絶対値ではまだまだです。ものすごく大きくなったかのような言われ方も一部でしていますが、リーチ力ではマスメディアには適いません。もっとも、ソーシャルメディアとマスメディアは、代替ではなく、補完の関係にあるものです。ソーシャルがマスにとって変わることはありません。テレビや新聞などマスメディアにはやはり強みはあります。マスメディアの不要論、滅亡論には違和感を覚えます。

日本はマスメディアが存在している珍しい国

---この本では日本とアメリカでソーシャルメディアの影響度が異なる背景に、マスメディアを巡る状況がずいぶん違うことを指摘されておられ、新鮮でした。

藤田: ええ。日本は"マスメディア"が存在している珍しい国だからです。巨大な全国紙がいくつもあって、さらには6つのキー局がテレビを支配している。まさにマスメディアそのものです。だから以前は、マス広告は「エースで4番」であり、マーケッターはここを押さえていればよかったんです。

 しかしアメリカには、全国紙はありません。ワシントンポストもニューヨークタイムズもローカル紙です。テレビの3大ネットワークも全米を覆うわけではなく、きわめて限定的です。そして、なにより日本にはない壁があります。時差です。リアルタイムのコミュニケーションが、実は難しい土壌なのです。だからマスメディアが育たなかった。そこに登場したデジタルメディアでは、時差を気にせずメールを送れたりチャットができたりします。ウェブは、アメリカにとって事実上初めてのマスメディアでした。だから、急速に普及が進みました。

---マスメディアの影響力が強い日本に、デジタルメディアの登場はどんな変化をもたらしましたか。

藤田: まず、扱われる情報量が圧倒的に増えました。触れるデバイスもパソコンや携帯などさまざまです。ということは、受け手には処理しきれない情報がたくさんあるということです。ですから、発する側が、これまでのような伝え方をしていては、伝わりません。それからデジタルメディアの登場で、情報をほしい側が、能動的に情報を取れるようになりました。自動車がほしいと思えば検索して自動車の情報を得られます。情報を発する側は、そこに広告を打つので、一見、効率がいいように思えます。