G7では対応できない中国「保護主義」是正の切り札は日米G2にあり
人民元の為替レート、高い関税、外資規制で守られた歪な黒字国

  リーマン ショック後の経済・金融危機から依然として立ち直れない世界各国は今、金融緩和によって自国通貨を安く放置する戦略を採っている。これにより、輸出を伸ばして、経済を下支えしようという算盤だ。この現象は、ブラジル政府の首脳発言をきっかけに、「通貨戦争」と呼ばれ、幅広く深刻な問題として認識されるようになりつつある。

  元凶のひとつは、中国による気の遠くなるような人民元の水準訂正の先送りだ。中国政府は2005年6月に、1㌦=8.28元に釘づけしてきた通貨の固定相場制を廃止すると発表、大幅な水準訂正の期待を世界に振りまきながら、その後は小手先の対応を繰り返してきた。

  固定制の廃止から5年半近くが経過した10月8日の対応をみても、大きな変化の兆しは見られない。中国人民銀行には、先手を打つことで、同日、ワシントンで開催されることになっていた「先進7カ国財務大臣・中央銀行 総裁会議」(G7)の参加各国の批判をかわす意図があったのかもしれない。人民元の新たな基準値を発表した。しかし、それは、1㌦を6.6830元にするという生温いものに過ぎなかった。中国は「05年以来の最高値」に人民元を誘導したと言い張るのだろうが、G7は、むしろ、あまりに遅い小出しの対応への苛立ちを隠せなかった。

 一方、ある程度予想されたこととはいえ、日米欧のG7は、これといった有効な手立てを打ち出せないまま閉幕せざるを得なかった。巨額の赤字を抱えるため財政の大胆な出動ができない中で、自国通貨安を招く金融緩和に依存している弱みを抱えているため、あまり強い態度に出られなかったのだ。

 とはいえ、中国が相変わらず発展途上国のような顔をして自国経済本位の保護主義をみせているのは、人民元の問題だけではない。工業製品には驚くほど高い関税を課している。一般の世界貿易機関(WTO)加盟国ならば許されない外資規制の多用も続けている。

 もはや、財務大臣と中央銀行総裁をメンバーとするG7は、中国の保護主義に対峙する戦略を話し合う場として十分な力のある存在とは思えない。むしろ、 日米の2カ国(G2)による新たな戦略を構築して活路を開くべき ではないだろうか。

言うまでもなく、G7で有効な交渉カードを構築できなかったことにより最も大きなダメージを受けるであろう国は、日本である。

 実際、8日のG7を受けて、ニューヨーク外為市場では円相場が4日続伸となり、この 日の取引を前日比で50銭の円高・ド ル安の1㌦=81円85~95銭で終えた。いよいよ1995年4月に付けた史上最高値(1㌦=79円75銭)を伺う水準に迫ってきたのである。日本のビジネス界にとって、これほどの悪夢は他にはないだろう。

 折からの少子高齢化と人口減少の中で、日本では製造業を中心に企業の間に、市場の潜在的な成長期待が乏しい日本にさっさと見切りを付けて、生産や事業の拠点を新興国に移転しようとの戦略が広がっている。

 そういう中 で、円高は、輸出企業の採算を一段と圧迫する要因だけに、企業の日本離れを加速する側面があるのだ。そして、産業が空洞化すれば、失業の増大や消費の縮小といった悪循環を招く恐れがある。

 念のため、今回のG7を振り返っておこう。日米欧が合意したとか、一致したとかいうのは「新興黒字国は為替レートの柔軟性を向上させる改革を実施すべきだ」「為替レートは経済の基礎的条件を反映すべきだ」といった口先の“認識”ばかりだ。

 もちろん、G7に出席していない中国から何らかの言質を取り付けるのは無理な話である。

 しかし、今後、中国が誠実な対応をしなかった場合、なんらかの対抗策を打つという迫力のある合意を構築できなかったばかりか、問題の新興黒字国は「中国」である、という名指しさえできない体たらくだったこともまた事実なのである。

 人民元問題を 巡る駆け引きの場は、とりあえず、韓国で今月下旬に開かれるG20の財務大臣・ 中央銀行総裁会議と、同じく11月中旬に開かれるG20の首脳会議の場に移るという。

 しかし、当の中国は、温家宝首相が「急激な人民元の上昇は、中国の輸出にダメージを与えるだけでなく、世界にとっての惨事になる」と一歩も引かない構えだ。

 中国以外の新興各国からは「先進国の低金利・通貨安こそ元凶だ」といった反発も根強い。

 人民元の水準訂正が容易に進むとは考えにくい状況なのだ。

 一方、前述したように途上国と見間違えそうなほど中国の保護主義政策は広範に及んでいる。換言すれば、人民元の為替レート問題以外にも、 もっと関心を払う必要があると言える。

