時間がたてば立証は困難になる。被害者に記憶も証拠もあるうちに、国は「原発被害」の賠償基準、手続きを明確化せよ
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 福島県は、福島第一原子力発電所の事故に伴う県民の放射能被曝に関する健康調査を、全県民200万人に対して行うと発表した。同時に、18歳以下の県民については、長期間にわたって甲状腺に関する検査を行うと決めた。このことはいい。

 しかし、今月中旬に県民の手元に届いた県民健康管理調査の問診票には、事故後約2週間の毎日の行動を分単位で記すほか、3月末までに食べた野菜や果物、飲んだ牛乳の量まで書かなければならないという。ざっと4ヵ月も前の一日一日の行動をかなり覚えていないと、正しく書けない問診票だ。自信を持って正しく書ける県民はいったいどれくらい、いるのだろうか。しかし、累積被曝量について把握するためには、この程度の情報は必要なのだろう。

 考えずにいた問題について、気づかされて愕然とするということがあるが、本件はその類だろう。

病気と原発事故の関係をどうやって証明するのか

 福島県民に限らず、将来、放射能による健康被害が実現した人は、たぶん、自らの被害(たとえば癌や白血病の発病)が原発事故によるものであることを立証して賠償を求める必要があるが、一体何を準備して置くとそれが可能になるのか、今の段階では見当が付かない。

 今回の事故では、放射能被曝による急性の疾患で人が死亡したと見られる例はまだ報告されていないが、事故原発から放出された放射能の健康被害は、何年か後に発癌率が何%(ゼロ点何%かも知れないが)高まる、といった形で顕在化することが心配されている。

 一方、原発事故が無くても、癌や白血病に罹る人はいる。この場合、後年癌や白血病に罹った人は、自分の病気と原発事故との因果関係をどう立証すればいいのだろうか。

 現在、賠償の主体となると予想される東京電力は、賠償金を少なく済ませるために、「当然の企業努力として」主に法的な対抗措置を講ずるだろうから、被害者側の準備は相当に周到でなければなるまい。

 事故による放射能の被害者は、将来現実に放射能に由来する病気に罹る人達ばかりではない。

 放射能汚染の害を心配している人達も被害者だし、放射能汚染で商品の出荷が禁止された農家・漁業者・製造業者、さらには、出荷を禁止された訳ではないが、商品の汚染が心配されて商品が売れなくなったり、価格が下落したり、といった経済的な被害を受ける人や企業がある。観光などのサービス業の被害も甚大だ。彼らは、いつ、何を用意して、被害に関する補償を求めることができるのだろうか。

 放射能被害を心配している人の数は多いし、放射能の健康被害に絞っても汚染地域の人口の0.5%といった数でも相当の数の一般人が現実の被害者になる可能性がある。

 先ず、国は、原発事故の賠償に関する基準の素案を早々に発表すべきだし、議論を経て基準を早く確定すべきだ。

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