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大研究 東大までの人東大からの人 2010年度版
週刊現代 プロフィール

 だがアスペルガー症候群の学生は、大学から社会に出ようとするとき、大きな壁にぶち当たるという。精神科医の岡田尊司氏が説明する。

「アスペルガー症候群の人は、論理的思考や記憶が得意なので、受験勉強には強い人が多い。研究職にも向いています。でも会話のキャッチボールが苦手なので、面接には弱い」

 面接に弱いことは、そのまま就職活動がうまくいかない、ということを意味する。文学部4年の男子は、簡易チェックでアスペルガー症候群の要件を満たしたことを確認して言う。

「僕は留年して2回就職活動をしましたが、受験した数十社全て1次面接で落ちました。自分の意志は言えているつもりだったので不思議でしたが、今アスペルガーの判定を聞いて、納得してしまいました」

 エジソン、アインシュタインなど歴史上有名な天才にはアスペルガーだったと言われる人も多い。一部の東大生にとっては、「アスペルガー」が社会性が低いことの言い訳にもなっているようだ。冒頭の女性は語る。

「私は銀行志望でしたが、『東大生は出席すれば内定』と言われるメガバンクも全て面接で落ちました」

 そんな彼女だが、こうも言っていた。

「私は現状にそれなりに満足しているんです。仕事もやっていけていると思うし、今付き合っている彼氏は結婚しようと言ってくれていて、二人で貯金しています。結婚したら主婦になるのも悪くない、と思っています」

 彼女のいつもの作り笑顔が、その時は本当に嬉しそうに見えた。

[2] 天才はまだここにいる「東大から」のすごい奴ら

東大「総長大賞」を受賞

 昨年からスタートした裁判員裁判。その記念すべき第1号事件で、検察側は、3次元コンピュータグラフィックス(以下3DCG)で処理した司法解剖写真を、証拠として提示した。

東大総長賞を受賞した瀬尾拡史氏

 過去に例のないまったく新しい手法だが、この3DCGを独自に開発し、裁判での使用を最高検察庁に提案したのが、現在、東京大学医学部医学科6年生の瀬尾拡史氏(25歳)だ。

「裁判員裁判の映像は2週間でつくりました。検察の資料なので、外に持ち出すことはできません。授業やサークル活動が終わった後、夕方くらいから研究室にこもり、朝までぶっ通しの作業でした。解剖の写真や文章を見てCGに落としこめる人は、日本にはまだいない。おそらく僕が初めてでしょう」

 瀬尾氏はこの「司法解剖の鑑定書の写真を3DCG化する手法」で、平成21年度の東京大学総長大賞を受賞した。ちなみに総長大賞は、年間の総長賞受賞者のうち特に優れた業績を挙げた者に贈られる。一介の大学生が、いままで誰もやったことのない手法を開発し、現実の裁判で採用されたというのは驚異だが、瀬尾氏の「天才」ぶりを聞くと、それも納得できる。