 代表例のひとつは、工業製品に対する関税だ。例えば、乗用車の場合、日本が関税率ゼロ、米国が同2.5%なのに対し て、中国は25%と桁違いに 高い税率を課している。同様に、主な家電製品をみても、日本がゼロ、米国がゼロ~5%なのに対して、中国は5~30%とやはり高い水準に設定している。

 また、海外企業が高い関税や安い通貨という輸出のハンデキャップを回避するために現地生産を計画したとしても、事は簡単には進まな い。というのは、中国は外資規制を有する稀有なWTO加盟国だからである。

 しかも、こうした外資規制を、中国政府は、今後も可能な限り目一杯、利用していく構えを崩していない。

 中国政府は今後、電気自動車やハイブリッド車を生産しようとする企業の中国法人に対して、改めて規制をかけようと密かに中国メーカーとの間で検討を進めているという。中国国内の報道によると、資本の過半数を中国資本とすることを義務付けるだけでなく、生産過程のコア技術を中国側のパートナー企業に開示することまで義務づけるというのである。米国では、これを知った議会が早くも反発を強めており、公聴会や決議、制裁法案などを念頭に激しく抗議する構えを見せている。

そこで、日本政府に、G7ベースの対応に過大な期待を寄せるのではなくて、もっと直接的な対抗策として推進して貰いたい戦略がある。日米2国間(G2)ベースのFTA(自由貿易協定)やEPA(経済協力協定)がそれである。

 日米両国は工業製品の関税率をすでに大幅に下げている。仮に、2国間で、相互のメリットが大きい関税引き下げを行おうとすると、双方の国内の反対が根強い農業分野での関税見直しぐらいしか見当たらない。このため、 「労多くして、益少なし」とされ、これまで日米間のFTAやEPAは本格的な交渉開始が見送られてきた経緯がある。

 しかし、最近では、欧州連合(EU)と韓国のケースが注目されている。これまでFTAやEPAは、多国間の枠組みを決めるWTOの場における貿易自由化の論議が進展するまでの過渡期の措置、あるいはWTOの環境整備のための露払い的な措置とみなされてきた。しかし、その性格が変質し始めているのである。

 2国間、あるい は2地域間が、他者を排他的に扱う性格が強いことが、最近の FTAやEPAの特色だというのだ。

 もちろん、日米間のFTAやEPAは、そのような排他的な性格付けにする必要はまったくない。むしろ、それは忌むべきことである。

 しかし、両国は、GDPベースで見れば、依然として世界の35%を占める巨大な市場だ。一方、中国は、まだ内需が貧弱で、米国や日本と比べると、輸出に対する依存度が依然として高い。

 そこで、まず、日米FTAや日米EPAを構築し、このFTAやEPAに諸国の参加を促す戦略を採る。そして、このFTAやEPAに中国の参加を認める条件として、現在、中国が多用している保護主義的政策の放棄を迫ればよい。

貿易黒字を背景とした中国軍拡の脅威

 日米欧は、2001年に中国のWTO加盟を認めた際、事前の交渉で、巨大市場の中国を早く自由貿易体制に加えたいとの思惑から、中国に甘い顔をし過ぎた。中国に、保護主義的政策の完全放棄を強く迫らなかったのだ。これが、現在、中国を、自由貿易体制の中で、いびつで、異質な貿易相手国にしてしまった原因のひとつなのである。

 そこで、今後は、日米FTAや日米EPAへの参加という、新たなインセンティブを設けることによって、再度、中国に、貿易自由化交渉の席に着かせる戦略を採るのである。
一般論を言えば、保護主義的な政策には短期的に見て、自国の輸出企業を支援する効果があるものがある。しかし、それは経済力に見合った豊かさを消費者が享受することを犠牲にする施策に他ならない。

 中国は、国内の格差への不満をかわすため、高い成長を求め、輸出を伸ばしながら保護主義に走る無理を重ねている。が、本来は人民元を切り上げて、人民の生活の水準を引き上げれば、こうした対外摩擦のタネとなる保護主義的施策の重要度は下がっていく。保護主義の放棄は、内外の緊張を和らげる一石二鳥の政策になり得るはずなのだ。

 日本政府は、こうした観点から、中国に経済政策を啓蒙する役割を果たす必要もある。そのための道具立てとして、米国の協力を仰ごうというのが、日米間のFTAやEPAなのだ。

 大恐慌の時代、保護主義が経済のブロック化を招き、世界を第2次大戦に追い込んだ教訓も思いだすべきだ。中国が膨大な貿易黒字を背景に、海軍中心の軍拡に走っていることも世界の脅威である。

 尖閣諸島沖での中国漁船の船長逮捕問題で2国間関係が悪化して以来、菅政権は、言いにくいことを言わない事なかれ外交を強める一方に見える。

 しかし、言わなければならないことは、言わなければならない。

 今こそ、日本には、先に先進国化を実現したアジアの先輩として、中国に対して、保護主義との決別を迫る使命があることを自覚すべきではないだろうか。
 

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