犯人はなぜ与党を標的にしたのか
「ノルウエー連続テロ」の影に浮かぶ「ヨーロッパの人種主義」

 人種主義と民族主義は、異なる概念である。

 アドルフ・ヒトラーが展開したナチズム(Nationalsozialismus)には、民族(Nation)という名がついているが、その本質は人種主義だ。人種主義は、民族や国家を超える現象だ。ヒトラーは、優秀なアーリア人種が世界を支配するのは当然であるという「血と土」の神話に基づいて、ナチズムを展開した。アーリア人種の特徴について、ヒトラーはこう述べる。

〈 すなわち、アーリア種族は---しばしば、ほんとうに奇妙なくらいの少ない人数で---異民族を征服し、そして新しい領域の特殊な生活環境(肥沃さ、風土の状態等)によって刺激されつつ、そしてまた人種的に劣った人間を多量に補助手段して自由に利用することに恵まれつつ、かれらのうちに眠っていた精神的、創造的な能力を発展させる。かれらはしばしば数千年、いや数百年もたたぬ間に文化を創造する。それらの文化は、前にすでに触れておいた、大地の特殊な性質や、征服された人間に調和しながらも、自己の存在様式の内面的特徴を、初めから完全にもっているのだ。

 だがついに、征服が自分の血の純粋保存という、最初は守られていた原理を犯すようなことになれば、抑圧されている住民と混血し始め、これとともに自分の存在に終末をつける。というのは、楽園での人間の堕落には、相変らずそこからの追放がまっているに違いないからである。 〉(アドルフ・ヒトラー[平野一郎/将積茂訳]『完訳 わが闘争(上)』角川文庫、1973年、415頁)

 生まれながらに優秀なアーリア人種がいる。アーリア人種は、他の人種を支配することが許されている。しかし、アーリア人種が他の劣等人種と混血をすると血の純粋さが失われ、アーリア人種は滅亡する。荒唐無稽な独断論だ。ナチズムはこのような神話に基づいて構築されたイデオロギーである。

無罪を主張する連続テロ事件の犯人

 ドイツ人はアーリア人種である。他の誰がアーリア人種に属するのだろうか。ヒトラーは、ノルウエー人がアーリア人種に属すると考えた。7月22日に発生したノルウエーの連続テロ事件を読み解く鍵が人種主義にあると筆者は考える。この事件で逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者は無罪を主張している。朝日新聞はこう報じた。

〈「イスラムから守るため」ノルウェーテロ容疑者無罪主張

 ノルウェーで22日に起きた連続テロ事件で逮捕されたアンネシュ・ブレイビク容疑者(32)の勾留延長を判断する審理が25日、オスロの裁判所で開かれた。容疑者は「(事件は)欧州をイスラムの支配から救うためだった」などと述べ、無罪を主張。裁判所は8週間の勾留延長を決定した。

 審理後に記者会見した判事によると、容疑者は犯行事実は認めながらも「国民に強烈なシグナルを送るためだった」と主張。与党・労働党の青年集会を襲ったことについては「労働党はイスラム教徒を大量輸入している」と述べ、移民に対して比較的寛容な政策をとってきた政府を批判した。

 「自分の組織にはあと二つの細胞がある」と、共犯の存在も示唆したという。

 容疑者は審理の公開と、何らかの「制服」を着用しての出廷を求めていたが、裁判所は非公開で審理。制服着用も認めなかった。

 一方、ノルウェー警察は25日、オスロでの爆弾テロ死者が8人に増えた一方、オスロ郊外ウトヤ島での銃撃テロの死者は当初発表より少ない68人で、計76人だったと明らかにした。 〉(7月26日asahi.com)

オスロでの爆弾テロ〔PHOTO〕gettyimages

 ブレイビクがイスラムを忌避するのならば、なぜモスクではなく、政府庁舎や与党・労働党を標的をしたのであろうかについて、合理的な説明ができなくてはならない。ブレイビクは、「国民に強烈なシグナルを送るためだった」と主張するが、どのようなシグナルを送ろうとしているのだろうか。さらにノルウエー国家が移民を受け入れるとどのような不都合があるのか。

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