企業・経営

「原子力損害賠償」政府案ではモラルダウンと混乱を引き起こす。東電処理は会社更生法を適用せよ

政策研究大学院大学 福井秀夫

国の援助よりも東電資産による負担が優先

 法と経済学の「最安価損害回避者の理論」によれば、損害の予防が、加害者、被害者又は第三者のいずれかの一主体にほぼ一方的に依存して可能な場合には、当該一主体が最も安価・容易に損害を回避しうる立場にあるので、当該者に無過失責任を課すことによって被害を最小化できる。今般の原発事故に当てはめれば、専門知見と実務処理能力において、原子力事業者たる東京電力(東電)が国よりも圧倒的に長けていることから、最安価損害回避者が東電であることは明白である。

 国との分担関係も含め、責任を規律する唯一の法である原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)の基本的な仕組みは、最安価損害回避者の理論に忠実である。原賠法3条1項本文では、無過失でも原子力事業者がすべての損害を賠償する責任を負う旨を定めるが、同但書により、「損害が異常に巨大な天災地変」に「よって生じた」ときは免責となる

 今般の福島第一原発の事故損害に関しては、過去原発周辺の津波履歴が確認されていたこと、電源停止に対するバックアップ措置の追加投資額が極端に大きいと予測されていたわけではないことなどを勘案すれば、今般は、「異常に巨大」な天災地変には該当しないか、仮に該当するとしても、東電による回避可能性が十分に存在した可能性が大きく、東電が原賠法上免責になるという法解釈は困難であろう(福井2011.7.13.付日経朝刊経済教室、図1)。このことは、東電自身が、有責を前提とする原賠法16条に基づいて国の支援を要請した事実からも明らかである。なお、東電の負担とは、株主、債権者、経営者、料金負担者などステークホルダー(利害関係者)による負担を意味する。

 地震による事故賠償については、政府補償契約が締結されており、上限を1200億円として国による補償給付がなされる。同16条により、国は、これを越える部分について東電が無限責任を負い、実際上は資産の限度で賠償することを前提に、残る賠償責任について「必要な援助」を行うと決めているのであって、同条には、東電の責任を縮減させたり、東電を債務超過にさせないように支援したりする趣旨は含まれていない。

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