官邸、歴史的敗北 また逃げた菅と仙谷
だから中国になめられる

 参院選でうやむやになった消費税発言、代表選での小沢氏懐柔工作・・・。菅首相はいつも逃げる。そして今度は、中国の恫喝からも尻尾を巻いて遁走した。「逃げ続ける男」に国家の命運は任せられない。

一矢も報いることなく

 ついにロシアまでが図に乗り始めた。中国とロシアは、胡錦濤国家主席とメドベージェフ大統領が共同声明を発表し、領土問題で歩調を合わせることを確認。大統領は、北方領土を「必ず訪問する」と宣言し、揺さぶりをかけてきた。

 中ロにいいように嬲られるニッポン。そのすべては、生き馬の目は抜く、水に落ちた犬は叩くという国際外交の厳しい現実から目を逸らし逃げようとした、菅直人首相及び仙谷由人官房長官の態度に起因する。

「すぐにニューヨークに電話をしろ。菅を叩き起こして、船長は釈放されると報告せい!」

 仙谷氏の苛立ちと疲労はピークに達していた。尖閣諸島付近の漁船衝突事件を巡る紛争で、日本側は中国人船長を逮捕したが、中国側は逆ギレで反応。日中関係はこじれにこじれた。

 ハイブリッド車の生産などに欠かせないレアアースの輸出停止、中堅ゼネコン・フジタ社員4人の中国国内での拘束・・・。中国側は「圧力」を強めていく。

 しかし、中国の暴力的外交に対し、日本政府は何も抵抗することができなかった。政権のツートップたる菅首相と仙谷官房長官は、次々と繰り出される中国の恫喝に戦慄し、最初から「逃げ腰」に終始したからだ。

 菅首相は国連総会出席のため、22日にニューヨークに向け出発する前から、

「こんなややこしい問題、早く何とかならないのか」

 と周囲に漏らし、無難な解決ばかりを急かしていた。今回の件は、日本領海を中国船が侵犯し、海上保安庁の巡視船と衝突したため、日本の法に基づいて公務執行妨害で船員らを拘束した・・・という極めて単純な事件。リーダーたる首相の役目は、日本の立場を毅然と主張し、ごねる中国及び国際社会に、その正当性を理解させることだ。

 ところが菅首相に、身体を張って中国と対峙する気持ちはさらさらなかった。時差もお構いなしに、ニューヨークから仙谷氏に国際電話をかけ、「とにかく早く収拾を」と迫った。

 留守を預かる仙谷氏からすれば、たまったものではない。仙谷氏にしても、事を荒立てたくないというホンネは菅首相と大差はない。ただ、首相の言うとおりにすれば、政府が司法に介入したことになり、逆に国民から猛批判を浴びるのは明らか。早く、早くと急かすのはいいが、その場合、アンタ責任取る気あるんだろうな―。

 面倒を押し付けるだけの首相の態度に仙谷氏もキレ気味。電話口では互いに声を荒らげ、怒鳴り合いに発展する一幕もあったという。

「そっち(ニューヨーク)には温家宝(中国首相)がいるだろう。そんなに心配だと言うなら、直接会談でも何でも、そこでセットしてみたらどうなんだ」

 しかし、現実には菅首相は、温首相からあっさり袖にされていた。「政治主導」を掲げる菅政権だが、強硬姿勢をエスカレートさせる中国と、まともに交渉できる政治家は一人もいない。

 現地で記者団に「せっかく同じ場にいるのだから、なぜ温首相と会って話をしないのか?」と聞かれた首相側近・福山哲郎官房副長官は、苛立ちを隠さず、こう吐き捨てていた。

「どうしろって言うの? 会ってケンカをしたって、何もいいことなんてない。180人も首脳がいるし、立ち話すらできないよ」

 政府は完全に袋小路に入り込んでしまっていた。

 こうして迷走の末・・・。日本政府が出した答えは、勾留期限を5日残した上での船長釈放(処分保留)という、中国に完全敗北したに等しい結論だった。

 そして混迷を極めた政権内には、無駄なしこりだけが残された。釈放にあたり、仙谷長官は9月24日午後の会見で、時差を理由に「米国にいる総理には数時間後に報告が届く」などと説明した。しかし、それはウソである。実際は冒頭に紹介した通り、仙谷氏は就寝中の首相を叩き起こして結果報告をした。それまでさんざん、時差を考えずに勝手なことを言って来た菅首相に対する、意趣返しのようにも見えた。

 真夜中に起こされ報告を受けた菅首相は、「ふーん」と不機嫌そうに反応しただけだったという。

 まるでヤクザ、チンピラのような論理で恫喝を繰り返した中国に対し、菅政権は一矢も報いることなく、すごすごと退散した。この歴史的な敗北は、今後の対中関係に、大きな禍根を残すことになるだろう。元内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、厳しく批判する。

「もはや危機管理能力云々、以前の問題です。中国は現在、恥も外聞もなく海洋進出による資源獲得に乗り出しており、尖閣諸島付近では、中国の船舶が公然と出没して、地元漁民たちが身の危険を感じています。本来なら日本政府は、即座に尖閣諸島にイージス艦を派遣して、日本国民を守る行動を起こすべきでしょう。それができないというなら、菅政権は国民の生命を守る気がないということです」

 しかも後々尾を引くのは、菅政権が国家外交敗北の責任を、「那覇地検の次席検事」という官僚組織の末端に押し付けた事実だ。

 中国人船長の釈放にあたり、那覇地検の鈴木亨次席検事は、「わが国の国民への影響と今後の日中関係を考慮して」などと説明した。司法担当者がこんな発言をすること自体、「超法規的な政府の意向が働いた」としか思えない。だが仙谷氏は、「地検の判断を了とする」と言うのみで、政府の関与を一切認めず、その後も否認し続けている。

「国家行政組織法のどこを見ても、これほど重大な外交問題を末端の官僚に押し付けていいとは一言も書いていない。さんざん"政治主導"を喧伝してきた結果がこれです。こんな責任逃れは絶対に許されない。仙谷氏は議員バッジどころか、弁護士バッジも外すべきでしょう」(佐々氏)

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